NHKスペシャル 法医学者の告白の驚き

 法医学者とは死体解剖をして死因の判定をする特異な医師ということらしい。しかしその判定が警察捜査の際、様々に判断され、法医学医師が意図しない方向に利用されることが多々あり、誠に驚く次第であった。今回その事例として取り上げられたのは栃木今市の女子児童殺害事件だった。事件直後警察捜査は進まず事件は完全に行き詰っていたが、突然のように容疑者として一人の若者が逮捕された。この逮捕劇は私もよく記憶していた。若者は母親と同居していたが、その母親と内縁関係の男が若者を犯人ではないかと警察に通報したのだ。これには賞金が目当てだったと思われた。若者の趣味が刃物を集める事とかを疑問に思い、通報したという。捜査に行き詰っていた警察は若者を激しい尋問で追い詰め、自白に追い込んだのだ。その後若者は自白を取り消して無罪を主張した。その事件で法医学者が判定を依頼されたのは大きくは二点だった。一つは殺害現場に残された血痕のルミノール反応について、そこには多量のルミノール反応が写されていた。そのためここが殺害場所として特定されていた。しかし法医学者はこの反応が血液によるものとは断定できないとした。警察は当初ここを殺害場所と特定していたが、その後事件の経過を変更して、殺害場所は別の場所とした。もう一つは胃に残されていた食物だった。消化されていなかったので、殺害は食後数時間後と思われるが、特殊な事情があれば長く胃にとどまることもあり得る。それが医師の見解だった。しかし通常なら殺害が数時間であろうという見解だったが、警察はそれを都合よく解釈して、殺害は二日後で、食物はそれなりの事情で残っていたと判断されたのだ。様々な点から矛盾点が多く、犯人ではない可能性も高く、弁護団は間違いなく無罪として弁護しているが。裁判では自白こそ一番重要な証拠として取りあげ、無期懲役が確定し。若者は控訴をしている。法医学者の見解は犯人とする根拠は薄いとしているが。警察は都合の良い解釈をして利用した。法医学者の告白は、白か黒かの判断はできない、ただ死因についての見解で、分からないことは当然あって当たり前なのだ。その苦悩がよく理解できました。