朝、目が覚めると、妻はいなかった。
昨日、かなりの大ゲンカをしたから家を飛び出したのか?
部屋もかなり荒れている。ケンカの原因は、あいつの嫉妬深さだ。
すぐに俺が浮気してると決めつけやがる。女友だちからラインが
来ただけで「怪しい!」なんて言うのだ。勘弁してくれよ。
なんか、ひどく頭が痛い。硬いもので殴られたのだろう。
怪しいのはゴルフクラブだ。あいつは俺がゴルフに行くたびに
文句を言うが、つきあいなんだからしょうがないだろ。
まったく、大事なクラブなのに……
時計を見ると、午前十時を回っている。今日は日曜だから問題ないが。
いつもは日曜でも六時半には起きるのに、かなり夕べは疲れたのだろう。
トーストでも食べるか。冷蔵庫を見るが、とろけるチーズが切れていた。
もう、だから昨日、スーパーに寄ったとき「買うものないか?」って聞いたのに……
しょうがないから、マヨネーズをかけて焼いた。あいつはどうせ、横須賀の
実家にでも行ったんだろう。ケンカして飛び出しては、実家にいるんだから。
お義父さんは神奈川県警の警察官なのに、一人娘には甘いんだよな……
そう思っていると、電話がかかってきた。
妻の携帯だ。
「昨日は言い過ぎた」とでも言うのだろう。
電話に出て、「もしもし」と言うが、何の返答もない。
「もしもし!?理子か?」
全然しゃべらない。
ただ、電話の奥で「ゴボッ」という音が聞こえる。
「お前、今どこなの?」
「…………」
「なんだよ、あったまくる!」と言って、俺は電話を切った。
あいつは昔からそういうところがある。
嫉妬深くてわがままで、すぐ感情的になって人のせいにする。リビングには、
あいつが投げてきた雑誌や服が散乱していた。台所には、包丁が出しっぱなしだ。
ゆうべの記憶はあまりないんだが、そういえば、あいつが包丁を持って「殺してやる!」
って言ったんだよな。俺は総合格闘技をやってたから、包丁ぐらいでは驚かない。
俺を殺すなら、拳銃か何か、飛び道具でも持ってこなきゃ。俺は、頭を殴られて
あまり記憶がないのだが、夕べはかなり派手にやっちまったんだろう。
あいつの顔を殴っちまったかな?だから怒ってんのかな?横須賀のお義父さんに
夕べのこと言ったのかも知れない。俺は、あのお義父さんは苦手だ。あいつが実家に
帰るのは一度や二度じゃないが、そのたびに娘を溺愛するお義父さんに怒られる。
「だいたい、あんたの育て方が悪いんだよ!」
と言ってやりたいんだけど、お義父さんはマル暴の刑事だから、見た目も中身も怖い。
先に謝りに行ったほうがいいかな?そう思いながら、なんか体が重だるい俺は、
シャワーでも浴びることにした。疲れた体をひきずって、風呂場に向かう俺。
風呂場の扉を開いた俺は、夕べのことをはっきりと思い出した。
そうだった、忘れてた……あいつが包丁を振り回して、俺は手を切られたんだ。
俺の左手には、白い包帯が巻かれていた。それで頭にきた俺は、その包丁を
たたき落としたあと、あいつを風呂場に連れてきたんだった。そして、浴槽に
溜められていたお湯の中に、あいつの顔を沈めたんだっけ……
俺の目の前には、ぐったりとして頭だけお湯に沈めている理子の姿があった。
そして、浴槽の中には、理子の携帯が沈んでいた。じゃあ、さっきの電話は
ここからかけてきたのかな!?冷静でいながらも、非現実的なことを言う俺。
そして俺は、一言つぶやいた。
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「これ、完全防水だったんだ」