僕は高校生の頃、家庭のとある事情から朝刊の配達のアルバイトを余儀なくされてました。
真夜中から早朝にかけての仕事なので変に想像力が働き、
昼間見てもなんでもないような場所でも不気味に感じたものでした。
ただ、例外的に『昼間見ても不気味に感じる場所』もありました。
僕の配達ルートでは無いのですが、ちょうど僕が配達してる地域に
いわくつきの廃屋がありました。その廃屋は遡って十五年は人が
住んでいないボロボロの民家です。たまたまその廃屋の隣家に
配達しなければならず。
いつもその廃屋を横切る度に悍ましい思いをしていました。
ある日、いつもの様にその廃屋の隣家に配達するため廃屋を
横切ろうとした時、嫌な予感が頭を過ぎりました。廃屋の門前に
電柱があるんですが、その陰に子供らしき影があったんです。
その子供は電柱から身体の半分だけを出しこちらを見ています。
僕は固まりました……
するとその子供は突然!
『お父さん』
と言い僕の背後を指差します。
『何や、親子で夜中の散歩か…』
安心して後ろを確認すると僕の後ろには4メートル程ある巨大な
影が立ちはだかっていました。
『あははは!』
『あははは!』
『あはははは!』
子供のかたちをした何かがいきなり大声で笑い出し、
僕は我に返ってバイクを思い切り吹かして逃げました。
それ以来、あの廃屋には寄り付きたくもありませんでした。
しかしながら、この話には後日談があります……
あの廃屋でのおかしな体験から二年後 、僕はすっかり
あの恐怖感を忘れてしまっていました。体験はしたが、あんなに
怖かったのは自分がガキだったからじゃないか、とか自分の中で
あの体験から真実味が薄れてしまっていたのです。ある日、
恐怖好きの友人にその事を話すと即答で 「行ってみようや!」という
返事が返ってきました。予感はしていたし、覚悟もしていました。
むしろ、その返事を待っていたと言っても過言ではありませんでした。
計画はその日の夜中に決行され、以前あの体験をした時間帯、
いわゆる丑三つ時には僕を含む友人三人組(工藤・吉田・僕)は
問題の廃屋の門前に立っていたのです。決まり事のように僕が
先頭に立ち、その門を開けようと手をかけたところ、門は意外と
すんなりと開きました。足を踏み入れるか、否か……
そう考えていた矢先、友人の一人が背後で
「ひゃあ!」
とかすっとんきょうな声をあげたので驚き、振り返ると二人とも
腰を抜かして座り込み、更には僕の背後を指さして言葉にならない
呻きをあげているのです。それを見て僕はすっかり参ってしまい、
とても振り向く気になどなれず、二人の手を引っ張って引きずりながら
逃げました。しかし二人を引きずって逃げ続けることはできず、
途中で工藤とはぐれてしまいました。僕と吉田は恐怖に打ち勝つ事が
できず、結局工藤を探しに行くこと無しに各々の自宅へ帰りました。
空はもう白んで、太陽が見え始めていました。
翌日、学校に登校すると、工藤も吉田も問題無く登校していたので
昨夜の出来事について尋ねてみました。すると工藤も吉田も
口を開こうとしません。工藤にいたってはその日を境になんとなく
疎遠になってしまいました。と、言うより誰とも絡まなくなり、例の廃屋での
夜の一件から一週間もする頃には学校に来なくなりました。
工藤一人を放置したことに責任感を感じていた僕は吉田に、工藤の家に
お見舞いに行くことを提案し、その日の夕方に二人で工藤宅へ行くことに
なりました。
「ピンポン」
「ピンポン」
「ピンポンピンポン」
呼び鈴をいくら鳴らしても、誰も出てきません。
留守か……
そう思い帰ろうとした矢先、「ちょっと」と中年の汚らしい男に
呼び止められました。
「この家の人と知り合い?」
「はい」
「工藤君のお連れさんかな?」
「はい」
「名前は?」
「なんで名乗らなアカンのすか?」
そう言うとその男は懐から手帳みたいなものを取り出して
こちらに開示してきました。
それは警察手帳でした。
「この家の人、みんなこことはちゃう場所で見つかってん」
「……」
「君ら知ってるか知らんかわからんけど、ここまっすぐ行って
ちょっと北行った電波塔のとこらへんあすなろ団地ってあんにゃわ。
その団地にずーっと昔からなんでか取り壊されへん家屋があんねん」
「おとつい、その家が全焼したん、知らんか?ものすごい消防車やったで?
ほんまに知らんのか?」
「……」
「ま、ええわ、ほんで、その家ン中でここの家族見つかったわ。遺体で。
もちろん、全焼した家の中で見つかったんやから遺体は燃えとったけど、
死因は焼死かどうかはわからんねん。
工藤君の遺体はイスに縛り付けられてて、しかも首が無かった。
そしてその遺体を囲むように円形の模様が何かで床に描かれててな、
首は工藤君の対面に置いてあったイスに置かれとった。
両親はあの家の浴室で抱き合うようにして死んでたわ」
この男は一体どこまで話すつもりなのか、恐れ慄く僕らを見ながら
たまに誘い笑いをしながら話していた。
「また、なんかわかったら署まで連絡頼んますむわ!おっちゃんは
他殺やおもてるし、多分自分らの高校の子らなんかがあやしいおもてんねや」
そう言って署の電話番号が書かれたメモを僕らに渡して男は去って行った。
僕らはそのメモをぐちゃぐちゃにして捨てた。友人が死んだということが
信じられず僕と吉田はしばらく呆然としていた。今の今までべらべら
喋っていた男が本当に警察の人間だとも信じたくなかった。
僕はとりあえず気になっていたことを吉田に聞くことにした。
工藤一家のことはもちろん気になるし、あの廃屋の火事の事実確認が
したいのも勿論だがどうしても吉田にあの夜何があったのか聞きたかった。
「なぁ、あん時、何を見たん?」
「……ものすごでっかい影や」
「おれが見たやつやんけ!ほんで?」
「お前が見たやつかどうかは知らん。やけどその影はとにかく怖かった。
ほんま、あほみたいにでっかくて。指差しとったんや、工藤の事を。
指なんかあったんかどうか知らんけど、そう感じたねん。ほんで…」
そこまで言って吉田は口をつぐんだ。
「ほんで、なんやねん?」
「あんま、言いたなかったんやけど……その影、顔がお前の顔しとったんや。
ほんでものすごい顔でにたぁ~ってしとったで……おれにはそれが
どうゆう意味なんかわからんし。ほんまにそんな事があったってゆう事自体
信じられへんし、信じたくない」
数日後、工藤の親族が営んだ葬式に参列し、それからしばらくして
僕と吉田は何故か疎遠になってしまいました。工藤の一家の事件に
関しても何も進展は無く、何故か三年後に新聞に載りました。
それ以来この話は誰にも話さず、むしろ話すこともできずに封印してきました。
そして僕は今まで特に変わったこともなく生きてきています。
ただ、たまにふいにこの事件を思い出します。そして考えます。
自分の顔をした影がどうなったのかを……