本 (ナナシシリーズ04) | へたれの怖怖日記

へたれの怖怖日記

怖いのほんと苦手なのに、怖い話が大好きという
矛盾に苦しむへたれ男児のつらつら日記です。

今日は、僕がナナシと体験したなかで、1番気色悪かった

話をしたいと思う。幽霊とか死体とかそんなものより、

僕はあの日のことが怖かった。学生生活も残り半年あまりと

なった頃。


その頃すでに僕らは、進学組と就職組に別れ、それぞれの

勉強を始めていた。僕とナナシは進学組、アキヤマさんは

意外にも就職組で、その頃は次第に疎遠になっていた。

 

「イイの見つけた」
その日、視聴覚室に篭って勉強をしていた僕に、青灰色の

ボロい本を携えたナナシがヘラヘラ笑って近づいてきた。
その本は、どうやら図書館の寄附コーナーから、ナナシが

パクってきたらしい。僕らの地元にあるその図書館は、

木々に囲まれた公園の端に建っており、なかなか貫禄がある。
また、よく寄附本が集まり、なかには黒魔術なんかの怪しい本も集まる。
ナナシいわく、その中にたまにアタリがあるそうだ。


「で、それはアタリなわけだ。」
「アタリもアタリ、大アタリだ」
ナナシは笑った。普段はお調子者でヘラヘラしてて、クラスの人気者な

ナナシだが、ある日を境目に、オカルト好きな本性を見せるようになっていた。
「これ、革が違うんだよ」
ナナシが嬉々として本の表紙を摩った。僕も触れてみたが、たしかに

普通の本よりザラザラした革表紙だった。
「なんだよコレ」
聞いてもナナシは答えなかった。ヘラヘラ笑いながら、革を撫でている。
そしておもむろに本を開くと、「さあ、始めようか」と言った。

ナナシは僕にあの本を渡すと、視聴覚室の隅に立つよう命じた。
僕は今から何が起こるかもわからないまま、素直に隅に立った。
ナナシは本から切り取ったページを片手に、すごい早さで

黒板いっぱいに文字を書き出した。


英語なのか漢字なのかわからないが、みたことのない文章や図が

ズラリと並ぶ様は相当薄気味悪い。おまけにナナシは一言も

喋ることなく、まさに一心不乱といった様子でカツカツと黒板に

チョークを滑らせている。
「ナナシ、何だよこれ」
ナナシは答えない。

やがて書き終えたのか、ナナシがこちらに向き直る。
その顔はいつものヘラヘラした笑顔だが、何かが違う気がした。
「それ、読んで」
ナナシが本を指差す。雰囲気からして洋書かと思ったが、

中は意外にも日本語で書かれたものだった。


なんと書かれていたかは今はもう覚えていないが、なんだか意味を

成さないような不気味なものだったと思う。それでも、怖いもの

見たさもあったのか、僕は書かれた文章を読み上げた。
そのとき、聞き慣れた声がした。
「あんたたち何してんの?」
窓枠に寄り掛かり僕らに声を掛けてきたのは、他ならぬ

アキヤマさんだった。
「面白そうじゃない、あたしも混ぜてよ」
窓枠に足をかけ、中に入ろうとする。


怪しい行為をしていた最中だったので、ちょっと僕もビビッたが、
久しぶりにアキヤマさんと話せることが嬉しくて、僕はアキヤマさんに

駆け寄った。


そのとき、
「アブないぞ、ソレ」
ナナシがアキヤマさんを指差した。そのナナシの物言いに

カチンと来た僕は、ナナシに抗議した。
「ソレってなんだよ、おま…」
「よく見ろよ、ソレはどっから来た?」
「どこって窓からに決まって…」
そこで、めちゃくちゃ遅ればせながら気付く。ここは視聴覚室。
…3階だ。


コレはアキヤマさんじゃない。
そう気付いた瞬間、ソレは酷く歪んだ笑顔で、体をクネクネさせながら

僕に近づいてきた。白目に赤い筋がたくさん浮かび、それでも口元は

笑っている。
「うぁあぁあぁあ!!!!!!」
僕は無我夢中でソレを払いのけ、外に押し込み、窓を閉めた。
途端、けたたましいくらいにガラスを叩く音がする。
…内側から。
「ナナシ!!!ナナシ!!」
僕は半狂乱になりながらナナシを呼んだ。ナナシなら助けてくれる、と

漠然に思った。でも、ナナシは僕を見て笑っていた。

 

「ははははは!!最高だよお前!!!!!」
僕は本気でナナシに殺意を抱いた。

気がついた時、僕は汗だくになって床にヘタリこんでいた。
ナナシが自分のTシャツで、汚いものを拭くかのように僕の顔を拭っていた。
「結局、あの本は何だったんだよ」
叫び過ぎて掠れた声で、僕はナナシに聞いた。
ナナシはヘラっと笑うと、
「降霊術みたいなもんさ」と言った。
「会いたいものを呼び出せる呪文と方位がのってる。
さすがに犬皮使ってる本だから、ヤバそうだとは思ったけど。
いろんなヤバイモンが詰まってるよ、コレ」
ナナシは笑って言った。


「俺じゃなくて、本持ってたお前の会いたいやつが出て来たのは

誤算だったな。まあ、中身は違うけど。
お前、よっぽどアキヤマに会いたかったんだな」
ナナシはそう言うと、またヘラヘラ笑いながら本を抱えて歩いて行った。
ちょうど下校の鐘が鳴って、僕もナナシの後を追う。

前を歩くナナシの背中を見ながら、僕は思った。
『いろんなヤバイモンが詰まってるよ、コレ』
『俺じゃなくて、本持ってたお前の会いたいやつが出て来たのは誤算だったな』
そこまでしてナナシは、一体なにを呼び出したかったんだろう?
その答えを知ることになるのは、もう少し先の話。