焦准(オオカミ様・宮大工シリーズ13) | へたれの怖怖日記

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怖いのほんと苦手なのに、怖い話が大好きという
矛盾に苦しむへたれ男児のつらつら日記です。

「この髪飾りをくれた少年は、どんな感じでしたか?」
俺は髪飾りを沙織に返しながら聞いてみた。
「私は小さかったので良く覚えて無いんですが、 なぜかとても懐かしい感じが

しました。まるで…」


言い淀んだ沙織の跡を継ぎ、母上様が話し出した。

「まるで、沙織の血縁者の様でした。顔立ちや雰囲気も似ていて、

後になって、もしかしたら沙織の本当の兄では、 と主人と話したものです。

しかし、とても神々しく優しげな少年でしたので、あの少年は神様の遣いで、

沙織は神様が詩織を転生させてくれたのだとその時は考えました」

 

再び、沙織が話し出す。

「でも、私は詩織姉様の生まれ変わりではなく、妹でした。○○様には

先ほどお話しましたが、私の夢には詩織姉様が良く出てきてくれて、

私をとても可愛がってくれました。いつの間にか私の方が姉様よりも

ずっと年上になってしまったけれど」

親方も詩織の事を想い出したのか、涙ぐんでいる。詩織の事を

覚えている弟子たちも集まってきて、しんみりとした空気に包まれていた。

「最初に握り締めていた髪飾りは、今、持っていますか?」
少しの間静まっていた空気を破り、俺は沙織に聞いてみた。

「はい、ここに有ります。ずいぶんと古いものみたいで傷が多かったので、

ペンダントにしたんです。」

 

沙織は白い胸元からペンダントとなった髪飾りをを取り出し、俺に

渡してくれた。沙織の体温が残り仄かに暖かいそれを受け取ったとき、

心臓がドクンと脈打った。撫ぜ廻して出来たような擦れ痕と細かい傷が

数多く残るそれは、かつて俺が二度目に納め、そして土砂に埋もれて

しまったあの髪飾りだった。

 

「・・・その髪飾り、どこかで見た事が…?」

いつの間にか俺の後ろに廻り込んで覗いていたお客様が呟いた。
驚いて振り向くと、そこにはオオカミ様のお社を管理している神主さんが居た。

「あ!これは!○○さんがオオカミ様に納めたモノじゃないですか!」

その場に居た皆の視線が髪飾りと俺に集中する。

「・・・○○、本当なのか・・・?」

親方が搾り出すように問いかけて来た。

「・・・はい、確かに俺がかつてオオカミ様に納めたものです。間違い、有りません…」

「・・・え?え?どういうこと、なんですか・・・?」

沙織が混乱しつつ聞いてきた。いや、周りのすべての人々が混乱している。
俺と、優子さんとその夫、晃を除いて。

「・・・沙織さんが、オオカミ様だという事ですよ。」

晃がボソッと答える。「晃!」俺が叱責するが、晃は構わず語りだした。

「兄さんはオオカミ様を愛し、オオカミ様も兄さんを愛した。
二人の余りの愛の深さに、天照大神様が心動かされ、
オオカミ様はヒトへ、沙織さんへと転生なさったんでしょう。
ただ、時間を越えることまでは出来なかった。 だから…」

 

「やめろ、晃」

親方が静かに諌めると、流石に晃はそれ以上口を開けなかった。
宴の席は、いつの間にか静まり返っていた。

「さ、お祝いの席が静まっちまったら仕方ないよ!」

パンパンと手を叩きながらおかみさんが声を上げた。

「そうそう、皆さんさあ飲んで飲んで!」

優子さんも声を張り上げる。
堰を切った様に止まっていた時間が動き出した。
俺も晃にコップを持たせ、ビールを並々と注ぎ込んだ。
俺には沙織がビールを注いでくれ、晃と俺は一気に喉の奥へと

流し込んだ。宴は深夜まで続き、沙織とご両親、若い弟子達は

十二時前に部屋へと引き上げた。

 

お客様がすべて部屋に戻り、それを見届けてから親方夫妻も引き上げ、
最後に残ったのは俺、そして晃と優子さんだった。

三人ともかなり酔ってはいるが、なんとか理性は繋ぎ止めている。
優子さんのお酌で静かに日本酒を飲んでいるうち、晃が口を開いた。

「・・・兄さん、沙織さんはオオカミ様ですよね。」

「・・・ああ、多分、な」

「兄さん、どうするんですか?」

俺は、オオカミ様、いや沙織に自分の気持ちを伝える積りは無い事を話した。

「何故ですか!」晃が声を上げる。

俺は歳が離れ過ぎている事、俺の事を覚えてない事を主な理由として、
そうなると常識的に難しいだろうからと答えた。

「意気地無し」

それまで黙っていた優子さんが俯いたままぼそっと呟いた。

「怖いんでしょう。あの方に拒否されるのが」
ぞくっと背筋に寒いモノが走る。
違う。いつもの優子さんじゃ無い…?

「優子…?」

晃も何かを感じたらしい。
優子さんがすーっと顔を上げる。その顔は優子さんのモノではなかった。
目尻はきゅっと吊上がり、高い鼻梁の下には厚めな紅い唇。

そして、微かに紅く光る瞳。この、刃物のように尖った美貌は…

「お狐様…」晃が息を呑む。

俺の背中にも冷たい汗が流れた。