【沙耶ちゃんシリーズ】03 ナマてるてる坊主 | へたれの怖怖日記

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怖いのほんと苦手なのに、怖い話が大好きという
矛盾に苦しむへたれ男児のつらつら日記です。

箪笥に、ばあさんが畳まれて入っていた。
かなり昔に読んだB級オカルトだが、意外に長いこと印象に残っている。

幽霊というのは、どんな形をして出てくるのだろう。
グロテスクな死体や、ありえない不気味な姿をしているのだろうか。
それなら沙耶ちゃんのような人間は、神経が参ってしまわないのか。

「ふつーですよ」
バックヤードの暗い照明でもわかるほど明るい笑顔で、沙耶ちゃんは答えた。
「気持ちの悪い霊は、見ないようにしていますから」
「へ?ってことは、見ないですむこともできるわけ?」と俺。
ちょっと前に彼女は、『自力で霊能力を出したり引っ込めたりはできない』と

言っていたはずだ。
「んー……」
思案顔の沙耶ちゃんは、でも非常に的確な説明をしてくれた。

 

例えば、様子のおかしい人間がいるとする。そんなとき、他人は目を

逸らせるだろ。沙耶ちゃんの場合、やばそうな空気を感じると、うつむいて

周囲を見ないようにするんだそうだ。もしくは、反対の方向に目を向けるか。


直接見てしまわない限りは、頭の中にイメージが浮かんでこようが、

声を聞こうが、それほど怖くはないらしい。霊に負けてる霊能者ってのが、

沙耶ちゃんらしくてちょっと笑えた。

そんな沙耶ちゃんが、不意打ちを食らったことがあった。
彼女が小学生のときに、登下校の道の途中に豪邸があったそうだ。

同級生の家で、父親は医者。

ある夏の日、沙耶ちゃんは日の暮れかけた時間に、1人でその家の前を

通ったんだ。学校は集団下校を推奨していたが、人付き合いの苦手だった

彼女は、あえて遅くまで学校に残ることが多かったらしい。
鮮やかな夕焼けが、逢魔の闇を隠していた。


「明るかったから気が緩んでたの」と、今の沙耶ちゃんが説明する。

前方から1台の外国車が走ってきた。ハンドルは国産仕様にしてあるらしく、

右側の運転席に実年の男が乗っている。授業参観などで何度も見たことのある、

豪邸の主の父親だった。そして助手席には子ども……

とも言えない、色あせた何かが乗っていた。
車が近づき、沙耶ちゃんの真横をかすめた。助手席の物体が目の前に来た。
白に近いほど色の抜けたデニムのショートパンツ。元は黄色と黒だっただろう、

汚れた横じまのTシャツ。
ひょろっと背の高い、4年生ぐらいの少年。
助手席に膝立ちになり、頭を天井につけていた。
正確に言えば……首が骨ごと折れ曲がり、天井からヒモで吊り下げられていた。

車は沙耶ちゃんから離れると、不自然に蛇行した。そしてすぐに、豪邸の

ブロック塀に突っ込んだ。


沙耶ちゃんは一連の光景をよく把握できないまま、車に駆け寄った。
運転席の父親は、フロントガラスに頭を打ってグッタリとしていた。
助手席の少年は折れた首をブルンブルンと振って、ヒモの呪縛から

逃れようとしていた。
「事故のショックで泣いてたことにされちゃったけど」
野次馬が集まってきたとき、沙耶ちゃんは車のバンパー付近で、

悲鳴をあげながら泣いていたそうだ。

「そりゃ……可哀相だったなあ」
現場を想像して同情すると、沙耶ちゃんはまた、バックヤードの暗い

照明でもわかるほど明るい笑顔を見せた。