心の中の看護師さんと病室の面影 -2ページ目

心の中の看護師さんと病室の面影

切ない気持ちに押し出されるように、生まれた小さな短文です。

 幼い頃に見た記憶。湧き上がる郷愁と変わらぬ光景。
 あれからもう、何年過ぎたのか。
 それでも彼女は、変わらずその病院に勤務していた。
 綺麗な女性(ひと)だと、ひと目で思った。
「――あら、君。懐かしいわね、私がわかるかしら」
 彼女はその男を目に留めるなり、優しく言葉を投げかけてきた。
 変わらない声音。
 幼いながらもこの声に、心を震わせた時期があった。
 母のような、姉のような。
「憶えてないわよねぇ、こんなオバサン」
「いえ、憶えてます。変わってません、なんにも」
 少し小首をかしげて笑うその姿も、右手を頬に充てる癖も。
 何もかも。
 まるで、彼女の周りだけ時が止まっているかのような感じがした。
 ただ一つ、変化を挙げるとすれば、彼女が小さく見えるというだけ。
 あの頃は彼女を見上げるだけだった。
 今はベッドの中なので男は彼女を見上げてはいるが、それでも記憶の中の目線とは違う。
 それだけ自分が成長して、ゆうに彼女の身長を超えているということだ。
「あんなに小さかったのにね」
「あれから運動を始めたので、バカみたいに身長が伸びました」
 ふふ、と優しい笑い声と共に広げられる会話の向こうの、脳裏にちらつく過去の記憶。
 それらを混在してるところで、カナカナカナ……と、窓の外からひぐらしの声が聞こえた。