始まり始まり~~!!
ボタンを押したら、選択肢が出てきた。
『もちろん、おしゃべり』と『そのまま通り過ぎる』の二つだ。
美緒は『もちろん、おしゃべり』を選んだ。
勇気がでなかった現実の自分とちがって、ゲームのミオは
大好きな人としゃべってもらっていたかったのだ。
画面を確認すると、ウサギのミオがトラのキャラクターと仲良く
会話をしている。
(ゲームの中なら、簡単におしゃべりできるのになあ・・・・・)
そんなことを考えていたら、突然、校舎から優一が出てきた。
優一は美緒のところに駆け寄り、笑顔で口を開いた。
「おはよう、美緒。いっしょに教室まで行こうよ」
急に優一から声をかけられ、美緒は驚いた。
今まで、優一からはなしかけられたことなど、一度もなかったのに。
「あ・・・・・う、うん。も、もちろん」
大好きな優一としゃべりながらも、美緒は心の中で
別のことを考えていた。
(ゲームと同じことが、現実でもおこっているんじゃ・・・・・)
昨日、ゲームと中で落とし物を拾ったら、現実でもサイフを拾った。
ゲームの中で好きなキャラクターとしゃべっていたら、優一と
しゃべることができた。
(これって偶然なのかな?でも、タイミングがよすぎるし)
「ん?どうかした?」
「あ・・・・・・ううん。なんでもないよ、優一君」
美緒は優一に向かって、ぎこちない笑みを見せた。
授業中、美緒は先生に見つからないように、黒い携帯ゲーム機を取り出した。
画面の中では、ウサギのミオが教室で授業を受けている。
(やっぱり、現実とおんなじだ・・・・・・・・・・・)
ボタンを押すと、画面にメッセージが表示せれた。
『ヤギ先生が生徒に質問をしているよ。どうする?』
もう一度、ボタンを押したら『だまっている』と『正解を答える』
という二つの選択肢が出てきた。
美緒は『正解を答える』を選んでみた。
そのとたん、先生の大きな声が教室に響いた。
「よーし、松崎っ、松崎美緒。九と六の最小公倍数を答えてみろ」
「えっ、あ、あの・・・・・・・・」
「なんだ。わからないのか?」
「えーと・・・・・・・・十八です」
美緒は適当に数字を答えた。
「・・・・・・・・正解だ。わかってたのなら、さっさと答えろ」
先生はぶつぶつと文句を言って、黒板に新しい問題を書き始めた。
(やっぱり、これは魔法のゲームだったんだ)
美緒の口が三日月の形に変わった。
このゲームを持っていれば、簡単に人生の選択ができる。
ゲームでよい選択をしていれば、現実でも幸せになれるのだ。
勉強にも、恋愛にも、なんにでも、利用することができる。
(これは魔法のゲームだ!)
美緒は机の下で、黒い携帯ゲーム機をしっかりとにぎりしめた。
家に戻ると、エプロンを姿の母親が廊下の奥から美緒に声をかけた。
「美緒ちゃん、悪いけど買い物に行ってきてくれない?
卵がたりないみたいなのよ。今夜はオムライスなのに」
「えーっ。今帰ってきたばかりなのに」
「いいじゃない。買い物のおつりは、おこづかいにしていいから」
「別にお金なんていいよ。それより、今日は忙しいからダメ」
「忙しいって、何が?」
「えーと・・・・・・し、宿題。学校で宿題がいっぱい出たの。だから、大変なんだよ」
美緒は両手をばたばたと振って、母親の質問に答えた。
「うーん。それなら、しょうがないわね。勉強がんばりなさいよ。」
美緒はぺろりと舌を出して、階段を上がった。
二階にある自分の部屋に入るとすぐにランドセルを放り出し、携帯ゲーム機
を取り出す。
「買い物なんて、やってる場合じゃないの」
美緒はベットに寝転びながら、ゲームを始める。
何度か、イベントをクリアしたせいか、ウサギのミオのレベルが上がっていた。
「この調子なら、すぐに王様になれそう。そしたら、現実でも
私が王様になれるのかも・・・・・・・・」
思わず、笑みがこぼれる。
美緒は両足をばたつかせながら、ゲームを続けた。
次の日の昼休み。
美緒は大急ぎで給食を食べ終えた。
ポケットに携帯ゲーム機をかくして、教室から抜け出す。
誰かが自分の名前を呼んだ気がしたが、美緒はそれを無視した。
体育館の裏に行くと、そこには誰もいなかった。
美緒はにんまりと笑って、携帯ゲーム機を取り出す。
ここなら、誰にも見つからずにゲームをすることができる。
画面を確認すると、ウサギのミオは運動場のような場所にいた。
(そういえば、次の授業は体育だったよね)
美緒は今日の時間割を思いだした。
ゲームを始めるとすぐに、画面にメッセージが出てきた。
『今日の体育は百メートル競争だ。ヤギ先生がまじめに走れといってるぞ。
どうする?』
ボタンを押したら、いうものように二つの選択肢が表示された。
『手を抜いてビリになる』と『がんばって一位になる』の二つだ。
美緒は唇のはしをつり上げて『がんばって一位になる』を選んだ。
体育の授業はゲームのメッセージどおり、百メートル競争だった。
生徒たちは暑さに文句を言いながら、白癬で引かれたスタートライン
に四人ずつ並んでいる。
すぐに美緒の順番がきた。
美緒はスタートラインに両手をついた。
「ヨーイ・・・・・・・・スタート」
先生の合図とともに、美緒は走り出した。
運動場に砂煙が舞い上がる。
美緒は必死に手足を動かした。
数メートル先に二人の女の子の後ろ姿が見えている。
細かい砂のつぶが、美緒の頬にパチパチとあたる。
追いかけないと思った瞬間、前の二人の体が吸い寄せられるように交差した。
二人は悲鳴をあげて、地面に転がった。
そのとなりを美緒が駆け抜ける。
ゴールラインを最初に超えたのは、美緒だった。
(やった・・・・・・・一位だ・・・・・・・・)
美緒は息を整えながら、後ろを振りむいた。
転んだ二人は、まだ立ち上がっておらず、美緒の後ろを走っていた
友達の秋子が二位だった。
秋子が荒い息を吐き出して、美緒に近づいてきた。
「美緒・・・・・・・一番なんて、すごいじゃん。百メートル走苦手だったはずなのに」
秋子の言葉に、美緒は無言で微笑んだ。
まだ、つづくから、みてね!!!