📩◾️『豆腐屋の四季-----ある青春の記録』(松下竜一/講談社文庫)〈2〉



  ▪️この本は、4章から成り、それぞれ順に、「冬」「春」「夏」「秋」と、文を綴った季節の名が付されている。まさに簡明そのもの。
  その「夏」の章の最初の一編。妊った妻を詠んだ歌が並ぶ。歌だけを引用すると、

  🔹【マツヨイクサ】

•ひそやかに競いほぐるるマツヨイクサみごもる妻と夕土手に坐す
•妊(みごも)りて問うこと多しと母に行く妻との夜道青葉木菟(あおばずく)鳴く
•妊りて日記ひそかに付けそめし妻に小さな辞書買いやりぬ
•胎動を知る日近みて待つ妻と幾夜静かにテレビともさず
•柔風(やわかぜ)の肌に触れ来るごときかと妻は胎動をあこがれて待つ
•人目にもようやく身重と見えゆくを誇らしと告ぐ気弱な妻が
•内に外に劇しきニュース続く日々確かに拠るべきもの無き思い
  **米国、R•ケネディ議員の暗殺のニュースを聞いてこの頃、国内では、全国で学生らの反安保、反ベトナム戦争の闘争が興隆していた

•待ちわぶる胎動今日も無かりしとつぶやきし妻早く眠りぬ

  *新しい生命の誕生を待つ夫婦の心からの喜びが、じわりと深々と湧き出るように伝わってきて、こころがほころぶ。いつの世も、赤子の誕生が歓喜に迎えられる世界を心から望みます!

(この項続く)💐
🦉▪️【Thanks for reading.】🦜