※※ この本を読んで一言 ※※

恩田ワールドらしさを十分堪能できる作品です。

強いて言葉で表現するなら「奇妙奇天烈摩訶不思議奇想天外四捨五入出前迅速落書無用」(アニメ「ドラえもん」の「ぼくドラえもん」の一節)でしょうか(笑)。

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恩田陸さんの作品を読むのもこれで5作目になります。

今まで読んだ恩田さんの作品はどれも違う特徴を持ちながらも「恩田ワールド」と呼べる独特の世界観にあふれていました。

 

そういう経緯もあって、一体何が「消滅」するのか?今回はどんな恩田ワールドを見ることができるのか・・など想像しながらとても楽しみにして読み始めました。

 

もう前半から?(ハテナ)の連続で、しかも自律したヒューマノイド、超能力(?)を持った少年、国際的にお尋ね者の天才エンジニア(ハッカー?)などが登場し、何が起きているのかよく分からない状況の中でどんな共通点があるのかも分からない者たちが一堂に集結し、その中で謎を解明していくという、まさに先の読めない唯一無二の「恩田ワールド」を堪能できます。

 

作中では現代の日本が舞台なはずですが、本当に日本なのか・・このよく分からなさ加減のせいでそれすらも疑いたくなりました。

そのせいで私は序盤の時点で「消滅」の意味は、実は「夢オチ」で誰かが夢から覚めたらこの物語自体が「消滅」すると予想しました(笑)。

 

読み終わって・・なるほどそうきたか!!と思いました。

ものすごい「消滅」が起きたわけでもなく(表向きは)物理的な破壊もなく誰も傷つかなかった事でハッピーエンドと言えるのかどうかはわからないオチは、やや肩透かし感があります。

 

しかしそこにたどりつくまでには途中、登場人物の一人ひとりの人物紹介があり、独自に考察のシーンがあってそれによりその人物の事をより深く掘り下げて描かれているので、そのキャラクターに親近感がわきます。

鳥の巣頭(十時)と乗りヒコ(喜良)はいいキャラです(笑)。

 

しかしそれと対照的に人物紹介や一人称の考察シーンがないどころか名前すら出てこない人物(親父、中年女、子連れの母親)は、彼らがテロリストでは?と疑いたくなります。

 

そして何が起こっているのかわからない状況の中で、そこにいるものだけが味わう連帯感や恐怖感などがリアルに伝わってきて、この閉塞した状況からどう展開していくのか知りたくなります。

 

それでいてのバッドエンドではなく、ほのぼのとした終わりなのはこれはこれでアリだと思います。

しかしラストに日焼け男(康久)が淡々軒に入る前に、言葉の壁が「消滅」したら起こりそうな良いことと悪い事を思い浮かべていたので、悪い事が的中しないか不安にもさせますが・・少なくとも9月30日を共有した者たちやキャスリンを見ていたら、言葉の壁がなくなっても人類の未来はそんなに悪くないのではないかと希望が持てます。

 

さてここからいつもどおり読んでいて思ったことをダラダラと書きます。

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もし現実にベンジーが開発したバベルがあったとして、言葉の壁がなくなったらどうなるのでしょうか。

私見ですが、バベルが浸透するのに5年から10年くらいかかり、しかも人類すべてが利用するには至らないと思うので、携帯電話やスマートフォンのように緩やかに利用者が増えて、今まで言葉による壁が少しずつ変化し、国際的に経済が活性化したり人の移動が起きていくのではないかともいます。

ただそれで人類が幸福になるのか分かりません。

 

そして作中でも述べられているようにバベルは翻訳とは根本的に違うことがどれほどの影響を及ぼすのか、またバベルが悪用されないかなどの心配も常に付きまとう問題だと思います。

 

大島凪人のモノローグがとても面白いです。

服のセンスの悪さとトラブルに巻き込まれる体質であり、しかも意外と鋭い観察眼を持つ男・・物語の中では魅力的に映りますが、実際いたら作中のようにうさん臭く見られるのでしょう。

 

空港職員に咎められなかったとき『いいのか?それでいいのか?俺、自慢じゃないけど、これまで一度で空港を通過したとこなんだぞ。なあ、あんた、大丈夫か?世界中で止められる俺を見咎めなくて、入管職員としての資質を問われるんじゃないか?』という落胆と、子供がしがみついてきた後の空港職員の疑惑に満ちた顔を見て『懐かしさを覚えた』が爆笑ものです。

今までの凪人の苦労がよく分かります(笑)。

 

溪の紹介で、空港のサーモグラフィの記載でSARSの時の対欧について触れていますが、今の新型コロナウイルスが認知され始めた頃の状況とほぼ同じなんですね。

 

新型コロナウイルスが始まる前から空港の検疫では感染症対策は以前からやっており、今が特段厳しいというわけではないことが分かりました。

歴史は繰り返されるということですね。

 

また「新型肺炎」という言葉が出てきて、発症者を隔離して検査する描写がありました。

感染症で騒がれるのは周期的に起きることであって珍しいことではないと改めて思います。

 

ただ違うのは、その感染症を国家がどう取り扱うのかの差だと思います。

作中でも国籍の取り扱い(二重国籍問題)や空港内での国の線引きなど、そのあいまいさが指摘されています。

そう考えると国家の概念自体が結構あいまいで、そのあいまいな存在があいまいなままいろいろなことを運用しているというのが現実なのかもしれません。

 

とにかくずっと泣き続ける女の正体がキャスリンでそれがロボット(ヒューマノイド)だと判明したときは驚いたとともに「そう来たか!」と思いました。

こんな精巧で高性能なヒューマノイドが極秘開発されて、しかも非常事態とはいえ一般には全く認知されていないのに人前に出てくるなんてあり得ないと思います。

 

しかし今まで読んだ恩田ワールドでもぶっ飛んだ設定だらけだったので、今回も何でもありなんですね(笑)。

 

作中では自律型のヒューマノイドが量産されたときに、ヒューマノイドごとに特有の性格や癖が出るのかという記述がありましたが、たしかにどうなのか興味があります。

しかしその答えはそれができるまで分からないですね。

 

作中ではリニア新幹線が存在しています。しかし空港内や他の記述から現在(2022年)から遠い未来ではないようです。

という事は時代的には2030年ごろでしょうか。

またバベルは量子コンピュータや量子チップが進歩したからできた様な記述があります。

あと8年でリニア新幹線が開通し、量子コンピュータが一般化され、キャスリンのようなヒューマノイドが登場するのでしょうか。

今の状況ではリニア新幹線と量子コンピュータは実現してそうですが、キャスリンは・・まだ無理でしょ(汗)。

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十時の考察も学者らしくとても独特で面白いです。

女性の洗顔の話は男性には永遠にわからない事なのでしょう(笑)。

またギャンブルの成り立ちについての考察や、人工知能に賭けをやらせたらどうなるのかの考察は非常に興味深いです。

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恩田さんの作品はまだまだあるので次はどんな恩田ワールドを見せてくれるのか楽しみです。

 

(個人的評価)

ストーリー  ☆☆☆

登場人物   ☆☆☆☆☆

驚き     ☆☆☆

恩田ワールド ☆☆☆☆☆