太田忠司さんの作品は「ミステリなふたり 」に続き2作品目になります。
ミステリなふたり 」もこの「名古屋駅西 喫茶ユトリロ」も愛知県名古屋市を舞台に物語が展開されるので、愛知県出身の私にはなじみが深く、知っている地名も出るので読んでいて楽しいです。

そして何よりも私は喫茶店巡りが好きで、仕事で名古屋に行くことも多く、途中で見かけた喫茶店にふらりと立ち寄ることもあるので、この作品をの存在を知ってからはぜひ読んでみたいと思っておりました。

読み始めて驚いたのが、実名でお店が出てくるんですね。
コメダ珈琲、寿がきや、世界の山ちゃんは東京にも進出していますので今では愛知県以外でも知ってる人も多いと思いますし、梅花堂や長靴を履いた猫などこの作品に出てくるお店は地元では知っている人も多いと思われる店ばかりで、読んでいて「おー!このお店が出たか~」とニヤリとしてしまいます。

作品は実在の名古屋めしや名産を紹介しつつ日常系ミステリーを解決していくスタイルで、地元民の私はとても面白かったです。
前半はほのぼのしていますが、中盤からはシリアスな話も入ってきてテイストが変わります。
中盤から後半は、主人公の龍の成長を通して親子の関係や、人との接し方、果てはユトリロや名古屋駅の行く末なども語られ、物語としてとても深みのあるものになっています。

なお日常系ミステリーの短編と言えば北村薫さんの「
空飛ぶ馬」に似ていると思いました。
ユトリロの方がほのぼのしていますが、最終的にどこか哀愁が漂っていることや人間の心の機微を丁寧に描いているところなどは似ているた思います。

印象深いのは、ラストの正直と龍のどて焼きを食べながらでの会話です。
正直は『戦争で焼け野原になってから、駅西は変わり続けてきた。いつまでもずっと同じではいられない町だ。これからも変わっていく。それは、しかたないことなんだ』と語っていました。
まるで”時代も、その土地も、そして人もいつまでも同じではいられない”と言われているようです。

それは仕方ないと誰でも分かっていることでしょうが、なかなかすぐには受け入れられないし、そしてとても寂しいことだと思います。

この作品の大きな特徴の1つに、登場人物の人となりを感じさせてくれる描写がとてもいいです。

喫茶ユトリロの歴史とともに、登場人物の正直、敦子、千代や常連客などの人生の歴史を物語の中に織り込んで展開していくことで、動いていく時代の中でユトリロを軸にした登場人物達の喜怒哀楽の人生を感じることができます。

なお喫茶ユトリロは中二階がある重厚な雰囲気の店内、マスターが静かに丁寧に淹れるコーヒーはまさに私の中にある「古き良き喫茶店」というイメージです。

そして喫茶ユトリロは実在しないそうですが、そのモデルとなった喫茶店はあるそうですね。
それはどんなところなのかインターネットで調べてみました。
調べてみて時代の変化とは言え、ユトリロのような古き良き喫茶店はもうだいぶ減って、そしてこれからも減っていくんだろうな~と思いました。

さてここから作品とは関係のないどうでもいい雑感を書いていきます。

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今は世界の山ちゃんもコメダ珈琲も若鯱家も東京にも進出しています。
しかし龍がコメダ珈琲や手羽先を知らないと言うことはまだまだメジャーではないようですね。


カレーうどんは名古屋というよりは豊橋名物という認識でした。
豊橋は積極的にピPRしてますからね。


私は味噌煮込みうどんが大好きで、うどん屋に味噌煮込みうどんがあればだいたい注文しています。
今回作品には味噌煮込みうどんが出てこなかったですが、次回はきっと出てくることでしょう。
そして今回出なかったきしめんも次回は出てくることでしょう。


読んでいて麻衣の扱いがちょっと微妙です(笑)。
探偵役にしても、最終的には紳士さんの方が印象深いですし・・
なにより県警本部長の娘というのは、よくあるサスペンス劇場のようで都合がよすぎる気がします。

しかも本部長の父親から捜査情報をもらって龍に教えるのは、日常系ミステリーの物語ではやりすぎな気がします。
そして大学生で既婚者・・どれだけ設定を盛っているのでしょうか(笑)。

常連さんや祖父母、曾祖母の方が印象に強いせいで最終的に麻衣の立ち位置がよく分からなくなりました。


私は寿がきやのラーメンの麺を食べるのにラーメンフォーク使いませんが、ラーメンフォークだけで食べる人もいるんでしょうね。

作中でも食べにくければ箸で食べればいいと言われてますし・・私は昔からラーメンフォークを使いこなせていませんでした(笑)。
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ちなみに次回作はあるのは知っていますが紹介等は一切読んでいないので、これからどんなお店やどんな名古屋めしが出るのか分からない分、余計に楽しみです。
そして精神的に成長した龍が見れるのでしょうか。
次回作を読むのがとても楽しみです。

(個人的評価)
面白さ    ☆☆☆☆
登場人物   ☆☆☆☆☆
作品の深み  ☆☆☆☆
喫茶店の良さ ☆☆☆☆