柚月裕子さんの作品は初めて読みました。

 

読み終わって、久しぶりに本を読んで感動して涙を流し、そして読んでよかったと思う本でした。

 

内容としては警察小説&ヒューマンドラマといった趣です。

 

重厚な警察小説であればだいたい主人公はおじさんであると相場が決まっています(笑)。

この物語の主人公の神場もその例にもれず退職した元刑事です。

 

そして私がこのブログで常に唱え続けている持論

「能力があり、かつ人間味のある渋い中年オヤジはかっこいい」

(最近読んだ作品では 樋口有介さんの「彼女はたぶん魔法を使う」で渋い中年オヤジについて言及しています)

ですが、この神場はちょっとこの持論に当てはまらない気がしました。

 

もっとも超個人的な持論に当てはまらないからといって神場に魅力がないわけではありません。私はとても好きです。

 

神場は感情表現が苦手で不器用なだけで、警察官としてそして人間としても正義感が強く誠実であるので、警察官みんなが神場のようであれは、日本の治安も守られ、住民も安心できると思います。

人間的にも上司、部下からも信頼され慕われるベテラン刑事であり、若い時の駐在所勤務時代では村の集落の長年の問題も解決させた能力と人間性があります。

 

ですが作中の神場は私が思うに思い込みが激しく自分一人で問題を抱え込んでしまうため、視野が狭くなっている印象があります。

 

事件であれば自分一人で抱え込んだとしても無事解決できれば周囲から評価されます。

しかし16年前の純子ちゃん事件や幸知と緒方の事など、自分一人ではどうにもならない悩みを抱え続けても何にもならないと思うのですが・・それでも神場にしてみれば人に言えるはずもなかったんでしょうね。

 

それであまりにも自分で抱え込んで、自分が悪いと思い込んでいるからあんな夢を見続けてしまう・・それも神場の責任感の強さ、人間性のよさ故でしょう。

 

この作品において神場は魅力的ですが、メインで出てくる登場人物も皆とても魅力的で良さが際立っています。

それは柚月さんの人物描写。心情描写がとても丁寧であるからだと思います。

 

私は特に妻の香代子の健気さと、鷲尾と馬淵の信頼関係が好きです。

 

読者の立場で見ると、神場は全然香代子の事を理解できていないですね(笑)。

神場がどんな結論を下そうが、香代子はついていく覚悟はあると読者は分かるのに神場はそれが分かっていないのが読んでいてもどかしくなりました。

 

鷲尾と馬淵の関係はまさに「能力があり、かつ人間味のある渋い中年オヤジはかっこいい」を地で行くものであり、かっこよすぎます。

 

他にも緒方の刑事を続ける覚悟、そして須田のわが子への想い、今藤のアドバイス、幸知の育ててくれた神場たちへの想いなども、今思い出しても胸が熱くなります。

 

そして決して目立ちはしないが物語の主題にも関係してくるお遍路の道中で出会った千羽鶴と川瀬のエピソードもとても印象的です。

 

千羽は波乱の人生を送りながらも、再婚相手の土地で一人になっても心に折り合いをつけて生きています。

 

『長く生きていると、自分だけが不幸じゃなんて、思わなくなってきたんよ。ええことも悪いことも、みな平等に訪れるんやなぁと思うようになったんよ』

『人生はお天気とおんなじ。晴れるときもあれば、ひどい嵐のときもある。それは、お大尽さまも、私みたいな田舎の年寄りもおんなじ。人の力じゃどうにもできんけんね。ほんでね』

『ずっと晴れとっても、人生はようないんよ。日照りが続いたら干ばつになるんやし、雨が続いたら洪水になりよるけん。晴れの日と雨の日が、おんなじくらいがちょうどええんよ』

 

この千羽の言葉は私の心に刻み込んで、これから自分につらいことがあってもこの言葉を思い出して乗り切っていこうと思いました。

 

この物語に細かいツッコミはないこともないですが、今回はそんな無粋なツッコミなやめておいて、感動の余韻に浸りこの感想を締めたいと思います。

 

ミステリー小説だと思って読み始めミステリー小説ではありませんが、心に残る1冊でした。

 

(個人的評価)

登場人物  ☆☆☆☆☆

ストリー  ☆☆☆☆☆

感動    ☆☆☆☆☆

生きる強さ ☆☆☆☆☆

 

左矢印読書履歴と個人的なカテゴリー分け【1】 へ戻る