麻耶雄嵩さんの作品を読むのもこれで17作目になります。
もう未読の作品が少なくなってきて、麻耶信者を自認する私にとっては寂しい限りですが、いつまでも未読のままではいけないので、「螢」を読むことにしました。
序盤から中盤はきれいにまとまりすぎている設定や展開(館モノでクローズドサークル)に、綾辻行人さんの作品ではないかと思ったくらいです。
しかし随所に麻耶さんらしい雰囲気や表現は感じることはできます。
その麻耶さんらしさのひとつに物語は誰視点で語られているのか常に疑問でした。
最初のロールプレイングゲームの話からずっと誰の視点で語っているのか不明であり、不自然なくらい誰が語っているのか明らかにされません。
最初は諫早の視点かと思ったりもしますが、麻耶さんのことなので絶対に諫早ではないと思っていました(笑)。
これはミステリーを読み慣れた弊害かもしれません(汗)。
そして次の候補はあまりにも登場が少ない長崎の視点だと思いましたが、そうなると千鶴が諫早だけに相談したことを、地の文の語り部の長崎が知っている記述が謎になりました。
途中で語り部が入れ替わったのかも・・など考えてましたが、結局誰が語り部なのか分からないまま、進んでいくと・・なるほど!長崎の盗聴器がここで活きてくるんですね!!
長崎がつぐみの部屋にに盗聴器を仕掛けたとあったので、千鶴にも仕掛けもおかしくないですね。
中盤でジョージの共犯者は誰かという話の時は、諫早は明らかに何か隠してるような不自然な態度だったので、諫早は共犯者だと思ってましたからこれは当たりました。
しかし私はアキリーズの2回生以上全員が共犯者で、昨年はアキリーズ全員でつぐみを、そして今年は千鶴を・・という胸クソな展開を予想しましたが、これはハズレてよかったです(笑)。
ちなみに千鶴の性別については見事にだまされました。
「ボク」という何だか不自然な呼び方はそういうことだったんですね。
そしてこの作品も麻耶さんらしく、はっきりしないまま謎を残して終わります。
1つ目は誰が最後に生き残ったのかです。
私は生き残りは長崎かなと思いました。
記述からだと大学生であれば誰が生き残ってもおかしくはないですが・・もし長崎が生き残ったら、事件を佐世保と諫早の責任にして逃げ切る事ができるかもしれません。
そしたら長崎は「自分はやっぱり勇者だった」と自画自賛するのでしょうか。
2つ目は身元不明の女性は私は最初、小松響子だと思ってましたが、他の方の考察ではフミエのようですね。
フミエの遺体は島原の推理によると諫早に螢川と反対の原生林に埋められているだろうとのことでした。すると土砂崩れで埋めた死体が露呈したのでしょうかね。
さてこの作品は最初に述べた通り、きれいにまとまっており、麻耶さんらしからぬ整然とした作品だと思います。
そしてこの作品の大きな特徴は以下の2つです。
〇語り部が誰なのか誤認させる叙述トリック
〇千鶴の性別について、読者には真実を明かしながらも登場する人物が性別誤認(語り部の長崎だけは知っていた)をしていたという、登場人物と読者の認識のズレを最後に明かした叙述トリック
このトリックを思いつく麻耶さんの頭脳と、それを記述して読者を驚かせる作家としての力量・技巧は唯一無二で、作中の表現でいうなら替えの利かない存在で、その存在は世界を救済する勇者にも匹敵すると思います。
ですが・・・・・この2つの叙述トリックは私が求める麻耶ワールドにとっては枝葉のことのように思えます。
私が求めるのは、もっとこう微妙にゆがんだ世界観と、そして私の想像のナナメ上をいく設定と展開なのです。
例えば私がメルカトルシリーズや神様シリーズのような麻耶ワールドを求めすぎていることが、この作品をきれいにまとまっていると思う原因かもしれません。
また麻耶理論も、ファイアフライ館に当たる雨音すら計算して設計され、雨音が蛍の旋律を奏でて、それを聞き続けていると人の狂気が顕在化するというのはなかなかぶっ飛んでいて面白いですが、この作品においては麻耶理論を感じたのはこれだけかなと思います。
人によってはこれは麻耶理論ではなくご都合主義的と思うかもしれませんが(笑)。
他の方の感想や考察を読みに行きましたが、同じ感想をお持ちの方もいらっしゃって少し安心しました。
いろいろと書いてきましたが、先の展開が知りたくなるくらい引き込まれるストーリーは面白く読ませていただきました
これからどんな麻耶ワールドが飛び出すか楽しみにしています。
(個人的評価)
麻耶ワールド ☆☆☆
麻耶理論 ☆
面白さ ☆☆☆
叙述トリック ☆☆☆☆☆
【ここから「貴族探偵対女探偵」のネタバレではないですが、少しだけ内容に触れます。少しも「貴族探偵対女探偵」について知りたくない方はこの先は読まない方がいいかもしれません】
ちなみに千鶴の性別誤認のような読者の認識と登場人物の認識のズレを利用した叙述トリックをさらに発展させたトリックは、後に発刊された「貴族探偵対女探偵」にも出てきます。
私は先に貴族探偵対女探偵を読んだので、むしろ「螢」の方があっさりしていると感じ、「あ~・・貴族探偵対女探偵のあのトリックはこれが原型なのかもしれない」と全くどうでもいいことを考えてしまいました(笑)。