1冊前に読んだ今邑彩さんの「よもつひらさか」はホラーでしたが、私が思う”超常現象”または”心霊や妖怪”とは違うものでした。


そこで他のホラー作品が読みたいと思った時にふと以前通販サイト(アマゾンかブックオフオンライン)で”あなたにおすすめ”のようなカテゴリにこの「お孵り」が出てきたのを思い出しました。


そして後日たまたま本屋さんで見つけたので、私にしては珍しく新品で買って、帯や裏のあらすじは全く読まずにさっそく読んでみました。


さて最初の1ページ目で、かの有名な「津山三十人殺し」に似た事件の新聞記事から始まったので、「おっ!八墓村じゃん。これは山奥の村が舞台の過去から続く因縁が原因のホラーかな~。」とワクワクしながら読み進めました。

(もっともこの1ページ目はちょっと気になることがあったんですが・・それは後述します。)


鈴木光司さんの「リング」や日向奈くららさんの「私のクラスの生徒が、一晩で24人死にました。のような新しいツールを使ったり新しい設定のホラーも面白いですが、「古い村の風習+怪異+大量殺人」も鉄板の面白さですね。


そして一気に読み終わった感想は、これぞまさしく私が読みたかったホラー作品でした。

怪異あり、猟奇殺人あり、手に汗握るアクションもあり、ラストも悲しくもきれいな終わり方だったと思います。


また今まで私が思っていた”ホラーのツッコミどころ”を代弁してくれる作品でした(笑)。


作者の滝川さりさんはまだ20代とお若いため、若い感性で架空の古い村の風習を記述するにあたって、いろいろ思うところはあったのでしょう。


そんな若い感性で書かれた本作は、人智を超えた存在(太歳様)と太歳様にすがって生きながらえようとする村人のエゴがグロテスクに書いており、なかなかにエグいです。


そしてそんな村と主人公の佑二とシタイの山羊原の2人が対決していくわけですが、滝川さんの感覚は当然読者に近いものだと思いますので、彼らの言葉が読者の声を代弁してくれます。


佑二:

『・・村に帰りたいんやったら、お前だけで帰らんかい!俺たちを巻き込むな!』

『人の子供に勝手に生まれ変わって お前は何様やねん!・・』

山羊原:

『では聞きますが あなたたちは何の権利があって、ここにいる橘さんから家族を奪うんですか?』

『神を騙って人を支配しようとする そういうのが一番許せないんですよ、私は』


現代の一般的な感覚に照らし合わせれば全くその通りであり、山羊原からこれを言われた村人たちはまともな反論ができず怒ることしかできないのが滑稽でした。


さて「私のクラスの生徒が、一晩で24人死にました。の感想でも書いていますが、ホラー作品というのはツッコミどころが多いのが特徴で、これも例外ではありません。


それではここから私の愚にもつかない思いついたことや愛のあるツッコミをしていきます(笑)。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

ミステリー小説やホラー小説においての村の風習、というか因習というものは無関係な部外者からするとなぜにこうも閉鎖的、非合理的、不条理、理不尽、身勝手とネガティブな言葉が思い浮かぶのでしょうか。


もっともそうでもなければミステリーやホラーとして面白くないので仕方ないのですが(汗)、もし実際に人前に出せない風習の残る村はあったら怖すぎます。


「太歳」というのは私は知らなかったのでインターネットで調べてみました。

肉の塊で食べたら不老不死になるというのは物語でもありましたが、生まれ変わりを司るというのは作品オリジナルなのでしょうかね。


舞台は「冨茄子村」(ふなしむら)で旧「舟無村」ですが・・私は1ページ目の「舟無村」を読んだ時から「船橋市非公式キャラクターのふなっしー」が頭の中をよぎり、村の中を猟銃を持ってふなっしーが甲高い声を出しながら走り回る姿を想像してしまいました。


「舟無村=舟が必要ない村=三途の川を渡らない=死んでも生まれ変わる」という意味があってこの名前だそうですが・・1ページ目でいきなりふなっしーはなっしーでしょう(笑)。シリアスな1ページ目の出だしで笑ってしまいました。


作中では冨茄子村は九州(どこの県か不明)にあるそうですが、九州なら「くまモン」が有名なので「熊門村」とかすれば・・今度は頭の中を猟銃を持ったくまモンが走り回りまわることでしょう。


山羊原はミステリアスな存在ですね。


滝川さんは彼女を主人公としたシリーズものを想定して作ったのではという気がします。

もし今後、山羊原が主人公で日本の怪異を暴いていく話が出たら、私は読んでみたいです。


山羊原が冨茄子村に踏み込んだ時に、メガネにカメラが仕込んであり、映像は転送されて録画されていると言っていました。


かくいう私はこういう怪しげな敵地に踏み込む場面では、証拠を残すためにGoPROやウェアラブルカメラで映像を転送、映像が無理なら音声だけでも転送すればいいのにと思っていたので、まさに山羊原の行動は納得できるものでした。


ちなみに山羊原は警察だったからやらないでしょうが、佑二の立場であれば証拠に残すために映像をライブ配信すれば、村人も手は出しにくいでしょうし、事前予告で煽っておけば視聴数はすさまじい物となったでしょう(笑)。


丙助は80年前の大量殺人はやっていなくて、太歳様信仰派が否定派抹殺のためにやったと明かされます。

そして信仰派は黄金宗を集団自殺に見せかけて殺したり、村を出た者の出産を妨害したりとやりたい放題です。


狂信的とはいえそんなに簡単に人を殺せるのかと思いますが、オウム真理教事件の例もあるので、信仰って怖いんだなとつくづく思います。


ご都合主義的なのはホラー物に限った話ではないですが、村の息のかかった警察官がいるのはまだ理解できますが、事件のもみ消しなどは今の時代ではできないと思います。


百歩譲って村を管轄している警察署は支配する事はできたとしても、なぜ九州の小さな村の出身の警察官が大阪府警に、しかも佑二の自宅の管轄署にいるのか・・それとも南のように村の息のかかった警察官は全国にいるのか・・謎です。


冨茄子村では生まれ変わりがある程度の確率で起きているようで、村の人は生まれ変わりたいと思っているようです。


私は今のところ生まれ変わりたいとは思いませんが、村で実際に生まれ変わりを目撃したら、考えが変わるのでしょうか。


作中では冨茄子村で3人目の子供は丙助が生まれ変わるからダメと言われていますが、いろいろ矛盾をはらんだ設定だな~と思ってましたが、そのへんは滝沢さんも気にしていたのでしょう。


なぜなら乙瑠は一江からみて2人目でも重蔵から見て3人目という生まれ変わりのシステムの矛盾を突いてきましたからね。


10

そもそも太歳様はどうやって何番目の子供かを判定していたのか、冨茄子村の子供は誰なのか把握していたのか・・生まれ変わりを司っているだけに超常的な能力でやっているのでしょう。


そして丙助が3番目の子供だったから3番目の子供にしか生まれ変われないような伝承の仕方でしたが、最後に乙瑠は初美の二番目の子供に生まれ変わったようですし・・そのへんも太歳様のさじ加減なんでしょうか。


ーーーーーーーーーーーーーーー

滝沢さんはこれがデビュー作品と言うことなので、次の作品も期待して待ちたいと思います。


(個人的評価)

面白さ     ☆☆☆☆

ホラー度    ☆☆☆

猟奇度     ☆☆☆

村の気持ち悪さ ☆☆☆☆☆