面白そうなミステリー小説だったので買ってみました。
作者の城平京さんの名前は何となく人を食ったペンネームでクスッとしてしまいます。
奈良県出身ということで平城京から取ったんでしょう。

 

さて城平さんの作品を読むのは初めてです。

 

読み終わってとても面白かったです。
続きが気になり一気に読み終わりました。

 

第一部の「小人地獄」・・なんと妖しく猟奇的かつ魅力的な響きでしょうか。

 

現実的にはあり得ない毒薬でしょうが、ミステリー小説の中では燦然と輝くアイテムです。しかしそれをメイントリックに使うのではなく、あくまでの小人地獄の因果で起きた殺人と名探偵の活躍なのが、正統派のミステリー小説として面白かったです。

 

しかし読み終わってみると、第一部は第二部の前フリだったことに驚きました。

 

鈴花が瀬川に会いたいがために事件を起こしたというのは、巻末の解説や他のサイトにあった感想にも書いてありましたがモチーフがいくつかあるようですね。
私はそれらを知りませんし、過去に私が読んだ作品にそういうのがあったのか記憶が定かではありませんから(笑)、純粋に驚きました。

 

この作品のメインテーマである「名探偵の苦悩」がとてもよく書かれて読んでいて切なくなります。はっきり言って暗いストーリーだと思います。

 

 

登場人物では三橋は後半では嫌な奴だと思いましたが、結局は一途な人間味のある男でした。

 

しかし名探偵の瀬川が悲惨な過去を背負った鉄面皮の名探偵を演出したいのでしょうが、どうも魅力的ではないのが気になりました。これではただの無礼でコミュ障です。

 

なおこの作品はツッコミどころがいつもより多いのでここからツッコミに入ります。

 

 

まず「小人地獄」の顧客リストがあり、「社会的、政治的に影響力の大きい名前が多数あり・・」とありましたが、こんな物騒なものを実名で買う政治家や財界人がいるとは思えませんけどね。

 

そもそもそれを買おうとする政治家は、そんな毒薬の存在は自分の身を危なくすると思い、警察に逮捕させたほうが良いのではと思いますが・・権力闘争の中ではとにかく相手を消すことが重要なんでしょうね。

 

そして小人地獄のような都合のよすぎる毒薬はあるんでしょうか。

 

しかも致死量の20倍を超えると苦くて吐き出すから無事という設定ですが、致死量0.12グラムであれば、口に入れた段階で吐き出したとしてもすでに手遅れだと思います。
製造法も胎児や嬰児の脳髄がメインの原料らしいですが・・物語の中での製造法が「メルヘン」小人地獄と言えます。

 

次に第二部では三橋は何がしたかったのか理解に苦しみます。

 

三橋が言うには鈴花が瀬川に会いたいがために事件を起こし、その結果不幸にも山中を殺してしまった。しかし鈴花が山中を殺した罪を瀬川に知られたくなかったために偽のシナリオを作り上げたということですが、結局第一の真相(恭子の殺意の隠蔽で鈴花がポットに入れた)の段階で早々に瀬川に鈴花が実行犯と見抜かれたのに・・何を隠蔽したかったのかよく分かりません。

 

鈴花の瀬川への恋心さえ隠せて、鈴花が瀬川と会えれば殺人はバレてもいいと思ったんでしょうか。

 

そもそも第二部で瀬川を呼び寄せたときに最初から事情を話しておけば、少なくとも瀬川を苦しめずにすんだと思うのですが・・鈴花ラブの三橋はそういう考えはなかったようですね。

 

三橋の作り上げた第二の真相(山中が三橋を脅迫したので三橋が鈴花を唆して殺させた)では本当に山中が三橋を脅迫していたのでしょうか。

 

私は三橋の大学院時代で山中が三橋に馴れ馴れしい態度を取っていたので、脅迫したという展開になって「山中ならやりかねない」と納得してしまいました。

 

しかし山中は脅迫していないでしょうが、きっと山中が三橋に好意を持っていたのは本当でしょう。だから「あいつは俺に惚れている」というストーリーを作り上げた三橋はなかなかの鬼畜ですね。

 

 

また本物の山中の妹が交通事故に遭っているのはただの偶然でしょうが、警察は山中殺害事件と結びつけて無駄な労力を払わなければならないと思うと警察がかわいそうになってきますね。鈴花自殺後に三橋や藤田家が警察に真相を話すならともかく、おそらく真相を話すことはないのではと思います。

 

 

この物語を読み始めてすぐに、三橋や瀬川はドラマ化を前提に長身のイケメン俳優に長身の美人女優を想定した設定されたキャラクターと思ってしまいます。

 

そもそも瀬川の過去のトラウマの原因である妹に生き写しの鈴花もドラマ向きのご都合主義ですが。

 

もっともその設定でも話が面白いからいいんですけどね(笑)。

 

 

最後になりますがこの作品を読み終わって、読み終わった直後は当ブログの「読書履歴と個人的なカテゴリー分け」の中で「1 お気に入りの作品」に入れようかどうか迷うくらい衝撃を受けました。

 

しかし読み終わった直後に感想を書いたにも関わらず、いろいろなツッコミどころを文章にしているうちにその思いが冷めてきました(笑)。

 

こういうこともあるんですね!

 

 

(個人的評価)

 

面白さ   ☆☆☆☆
衝撃度   ☆☆☆☆☆
登場人物  ☆☆☆
メルヘン度 ☆☆☆☆☆