この本はインターネットで読むためのミステリー小説の検索していたときに、バカミスとして紹介されていた本でした。
タイトルだけではバカミスの要素ゼロな感じだったので、どんな本なのかすごく楽しみにして購入しました。

 

作者の倉阪鬼一郎さんの作品を読むのはこれが始めてです。

 

読み終わったあと、巻末に倉阪さんの数多くの作品リストがあり、しかも記号等でジャンルの分類までされている親切設計でした。
これを見て、この作家さんはきっとどのジャンルでも書けるんだろうなと思います。

 

そのような人がこのような物語を書くとは・・読み終わってバカバカしかったというより、すごい労力をかけ、今までの作家としての知識と経験を生かしてトリックを盛り込み、本気でバカミスに取り組んだのだろうかと想像し、倉阪さんという人は意欲的なすごい人だな~と思いました。

 

内容は「謎解き」以降を読むとなんだか脱力して笑えてきました。”バカバカしい”といってしまえばそれまでですが、それまではネタがバレないように巧妙に隠されていますからね。

 

なお私はいつもどおり真相に全然気がつきませんでした。

 

銭湯の描写も真相を隠しながら記述すれば分からないものですね・・小さな赤と青の丸、黄色い大きな丸・・私の頭では絶対気がつきません。

 

同じバカミスでも「六枚のとんかつ」は登場人物やシチュエーションもギャグ要素の強い笑える物語です。

 

対してこれは主人と息子はいたって真剣に殺人に取り組んでおり(?)、真相を隠しながら、しかしできるだけフェアにかっこよく記述したらこうなったと言う感じのものであり、真相を知ると「ふふふ」と自然と笑みがこぼれる物語です。

 

そして倉阪さんの仕掛けたトリックに誰にも気づいてもらえないから、自分でネタバラシをするという物語の運び方がまた面白いです。

 

しかも倉阪さん自身の名前を物語の中に登場させ、自らの小説の考え方を語ったり、ネタバラシに利用する茶目っけぶりです。

 

しかし私が驚いたのは、作中作と言う形でページを利用した言葉の配置です。

 

「せんとう」と言う言葉の配置、「黒」と「鳥」、「白」と「鳥」、「死」と「ね」の配置は今まで私が読んだ本にはなかったため、それはもうビックリしました。

 

前のページに戻って確認したら本当にそうなっていました。

 

驚きのページの使い方は「ヴァン・ダインです」以外知らなかったものですから(笑)、ページの使い方にもいろいろある事を知りました。

 

なおページの上半分が「死ね」で埋め尽くされているのは斬新です。

 

言われて見れば読んでいる最中に「せんとう」と言う言葉(尖塔、先頭、剪刀、戦闘体制など)が頻繁に出てきて、言葉の使い方に違和感を感じてはいましたが、毎ページにあったとは夢にも思いませんでした。

 

なお最後まで読み終わると、物語の中においてどれが現実なのか区別がつかなくなります。

 

ファインアート研究会のメンバーが殺されたのは作中作の中。
 
物語の中で実際に黒鳥が殺されたのが東京の三崎町の銭湯。
しかし最終章の「エピローグ おまけの謎解き、そして・・・・・・」の下段では、主人とその息子の存在自体があやふやなものとして書かれているのですから。
上段だけ読めば、主人とその息子は人を殺しておきながらなんだかハッピーエンド的なんでけどね。

 

これも倉阪さんの一種の遊び心でしょうか・・

 

巻末の作品リストに「バカミス」と分類されているものが5作品ありました。

 

あと4作品・・全部読むかは未定ですが、もう1作品は読んでみたいと思います。
そして倉阪さんのバカミス以外の作品も読んでみたいです。

 

そしたら私の少ない読書履歴のなかで、いろいろ挑戦している意欲的な作家さんといえば綾辻行人さんでしたが、もしかしたら綾辻さんを超える挑戦的な人というイメージになるかもしれません。

 

(個人的評価)
笑える度      ☆☆☆
バカバカしさ    ☆☆☆☆
労力のかけ方    ☆☆☆☆☆  
真面目なバカミス度 ☆☆☆☆☆