このようなスケールの大きな話を読むのはずいぶん久しぶりな気がします。
ジウ(I・Ⅱ・Ⅲ) 以来でしょうか。
そしてハードボイルドを読むのは初めてだと思います。

 

とても面白く、最近は1冊を3日くらいかけて読んでいたのですが、この本は1日で一気に読めました。

 

時代、人物、背景描写ともに分かりやすく描写されており、難しさを感じさせないためとても読みやすかったです。

 

そして珍しく主人公がとても魅力的で好感が持てます。

 

今まで何冊かミステリー小説を読んできて、性格が屈折していたり軽かったりと、共感できない主人公が多かったように思います。
それに対して菊池は頭がいいが、ノーテンキでどこか抜けている、それでいて格闘は強い、女心は分からないがやさしくて周りに気を配ることができる。
やはりハードボイルドの主人公はこうでなくては!

 

なおここでも私の持論「能力があり、かつ人間味のある中年オヤジはかっこいい」が証明されてうれしく思います(笑)。

 

 

浅井もいい男ですね。ヤクザですけど。

 

菊池と浅井のコンビはもっと見てみたいですが、もう作者がお亡くなりになっているそうなので残念です。

 

優子さん・・不思議な女性です。

 

背表紙のあらすじで、「昔の恋人」と書かれていますが、物語では同棲してはいましたが映画を見たりとありあっさりした描写で、恋人のような記載はなかったと思います。
同棲していたことも菊池は「共同生活」と言っていますし・・だから私は物語を読んでから背表紙を見て、優子さんの片想いではなかったんだと理解しました。
私には行間が読めていなかったようです。

 

ところでなぜ優子さんはなぜニューヨークで桑野と何度も会っていたのでしょうか。

 

そしてタイトルにもなっている、テロリストの短歌をなぜ詠んだのかその心境が謎です。(しかもそれをサークルの会報に載せるほうもどうかしている気がします。)

 

物語の中でも『彼女のなかにあったのは、単にノスタルジアだったんだ』と桑野が言いますが・・物語の中の女性とはいえ女心とは分からないものです。

 

 

この本はミステリー小説ではないと思っているので、謎解きやトリックと言えるほどの物はありません。しかし誰が犯人かというのは、私の予想が珍しく当たりました。自分の腕を偽装のために残したという予想も当たりました。

 

 

桑野は最初は頭のいい穏やかな奴と思っていたのですが、海外で本格的にテロリストになってしまったのが悲しいですね。もっとも日本でも爆弾を作ったり、後に優子に乱暴した事が判明したり、それなりのことをしていますが。

 

 

学生運動のことは全然分かりませんが、桑野は『これがあの闘争を闘った僕らの世代の宿命だったんだ』に対し、菊池の『私たちは世代で生きてきたんじゃない。個人で生きてきたんだ。』はとても印象に残るやりとりです。

 

 

ただ学生運動に参加した者が皆テロリストになったり不幸になったりしていないので、格好良く「宿命」と言っても共感のできるものではありませんね。

 

 

(個人的評価)

 

面白さ         ☆☆☆☆☆
テロの悲惨さ    ☆☆☆☆
描写の巧さ     ☆☆☆☆
中年のかっこよさ ☆☆☆☆