タイトルから内容が全く想像できなかったのでどんな内容なのか楽しみにしていました。

 

早速ネタバレですが、これも「ラスト1行」の物語ですが、そのラスト1行は私としては蛇足なのかなと思いました。

 

でもその1行が書かれたエピローグはある意味作者の荻原浩さんが言いたかった事だと思うので必要であったのでしょう。

 

物語としてはとても面白く読めました。

 

口コミを利用した販売拡大の方法をWOM(Word of Mouth)というんですね。勉強になります。

 

中年の巡査部長の男性刑事と若い警部補の女性の刑事は、だんだんと絆が強まりコンビとして活躍していく様子がとてもステキです。名島がぺディキアの向きが逆になっていることの推理が女性ならではと思います。

 

またこの二人が男女としてだんだんいい雰囲気になっていくのですが、物語の中で行き過ぎないので、恋愛要素と言えるものではなく、ちょうどいい感じです。

 

そしておじさんの小暮が情報収集のために渋谷の若者に絡まれる(?)ところはとても好きです。この描写のために荻原さんは実際に渋谷の若者たちと取材のために話をした(絡まれた?)のでしょうか。

 

 

犯人の西崎は足フェチでそれが犯行のきっかけだったときはちょっとずっこけましたが・・人間いろいろですね。

 

杖村はだんだん化けの皮がはがれて、性格が悪いことがバレていく様子が痛快です。しかしこの人は殺されてしまいます。
別に何か悪い事をしたわけでもない・・完全な被害者なのに、なぜか殺されても仕方がないと思ってしまうのは、性格が悪いからでしょうか(笑)。

 

前述の通り、私はこの物語の主題はエピローグにあるのだろうと思っています。「噂」というタイトルどおり、いかに人が噂に踊らされるかをエピローグで女子高生に語らせているのです。

 

 
女子高生は大人が故意に作った噂になんか踊らされないと大人をバカにしつつも、何の根拠もない噂を信じて、麻生の携帯を「タンツボ」にして、さらに杖村を殺してしまって、どちらも間違いであったと気づいてなお、相手も悪い奴で自分たちは間違っていなかったと正当化しています。
しかもその中で「人の死体を食品加工場でミンチにして処理する」といった噂(都市伝説といったほうがいいのかも)までブッこんできます。

 

読者の視点で見るといかに愚かなことであるか分かるのですが、現実世界では噂が流れきたら信憑性を疑いつつも、検証が困難なので結局は何となく真実なのだと錯覚をしてしまうのではないかと思います。

 

 

この物語が平成18年発売で、物語の中でもiモードとか懐かしい言葉が出てきます。そしてこのころは家庭ではインターネットがあるのが当たり前でした。

 

さらに今はインターネットのコンテンツもより充実しスマートフォンも普及しているので、疑問があればすぐに手元で調べることはできますが、そこまで情報リテラシーを持つ人がどれだけいるのでしょうか。
 
とくに若者であれば狭いコミュニティの中の口コミのほうが影響力があり、噂も真実とされてしまうのではないかと思います。結局10年前、さらに前、そして今も、噂のもつ影響力や怖さといったものはあまり変わっていないのではないでしょうか。

 

さて問題のラスト1行・・菜摘なんでしょうね、これは。会話の様子から菜摘一人ではなく友達と殺したようですが、普通そこまでやるか!?と思わざるを得ません。

 

菜摘はイマドキの普通の女子高生として書かれていますから、普通の女子高生(もっと範囲を広げて普通である人たち)も噂に踊らされると殺人もやりかねないという荻原さんからのメッセージなのでしょうか。

 

物語の中で杖村の殺人事件は西崎の犯行とされているようなので、おそらく菜摘は捕まらないでしょう。しかしこれがあるために小暮と名島がこの先、いい感じになりそうなのに、どうしても将来的に不吉な何かがあるような気がします。

 

この1行でこの小説も「イヤミス」の部類に入るのではないでしょうか。

 

(個人的評価)
ミステリー               ☆☆☆
イヤミス度               ☆☆☆
渋谷の若者の遠慮なさ   ☆☆☆☆
ロシアンブルーの頭の軽さ ☆×100
 
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