鈴木あきひろ 一言日記
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日本の安全保障議論と政治の責任

1. 地方議会における「非核三原則の堅持を求める意見書」の採択について

先般、地元の区議の方より大田区議会第一回定例会において「非核三原則の堅持を求める意見書」が採択された旨の報告を受けました。かかる意見書の動きは、いわゆる高市政権の発足以降、総理の安全保障に関する発言の一部を殊更に取り上げるかのごとく、各地の地方議会において同様の動向として広がりを見せています。

この一連の動きは、総理の「存立危機事態」に関する発言に対する中国の反応に呼応するかのような、一部政治勢力の執拗な態度と軌を一にするものと考えられます。

周知のとおり、近年の東アジアにおける安全保障環境は、かつてないほど緊迫の度を深めています。中国は急速な軍備拡張を進め、台湾周辺海域において大規模な軍事演習を繰り返しております。

加えてロシアによるウクライナ侵攻、中東情勢の不安定化、さらには北朝鮮による核・ミサイル開発の進展など、我が国を取り巻く環境は大きく変容しております。

こうした現実の下、台湾有事への対応を含む我が国の安全保障政策について、国会において活発な議論が行われていること自体は評価されるべきであります。しかしながら、その中には現実の安全保障環境を十分に踏まえることなく、専ら理念的・政治的主張に終始する議論を繰り返し、政治の責任を十分に果たしているとは言い難い姿勢も散見されます。

かかる国政レベルでの議論のあり方は、地方議会における安易な意見書提出の動向にも影響を及ぼしているものと考えられます。すなわち、冷静かつ実証的な安全保障議論よりも、政権批判を主目的とする政治運動的側面が前面に出ている点は否めず、議会における討論の質そのものが問われていると言わざるを得ません。

2. 非核三原則と核抑止力の現実

我が国は戦後、「持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則を国是として掲げてきました。これは核兵器の惨禍を経験した唯一の被爆国としての倫理的立場を内外に示すものであり、その意義は今日においても極めて重いものであります。

しかしながら同時に、日本の安全保障は日米同盟の下、米国の核抑止力、すなわち「核の傘」に依拠しているという現実の上に成り立っていることもまた厳然たる事実であります。

核兵器廃絶に向けた国際的な核軍縮の取り組みは、言うまでもなく重要であります。その一方で、核戦力の増強を続ける国家の存在を踏まえれば、軍事的均衡の維持という観点から抑止力を確保する必要性も否定し得ません。

このような現実を踏まえれば、高市総理をはじめ政府関係者による一連の発言は、理念と現実の双方を視野に入れたものとして理解し得るものです。特に、厳しさを増す安全保障環境において、日本が核抑止力に依存している現実を直視するならば、核政策を理念のみで論ずることの限界は明らかなことであります。

さらに、国際情勢の不安定化は、エネルギー安全保障や海上交通路の安定確保といった課題を通じて、我が国の安全保障に直接的影響を及ぼしております。

こうした中で、地方議会が安全保障に関する意見表明を行うにあたっては、その影響の重大性を十分に認識する必要があります。とりわけ安全保障は、高度に専門的かつ複雑な政策領域であります 不十分な理解に基づく議論は、理念と現実の乖離を拡大させるのみならず、国民世論の分断を助長する危険性を孕んであります。

地方議会には、単なる意見表明にとどまることなく、住民の安全と平和の両立を真に追及する成熟した政治判断が求められます。

各議会においては、いわゆるポピュリズム的傾向に流されることなく、国家の一翼を担う機関としての責任と矜持に基づく慎重かつ理性的な議論が展開されることを強く期待するものであります。

3. 日仏首脳会談と我が国が果たすべき役割

厳しさを増す国際情勢の下、4月1日に行われた高市総理とマクロン大統領との日仏首脳会談は極めて重要な意義を有するものです。唯一の戦争被爆国である日本と、独自の核抑止力を保持するフランスが、安全保障および核を巡る諸課題について対話を深めたことは、二国間関係にとどまらず、国際社会全体に対する責任ある姿勢の表明として評価されるべきであると思います。

とりわけ、我が国が求められているのは、理念の発信にとどまらず、現実の安全保障環境を踏まえた具体的かつ実効的な外交の展開であります。非核三原則の堅持を掲げる以上、その信頼性を担保するための同盟の強化や抑止力のあり方について、国民に対する率直かつ丁寧な説明が不可欠であります。

理念のみを掲げ、現実から目を背けることは、かえって国家の安全を損なう結果を招きかねません。

同時に日本は被爆国として、核軍縮及び不拡散に向けた国際的な橋渡し役を果たすべき立場にあります。核保有国と非保有国との問いに横たわる深い溝を踏まえつつ、現実に根ざした対話と信頼醸成を主導していくことこそ、日本外交の真価が問われるものであります。

政治の責任とは、単に耳障りの良い理想を掲げることではありません。

厳しい現実を国民と共有し、その上で最善の選択を導き出す覚悟を持つことにこそ、その本質があります。

本首脳会談を一つの契機として、日本がいかなる安全保障観を持ち、いかなる役割を果たしていくのか、その方向性を明確に示すことが、今強く求められていると思います。   

東日本大震災から15年

━ 記憶の継承と復興の課題、そして東京の責任 ━

2026年3月11日、東日本大震災の発生から15年を迎えました。警察庁によれば、この震災による死者は1万5,901人、そして災害関連死を含めると1万9,711人に上ります。さらに現在でも行方が分からない方々2,519人を合わせると、死者・行方不明者2万2,230人という甚大な被害となっています。

心より哀悼の意を表します。

この日、被災地のみならず全国各地で慰霊祭・追悼式が行われ、それぞれの人々が、お亡くなりになられた方々と向き合い、静かに祈りを捧げました。多くの人が身近な人の死と向き合いながら、それでも必死に立ち上がり、前を向いて生きてきた15年であったと思います。

1. 震災が突き付けた「生かされている命」

震災は多くの命を奪いました。しかし同時に、残された私たちに「生かされている命」の意味を問い続けています。

奈良・薬師寺の高田好胤元館主は、「真実の対話は、死に別れた日から始まる」と述べられています。

亡き人との対話を通し、亡き人の分まで生きる。至らない自分を自覚し、だからこそ生かされている命に感謝し、生きていく。亡き人との対話は終わることはないと思います。

2. 故郷・福島が受けた二重の被害

私の父の故郷である福島県富岡町は、震災による津波被害に加え、福島第一原発によって長期に亘る非難を余儀なくされた地域です。そこには、家族、仕事、学校、友人、地域社会等すべての日常がありました。しかしその日常も、震災と原発事故によって、その生活の基盤のすべてが奪われてしまいました。

富岡町の人口は、震災前は約1万6,000人でしたが、現在では約2,000人前後(昼間の人口は1万人弱)で、人口の約9割が減少したままです。

若い世代の帰還率は低く、特に子育て世代の戻りは限定的です。教育・医療・雇用などの生活基盤が十分に回復しておらず、原発事故による風評被害の影響が大きいとされています。

3. 福島の電力で成り立っている首都圏

忘れてはならない事実は、震災前、福島県で発電された電力の約8割は首都圏で消費されていたという事です。

つまり福島県は、首都圏の豊かな生活を支える「電力供給地」でありました。

この事実は、私たち首都圏に住む者に大きな責任を問いかけていると思います。

原子力によって私たちは本当に豊かな社会を築けていたのか。原子力の裏側で、誰かがリスクを背負う社会でよかったのか。この問いは今も終わっていないと思います。

4. 廃炉という100年の国家課題

福島第一原発の廃炉作業は今も続いています。廃炉完了までの期間は30~40年以上とされておりますが、実際には100年規模の国家課題とも言われています。現在も、燃料デブリの取り出し、汚染水処理、廃棄物管理など前例のない挑戦が続いています。

震災は終わっていません。

復興もまだまだ道半ばです。

5. 新しい未来への挑戦 ━ 水素社会 ━

今、福島は未来への挑戦を始めています。福島の復興は、「復旧」から「新しい地域モデルの創出」という段階に入っています。人口減少、産業基盤の弱体化という課題を乗り越えるために、未来志向の産業政策が必要だからです。その柱となるのが、再生可能エネルギー拠点化とデジタル産業の集積です。

その象徴が、浪江町の水素エネルギー拠点になります。

福島では再生可能エネルギーを活用した世界最大級の水素製造施設(FH2R)が整備され、水素社会の実現が進められています。

この水素は、東京2020大会の水素燃料車や聖火台などにも活用されました。そして現在東京都も、水素エネルギー社会の実現に向け、福島と連携しています。

震災を契機に、「原子力依存から未来エネルギーへ」という新たな挑戦が始まっています。そしてその先に、グリーンデータセンターという新しい産業モデルを目指しています。

6. 復興政策の課題

東北復興予算は現在、福島県を除き終了しました。しかし復興は単なるインフラ整備ではありません。本当に必要なものは、「人の復興」にあると感じます。人口減少、若者の帰還率の低さ、医療・教育不足、心のケア、地域コミュニティ再生など、生活を支えるソフト面の課題が残されています。震災の記憶が風化する中で、支援が縮小されていくことには大きな懸念があります。

7. 東京の責任と防災

震災の教訓は、東京にも突き付けられています。

首都直下地震の想定は、死者数2万人、建物被害約60万棟と言われております。だからこそ防災力の強化、都市インフラの耐震化、避難体制の整備、帰宅困難者対策、防災教育が不可欠です。

そしてもう一つ大切なことは、防災は日頃の備えが何よりも大切という教訓、

震災の記憶を伝え続けることだと思います。

東日本大震災は、多くの尊い命を奪いました。この不条理な震災を、私たちがどのように受け止め、どのように未来につなげていくのかということが求められています。

お亡くなりになられた方々の残した問いは、今も私たちに語り続けています。

私たちは何かの役割を持って生かされている存在だと思います。

だからこそ、この命を社会のために役立てていきたいと思っています。

東京都から「分配の好循環」を創る

━ 円安インフレ下の実質賃金低下と行政の役割 ━

1. 円安インフレ下で進む実質賃金の低下

2026年春闘は大詰めを迎えています。

現在の日本経済は、円安とインフレの進行という新たな局面に直面しています。企業収益は改善している一方で、物価上昇を上回る賃上げは依然として十分とは言えず、実質賃金は低下傾向にあります。

総務省の消費者物価指数は、2024~2025年にかけて3%台の上昇が続いています。

一方で春闘賃上げ率は、

●2024年 5.33%

●2025年 5.25%

と歴史的高水準となっていますが、このうち2%は定期昇給であり、実質的にベースアップは3%前後であります。結果として、物価上昇率とほぼ同水準にとどまり、実質賃金の上昇は極わずかであります。この状況は、家計の購買力を低下させ、消費の停滞を招いています。

経済学では、消費者が支払ってもよいと考える価格と実際の価格との差を、「消費者余剰」と呼びます。

例えば、1,000円の価値があると感じる商品を800円で購入できれば、200円の満足度が余剰として得られることになります。

しかし近年は急激な物価上昇により、

●食料価格

●エネルギー価格

●住宅関連費

が上昇し、生活者の可処分所得は実質的に減少しています。

その結果、消費者余剰は縮小し、生活水準の低下や生活苦に繋がっています。

これまで日本は、生産性向上によって生まれた利益が十分に価格に転嫁されず、質の高いサービスを比較的安価に享受できる構造が存在しました。

この「大きな消費者余剰」があったため、実質賃金が長く上がらなくても生活が維持されてきました。しかし現在は、インフレが直接国民生活を圧迫する局面であり、企業収益をどのように分配するかが、日本経済の持続的成長の鍵となっています。

2. 円安インフレの背景

現在のインフレの背景には、国際金融環境の変化があります。コロナ禍では世界各国が大規模な金融緩和を実施しましたが、その後世界的にインフレ圧力が高まり、米国、欧州などは急速な利上げ政策に転換しました。

一方日本はデフレ脱却を目的に2%のインフレ目標を掲げ、低金利政策を維持しました。この政策は、コロナ化で急増した企業債務の負担軽減に寄与しました。特に中小企業においては、資金繰りの安定が図られ、企業倒産を歴史的水準に抑えることができ、設備投資や雇用の維持、また株価上昇、不動産投資の拡大を通じて、日本経済の回復を支える役割を果たしてきました。しかしこれにより、日本と海外との間で大きな金利差が生まれました。投資資金はより高い金利を求めて移動するため、低金利の円を売り、高金利のドルを買う動きが強まり、円安が進行しました。

このように金利差によって得られる利益を金利差益(キャリートレード)と呼びます。

更にロシアによるウクライナ侵攻、エネルギー市場の混乱などにより、原油、LNG、食料などの輸入価格が上昇しました。円安は輸入物価をさらに押し上げ、結果として日本国内では、エネルギー価格、食料価格が上昇し、国民生活を直撃しています。

一方で円安は輸出企業の収益を押し上げました。特に自動車産業などでは為替差益が大きく、企業収益は大幅に改善しています。企業収益の改善を背景に春闘でも賃上げは続いていますが、インフレ率を上回る水準には至っていません。

2026年春闘も5%前後の賃上げ維持が焦点となっていますが、実質賃金を押し上げるためには、物価上昇を上回るベースアップが求められています。

3. 賃金が上がらなかった日本の構造

日本で賃金が長期停滞した背景には、バブル崩壊後の企業行動の変化があります。

(1)メインバンク制の崩壊

1990年代のバブル崩壊後、日本企業は金融危機に直面しました。従来企業を支えていたメインバンク制が弱まり、企業はこれまで通りの長期雇用制度を維持するため、自ら資金を確保する必要に迫られました。その結果内部留保の蓄積、雇用維持のためのコスト抑制が企業経営の基本となりました。

(2)内部留保の積み上げ

企業は利益を賃金ではなく、将来の不確実性への備えとして、内部留保に回す傾向を強めました。

日本企業の内部留保は

●2000年頃 約200兆円

●2013年頃 約330兆円

●2024年頃 約550兆円

とバブル崩壊後、約5倍に増加しています。

こうした内部留保は、リーマンショック、コロナ禍といった危機を乗り越える安全装置として機能しました。しかしその成功体験が現在では、投資の抑制、賃上げの慎重姿勢につながり、円安インフレ下の成長を阻む要因となっています。

4. 地方自治体と非正規雇用の拡大

地方自治体もまた、長期デフレの影響を強く受けました。バブル崩壊後、地方税収の減少(東京都も4年で1兆円減収)、高齢化による社会保障費の増加、バブル期に整備した施設の維持費などにより財政が圧迫されました。

その結果、多くの自治体では職員定数の削減、人件費抑制が進められ、代替として非正規雇用が拡大していきました。

この流れは、日本社会全体の雇用構造にも影響を与えました。

5. 非正規雇用の増加と社会保障制度

1990年代後半から2000年代にかけて日本では、非正規雇用が急増しました。

●1990年 約20%

●2024年 約37%

まで拡大しています。

その背景には、社会保障制度も関係しています。高齢化の進展により社会保障費が増加し、企業にとって社会保険料は重要な労働コストとなりました。企業はコスト調整のため、正規雇用削減、非正規雇用拡大という形で対応してきました。

さらに2000年代の労働市場改革では、雇用の流動化が推進され、非正規雇用の活用が制度的に拡大しました。

その結果

●低所得層の拡大

●就職氷河期世代の形成

●少子化の加速

など社会的影響が生じました。

6. 東京都における非正規雇用の実態

東京都の職員構成は

●総職員数 約16万8,000人(警察・消防・教育職員を含む)

●知事部局数 この内の3万3,000人

一方会計年度任用職員(非正規職員)は、約2万2,819人にのぼっております。

構成を見ると

●61歳未満 女性72%

●61歳以上 男性53% 女性47%

となっており、若年層では女性の割合が高く、高齢層では再雇用男性が多い構成となっています。

多くの会計年度任用職員は

●1年契約

●更新上限4回

●昇給なし

という不安定な雇用条件にあります。

東京都の最低賃金は2025年度で1,226円と全国最高水準でありますが、東京は住宅費・生活費も全国最高水準であります。

また民間企業では

●平均時給 1,381円

と、東京都の最低賃金より155円高い水準となっています。

業種別では

●不動産業 1,481円

●建設業 1,431円

●ITサービス 1300円以上

などの水準となっています。

一方行政の非正規職員の年収は、約200~250万円程度であり、正規職員の6~7割程度にとどまっています。このような不安定雇用は、結婚、出産、子育てを困難にし、少子化の要因ともなっています。

7. 教育現場への影響

教育現場では教員の負担軽減を図るため、会計年度任用職員の配置を積極的に進めてきました。学習支援員、教育補助員、スクールカウンセラーなどがその例です。

特にスクールカウンセラーは文部科学省の事業として配置が進められてきましたが、東京都では不登校対策、いじめ対応などの需要が急増しています。しかし多くのスクールカウンセラーは、週1~2勤務、複数校掛け持ちという体制であり、児童・保護者・教員からの相談に十分対応ができない状況が指摘されており、勤務時間外の対応も多く、実質的な労働負担はかなり大きいと言えます。

8. 東京都が果たすべき役割

東京都は女性活躍社会推進、子育て支援充実を政策の柱として掲げております。しかし現実的には、行政自身が大量の不安定雇用を抱え、その雇用者の7割が女性であり、未婚者が多いという現状では、この理念に矛盾していると感じています。

東京都職員の給与は人事委員会勧告に基づきますが、会計年度任用職員の給与は最低賃金基準に設定される場合が多く、仕事内容が十分に反映されにくい状況が続いています。是非とも行政評価の観点に、業務の適正評価も加え、行政の質の向上にも取り組むべきです。

2025年度は、企業収益の改善により、約4,590億円の税収増となりました。そうした状況において、現在求められているのは、デフレ期のような行政コスト削減ではありません。

求められるのは、行政コストの適正化とともに

行政サービスの質の向上、人材確保への投資です。

東京都が会計年度任用職員の賃金を引き上げることは

●分配の好循環の創出

●女性活躍の推進

●教育の質の向上

など多くの効果をもたらします。

【東京から「分配の好循環」をつくる】

現在の国際情勢は不安定であり、企業は将来不安から、中小企業を中心に賃上げに慎重になりがちです。日本経済はこれまで金融危機、リーマンショック、コロナ禍など幾度も危機を経験し、乗り越えてきました。だからこそ、今必要なのは、国による責任ある積極財政・民間企業による実質賃金の上昇・消費者余剰の回復であります。

その中で、東京都が会計年度任用職員の待遇改善を進めることは、単なる賃金政策にとどまらず、日本経済全体にとって、「分配の好循環」を促す象徴的な政策となります。

是非東京から分配の好循環を生み出すという強いメッセージを発信していただきたいと強く求めてまいります。

東京デフリンピック大会の成果と歴史的意義

2025年11月15日~26日の期間、東京を舞台に開催されました第25回夏季デフリンピック大会を通し、東京都議会スポーツ推進議員連盟会長として、また東京都と連携して応援させていただいた者として、成果と歴史的意義についてお伝えいたします。

はじめに、東京2020大会の負の影響が残る中、大会の企画・準備・運営に関わられた大会関係者の皆様、また大会にご協力をいただきました企業・ボランティアの方々・関係各位の方々に、心より敬意を表し、感謝申し上げます。

東京2020大会がコロナにより無観客開催だったこともあり、この大会では聴覚障がいのアスリートの熱い戦いを間近で感じることができ、様々な場で観戦されました多くの方々に、スポーツの魅力、価値を発信することができた素晴らしい機会になりました。

特に、単なる国際スポーツ大会にとどまらず、聴覚障がい者の権利、コミュニケーションの保障、そして共生社会の実現を世界に問いかける歴史的大会になったことは、大変意義のあることと感じます。

改めてこの歴史的大会を振り返り、大会の成果を共有させていただきたいと思います。

①デフリンピックの歩みと社会的進化

デフリンピックは1924年パリで開催されました「国際ろう者競技大会」を起源として、約100年の歴史を持つ世界最古の障がい者スポーツ大会です。

現在は国際ろう者スポーツ委員会(ICSP)が主催し、国際的なスポーツ大会として確立しています。

パラリンピックが身体障がい全般を対象とするのに対し、デフリンピックは聴覚障がい者を対象とし、補聴器等を使用せず、視覚的合図によって競技を行う点に特色があります。音に依存しない競技環境は、「情報保障」や「コミュニケーションの権利」という現代社会の根源的課題を浮き彫りにしてきました。

近年、国連の障害者権利条約の理念が浸透する中で、デフリンピックは「競技大会」から「社会変革の装置」へと進化してきました。この度の大会は、開催都市である東京が、情報アクセシビリティや手話言語の社会的認知向上に取り組み、条例を制定し、スポーツと社会制度改革を結び付けられた点で、大変画期的なものとなりました。

前回の2022年ブラジル大会と比較すると、この大会は単なる国際交流の場にとどまらず、都市政策・条例整備・企業理念との接続を明確に打ち出した点で、大きな進化を示すことができました。

②大会の意義と成果

(1)競技レベルの向上

この大会では、参加国・地域数・競技水準ともに過去最高水準を記録し、国際大会としての競技力は著しく向上したと言われています。トレーニング科学の進展、情報共有のグローバル化により、聴覚障がい者スポーツは確実に高度化してきています。

これは障がいの有無にかかわらず、「アスリートとしての能力」を正当に評価する社会的土壌の拡大を意味しています。

(2)運営体制の高度化

ICTの活用、多言語・手話対応、視覚情報の徹底整備など、運営体制は質的転換を遂げました。特にリアルタイム字幕配信や手話通訳の標準配置は、今後の国際大会のモデルケースになります。

前回大会と比べ、アクセシビリティを「配慮」ではなく「前提」とした設計思想が明確であり、持続可能な大会運営モデルを提示した点は特筆に値します。

(3)ボランティアの積極的活用

多数の市民ボランティアが参加し、手話学習者や若年層の参画が広がったことは、社会的レガシーとして重要であります。これは東京2020大会の経験を継承し、市民参加型大会として成熟してきた証であり、毎年の東京マラソンにも活かされています。

(4)民間資金の活用と持続可能モデル

公費依存型ではなく、民間資金を積極的に活用した点も、大会の大きな特徴です。大会は財政規律と社会的価値創出を両立させた持続可能モデルを示しました。

③デフリンピック協賛企業との理念共有

(1)160社の協賛とその意義

大会には約160社の企業が協賛しました。これは資金支援にとどまらず、「多様性の尊重」「情報アクセシビリティの確保」「共生社会の実現」という理念への共感を意味します。

企業側にとっても単なるCSR活動ではなく、経営理念と社会課題を結び付ける戦略的投資になりました。

(2)理念共有がもたらす社会的波及効果

協賛企業が大会理念を社内外に発信することで、職場環境の改善、合理的配慮の推進、手話言語の普及など、社会全体への波及効果が生まれました。

前回大会では、企業協賛は一定規模にとどまっていましたが、この大会では、「理念連携型スポンサーシップ」という新たな段階へ進化しました。

このことは、スポーツを媒介とした社会変革の可能性を拡張しました。

④大会の価値と未来への展望

この大会の最大の価値は、「聴覚障がい」という個別課題を超え、社会の情報構造そのものを問い直した点であります。

音声中心社会から視覚情報を重視する社会へ。

一方向の伝達から双方向の理解へ。

デフリンピックはコミュニケーションのあり方を再設計する契機になりました。

今後は

●手話言語の法的地位向上

●インクルーシブ教育の推進

●国際大会モデルの横展開

といった分野でのレガシーが具体化されることが期待されています。

2025年夏季デフリンピック大会は、単なるスポーツイベントではなく、障がいを「克服すべき対象」とする旧来の発想から、「多様性の一形態」として尊重する社会への転換点になりました。

前回大会が国際的認知拡大の段階であったとすれば、この大会は「社会制度と経済活動を巻き込む構造的進化」の段階に入ったと評価されると思います。

スポーツの力は、競技場の中にとどまりません。理念を共有する企業・市民・行政が連携するとき、社会は確実に変化します。

第25回夏季デフリンピック競技大会は、その未来への道筋を明確に示した歴史的大会として、私たちの記憶に残っていくものと思います。

大田区における特区民泊の現状と課題

━ 申請動向、地域住民との軋轢、行政対応の限界 ━

大田区は、2016年に全国で初めて国家戦略特区制度を活用し、特区民泊制度を導入し、訪日需要の受け皿として民泊事業を展開してきました。特区民泊は通常の「住宅宿泊事業法」の年間180日制限を適用除外し、2泊3日以上から365日まで営業できることが特徴であり、民泊の営業機会を大幅に広げています。

しかし、制度導入から年月が経過する中で、観光振興という政策目的と、地域住民の生活環境保全との間に深刻な緊張関係が生じています。

今回は、私が様々な相談を受ける中で感じている共通した課題

●特定指定エリアの広範性(住宅専用地域への影響)

●説明会運営の限界

●行政責任の所在

についてお伝えいたします。

1. 大田区における特区民泊申請の状況

昨年末の段階で申請数は800室を超えており、不動産会社や代行業者からの情報では、近年大田区で特区民泊の申請相談が急増し、事前予約が2ヶ月分埋まっている状況が続いているとの報告から、既に1,000室を超えているものと感じます。

理由は、都内で唯一の特区民泊事業が行えるエリアであり、国際空港として深夜便も多い羽田空港に近く、現在の円安が増加に拍車をかけています。

2. 特区指定エリアの広範性と住宅専用地域への影響

大田区の特区民泊制度は、区内の広範囲を対象区域としています。その結果、第一種・第二種低層住宅専用地域等の閑静な住宅地にも制度が及んでいる点が大きな特徴です。

本来第一種住宅専用地域は、都市計画法で定められた用途地域の一つで、静穏な居住環境の保護、教育施設や子育て環境の安全確保、近隣住民の生活秩序維持を目的とする用途地域です。

しかし特区民泊は、旅館業法上の「簡易宿泊所」とは異なり、一定条件下において住宅地域でも365日営業が可能となる制度設計であります。そのため、スーツケースの搬入出、深夜・早朝の出入り、ごみ出しルール違反、生活習慣・文化差による摩擦、盗撮といった問題が発生しやすくなります。

特に問題視されているのは、「突然の環境変化」です。

従来、近隣住民は長年にわたり形成してきた静穏な生活環境を前提に居住しています。そこに突如、短期滞在型の外国人旅行者が出入りする施設が設置されることにより、心理的不安が生じます。これは単なる騒音問題ではなく、地域コミュニティーの構造変化に関わる問題であり、私が相談を受けた共通の問題になっています。

3. 小学校近隣立地と地域不安

小学校の正門近くでの開業予定事例では、保護者、学校長、地域住民から強い懸念が示されています。

主な不安要素は

(1)不特定多数の出入りによる防犯上の不安(利用者からの声掛け、写真撮影とSNSへのアップ)

(2)子どもの通学動線との重複((1)に通じる)

(3)トラブル発生時の責任所在

(4)運営事業者の継続的管理能力(管理会社の変更が度々起こる)

説明会は開催されたものの、特に(4)の運営事業者の実態が定かでなく、継続的に同意内容が担保されるのか未知であり、保護者の方々との溝は埋まりませんでした。

その背景には、制度自体の理解不足、行政の関与が限定的、許可基準が住民感覚と乖離しているという大きな課題があると感じます。

特に大田区では、性悪説の立場になりがちな保護者と、ルールがあるので問題ないという性善説の立場の行政との感覚の乖離は決定的です。

特区エリアに学校などの教育施設がある場合の対応を全くとっていない状況により、何か起こった時の行政責任は大きく問われると感じます。つまり住民理解を得る制度設計が不十分であり、今後の大きな課題であると感じます。

4. 説明会の限界と行政の不在

4-1. 説明会だけでは解決できない構造問題

現在の枠組みでは、開業前に住民説明会を実施することが求められていますが、そこには以下の限界があります。

●住民の同意は要件ではない

●出席者が限定的である

●制度そのものは変更できない

●説明しても不安は消えない

つまり、説明会は合意形成の場ではなく、事後報告的な性格を持つものです。

4-2. 行政が説明会に出席しないという問題

さらに課題として指摘されているのが、説明会に行政担当者が出席しない、あるいは積極的な説明を行わないケースが多いことです。

住民から見れば、制度を作ったのも行政、許可を出すのも行政、監督責任も行政であるにもかかわらず、説明責任が事業者任せとなる構図が生じています。

これにより、住民の不信感の増幅、行政への苦情集中、事業者との住民直接対立という悪循環が発生しています。つまり民泊は住宅地に直接影響するものの、行政による丁寧な説明とルール整備がなく、住民理解と合意形成が圧倒的に不足しているという課題です。

5. 他自治体の動向との比較

※大阪市

大阪市では2013年以降、特区民泊が約7,000件規模に集中し、ごみ・騒音問題が頻発したとされます。現在は、特区制度を使わない全国共通の制度で民泊を管理することで、特区民泊の新規受付終了の方向へ舵を切るなど、制度の抑制的運用に転換しつつあります。

問題点は 

●一度許可すると特区廃止後も継続可能

 ●集中立地による地域負担増大

 ●行政監督コストの増加

※新宿区

新宿区では報告業務違反等により、業務改善命令を発出するなど、厳格な行政対応を取っています。これは「許可後の監督強化」を重視する姿勢を示すものです。

6. 大田区の今後の政策課題

6-1. 用途地域別の制度見直し

住宅専用地域における特区民泊の是非を再検討する必要があります。

少なくとも 

●小学校・保育園・幼稚園周辺における特別配慮

●低層住宅地での制限強化

●集中抑制策

が検討課題と考えています。

6-2. 行政の説明責任の明確化

説明会への行政参加をまず制度化するべきです。住宅地に直接影響するため、住民理解、合意形成を事業者任せにしないことです。

そして 

 ●許可基準の説明

 ●監督体制の明確化

 ●苦情窓口の明確化

を徹底する必要があると思います。

6-3. 事後監督の実効性確保

 ●定期報告義務の厳格運用

 ●違反時の迅速な業務停止

 ●公表制度の強化

がまず何よりも不可欠です。

6-4. 地域共生モデルの構築

単なる規制強化でなく、

 ●地域との協定制度

 ●運営責任者の常駐義務

 ●多言語ルール掲示徹底

など共生型モデルの構築を大田区が主導で行うことが大切です。

大田区の特区民泊は、観光振興政策として一定の役割を果たしてきましたが、住宅専用地域への広範な適用により、地域社会との摩擦が深刻化しています。

特に

 ●閑静な住宅地への急激な環境変化

 ●行政の説明責任の不十分さ

 ●監督体制の限界

が構造的課題となっています。

今後は「許可する行政」から「共に責任を持つ行政」への転換が求められます。

制度の持続可能性は観光需要ではなく、地域住民の信頼の上にのみ成り立つと思います。

尚、ご相談いただいておりました小学校正門前の特区民泊につきましては、地元町会の皆様が中心となり、子どもたちの通学環境や地域の生活環境を守る観点から、行政への要望活動や事業者への丁寧な説明を求める働きかけを粘り強く続けてこられ、当該事業者が当該場所での営業を断念し、撤退するという結果に至りました。

これは地域の皆様が主体的に声を上げ、子どもたちの安全と地域環境を守ろうとされた真摯な取り組みが実を結んだものと受け止めております。改めて地域の皆様の熱心な活動とご努力に深く敬意を表します。ここにご報告いたします。

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