毎日新聞 4月18日(水)15時1分配信
 
現在の気候条件では70~100年に1回程度しか本州沿岸に接近しない最大風速54メートル超の最強クラスの台風が、今世紀末には10~20年に1回程度接近する可能性があることが、気象庁気象研究所と海洋研究開発機構の共同研究チームによるシミュレーションで分かった。地球温暖化の影響で、中心気圧が850ヘクトパスカルを下回る史上最強の台風が発生する恐れもあるという。

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 気象庁は最大風速33メートル以上を「強い」、44メートル以上を「非常に強い」、54メートル以上を「猛烈な」台風と分類。研究チームはスーパーコンピューター「地球シミュレータ」で、2075~99年の台風の発生状況などを予測した。

 その結果、平均気温は日本付近で2~3度上昇。上層の大気も暖かくなり対流が弱まることで、台風の発生個数は現在より2割程度少ない年間20個弱となった。しかし、強度は増す傾向が表れ、最強クラスの台風が10~20年に1回程度、九州から関東にかけての太平洋沿岸に接近。中心気圧850ヘクトパスカル以下という、かつて経験したことのない強さの台風が発生する可能性も示された。

 これまでの最強の台風は、日本の南海上で870ヘクトパスカルまで発達した79年の台風20号。965ヘクトパスカルで上陸し、全国で115人の死者・行方不明者が出た。上陸時の中心気圧では、1828(文政11)年、九州・中国地方に大きな被害をもたらした「子年(ねのとし)の大風(おおかぜ)」(通称・シーボルト台風)の900ヘクトパスカルが過去300年で最強との研究成果がある。

 また、北中米で発生するハリケーンでは900ヘクトパスカル以下で大陸に上陸した例も。米南部に大きな被害をもたらした05年の「カトリーナ」は最低気圧902ヘクトパスカルを記録した。

 海洋研究開発機構の杉正人・特任上席研究員は「室戸台風や伊勢湾台風など、50~80年前は最強クラスの台風の上陸が相次いだ。最近はたまたま襲来していないだけという見方もできる。台風による大災害は決して過去の話ではない」と警告。気象庁予報課は「ゆっくり進んで大きな被害をもたらした昨年の台風12号のように、台風の強さだけでなく、進み方も被害と大きく関係する」と指摘している。【池田知広】

 ◇台風の勢力

 気象庁は指標として10分間平均の最大風速を採用。大きさでは風速15メートル以上の領域の半径が500キロ以上を「大型」、800キロ以上を「超大型」としている。中心気圧は指標として用いられていないが、低いほど最大風速は強くなり、気象庁は気象衛星画像を基に中心気圧など台風の勢力を解析している。