ピアノのための「雪原にて」の最初の部分は、面白い場面で閃いたものである。

おそらく15年は前だろう。マジックとオールディーズバンドを合体させた『暗黒魔術団』でベースと編曲を担当していた。その営業で大井競馬場のレースの合間にステージをやるという仕事があった。数レースおきのステージなので、些末な額の馬券を買ったり、売店でいろいろ食べたりして楽しんだ記憶がある。

そのステージの最後にお知らせのMCが急に入ることになり、私が電子ピアノで何かBGMを弾くことになった。そのときにフワリと浮かんだのが、この曲の最初のフレーズだった。このあとこのフレーズは印象に残り、しばらくしてから全曲を書き上げたと記憶している。

この曲の伴奏にある5度跳躍の3音を2重に組んでボサノバ的な和音にする遊びは以前からやっていた。そこにメロディーが浮かんできたのだと思う。

競馬場で思いついたにしては、その響きはセンチメンタルである。『暗黒魔術団』のバンドメンバーで営業に行っていた小樽のスキー場の一面白銀のゲレンデで感じた情緒に近い。

中間部に、全てが白く時間さえも止まってしまうかのようなゲレンデの情景を表す静寂を含む短い挿入句がある。ここではメロディーの反行形が現れる。

最後に雪を巻き上げる風の描写があり、メロディーの谺が聞こえて終わる。

この最後の駆け上がりで左手と右手で異なるコードを弾いているが、これは作成当初のままにした。ミスではない。

全体にペダルを踏みっぱなしにしている。多くの濁りを伴うが、全曲を通して黒鍵はB♭とG♯しか出てこない。白鍵のクラスター状の響きが雪原の光彩のように輝くといいと思う。

http://burrito.whatbox.ca:15263/imglnks/usimg/3/36/IMSLP414677-PMLP672354-Piano.pdf