この曲は2016年2月24日にトリフォニー小ホールでの演奏会『大地の響宴』で初演された。以下はプログラム用解説文




「響宴(tone feast)」は、曲名からもわかるとおり、今回の演奏会の為に梅津さんからの委嘱で作曲した。曲名は音の響きによる精神的高揚を表している。

作曲するにあたり、メキシコやイタリアの曲が並ぶプログラムのなかで、日本の情緒を含んだ音楽とすることを意識した。また、ビバルディの協奏曲の様式を踏まえて、緩・急・緩・急の4つの楽章をもつ構成にした。各楽章とも2分前後の短い楽曲となっている。

マリンバとコントラバスは、残響の豊かさ、素材として木と金属の両方を使う、打楽器的用法と歌謡的用法を兼ね備えるなど、いろいろな共通性をもっているとおもう。両方の楽器で交互にフレーズやモチーフを受け渡すことで、音色や奏法の比較を楽しめる構成にした。両者の主従関係も頻繁に入れ替わり、スリリングな展開となっている。

4つの楽章は異なる教会旋法を用いている。調号としては1・4楽章がフラット3つ、2・3楽章がシャープ2つである。これによってマリンバとしてはオクターブ内で全曲を通して使わない鍵盤はないことになる。しかしながら各楽章で主音として扱う音はコントラバスの4つの開放弦の音で割り振られており、各楽章で異なる調子を聞き取ることになるだろう。

そして譜面上では全曲を通して臨時記号をひとつも使っていない。これは各楽章が音階中の7つの音だけでできているということである。教会旋法が醸し出す独特の響きが素直に現れてくるとおもう。

第1楽章、祈祷(incantation)…瞑想へさそうようなリズムの繰り返しに、読経のような旋律が絡んでいく。前打音の表情に楽器の特質が活かされている。Gフリギア調。

第2楽章、おどり(dance)…日本の各地で聞かれるお囃子のような音楽。マリンバもコントラバスも広範囲の音域を網羅できる特質がある。これを活かした華やかな響きになるだろう。Aミクソリディア調。

第3楽章、うた(song)…両方の楽器にヴィブラートの効果を求めた特殊な奏法を要求している。玄妙な空気感をもった音楽は静かに高みに登ってゆく。Eドリア調。

第4楽章、ジャズ(jazz)…Dロクリア調という特異な旋法を用いたジャズ風の音楽。途中で一瞬以前の楽章が回想される。
◎この楽章の終わり近くで、お客様に手拍子で演奏に参加していただく場面があります。よろしければ、奏者が合図したところから曲の終わりまで演奏を聴きながら手拍子を続けてください。





解説に更に付け加えるならば、各楽章の旋律には音形の面で関連性を持たせてある。譜面上で音形を追えば明らかになる。

また、リズムにおいても全楽章に共通するものがある。5と7という数字が鍵となる。この2つの数を単位とするリズムの組み合わせが随所にある。また2楽章は5拍子で、同音連打を7回行う旋律からなっている。