雑談は「中身がないこと」に意味がある

人間関係において日々の会話が大事なことは理解している。
けれど、仕事や業務連絡以外でいったい何を話せばいいのだろう?
悩む人も多いでしょう。
また、雑談に何の意味があるのか、時間のムダじゃないかと疑念を抱く人も。
改めて、雑談の意味と意義についてお伝えしたいと思います。
本当の意味を知っているだけで、もっと気軽に雑談ができるようになり、相手との距離もグッと縮めることができるでしょう。

会話の9割は「意味のない会話」

実は雑談には3つのルールがあります。

ルール1 中身がないことに意味がある
ルール2 結論はいらない
ルール3 サクッと切り上げる

まずは、 ルール1の「中身がないことに意味がある」について説明しましょう。

雑談には中身がなくていい――これは雑談をする上で、もっとも基本となるルールです。
中身のない会話をなぜするのか、したって時間のムダだろうと考える人もいるかもしれません。

そもそも「中身のある会話」とはどういうものでしょう。

ビジネスの現場であれば連絡、報告、商談、会議、面談、相談――。
自分の側の用件を伝え、相手側の用件を聞く、結論というゴールに向かう、そのために必要なやりとりは正真正銘の中身のある会話といえます。

しかし、用件だけ伝えればいい会話は、その用件さえ済んでしまえば即、終了です。
あなたの1日を振り返ってみてください。よくよく考えれば、こうした意味のある会話が私たちの社会生活に占める割合などほんのわずかなもの。
実際には私たちの生活は、9割方が中身のない、意味のない会話=雑談で占められているのです。

「中身のない会話に何の意味があるのか」とよく聞かれるのですが、生活のほとんどを占めている以上、私たちは周囲の人々と、ほぼ中身のない会話によってつながっているということ。
中身のない会話は生きていく上でのコミュニケーションのデフォルト(標準仕様)として、大きな存在意義を持っているのです。 

なぜ中身のない会話をする必要があるのか?

「お出かけですか、どちらまで?」
「ええ、ちょっと新宿まで買い物に」

「今日も寒くなりそうですね」
「こう毎日だと参っちゃいますね」

「お盆だから、ラッシュでも電車が空いてますね」
「いつもこうだと嬉しいんですけど、そうもいかないか」

「選挙が近いから毎日にぎやかですよね」
「叫んでいるほうも大変でしょうね」

「この踏切は本当に開かないな。急いでる人は大変ですよね」
「まったく。でも今さら高架にするってのもねぇ」

――どれも内容だけ見れば「だからどうした」というレベルの話。
正確に伝えなければいけない情報も、しっかり聞いておかなければいけない報告もない。
中身など、ほとんどありません。

でもこの会話があるだけで、お互いに心がフワッと軽くなるはず。
たわいもない会話を共有したことで、ちょっと相手と打ち解けた気分になるはず。
もしかしたら、次に会ったときには、「この間はどうも」と気軽に会話ができるかもしれません。
雑談はそれでいいんです。

実際に「寒い」「暑い」かどうか、本当に電車が混んでいるかどうか、選挙はどうするか、開かずの踏切をどうするべきかなど、ここではどうでもいいこと。

重要なのは、相手と言葉を交わすことで、同じ場所、同じ時間の空気を共有すること。そして、その場をほんわかと心地よくすること。
会話の中身は、あくまでもそのための方便なのです。

もうひとつ、雑談に中身がないことの大きなメリットとして、「誰にでも通じる」という点があります。

用件や目的のためにする会話は、おのずと相手が限定されます。
その用件に関係のある人、その用件を共通のコンテクストとして持っている人とだけしか話せないわけです。

その点「中身がない(=用件ではない)会話」は相手を選びません。

社長だろうが上司だろうが、家族だろうが友人だろうが、ほんの顔見知り程度の人だろうが見ず知らずの人だろうが、まんべんなく、どんな人が相手でも話が通じるのです。

マンションの駐輪場でばったり会った管理人さんに、「わが社の業績低迷」について、何の前触れもなく相談をする人はいないでしょう。
でも今日明日の空模様の話なら、管理人さんにも隣の奥さんにも、商談相手の担当者にも通じるはず。それは、誰にとっても中身のない会話だからです。

話す相手を選ばない。いつでも、誰にでも通じる。中身がないからこそ、その会話はものすごく広い守備範囲をカバーできるのです。

仲のいい友達なら、共通の話題で会話がはずむけれど、ほかの人だと話せない。
→共通の話題がある人としか話せない。

仕事に必要な会話ならばできるけれど、それ以外になると話せない。
→必要な用件しか話せない。

このように、中身のある話しかできないというのでは、社会とのつながりも狭くなり、社会との関係性も危うくなってしまうでしょう。

いかに中身のない話ができるか。
世の中の9割を占める中身のない雑談にこそ、人と人とのコミュニケーションにおける本当に大事なポイントが存在しています。

雑談の真の意味を知れば、「時間のムダ」などと思わなくなるはずです。
それどころか、ほんの数秒で相手との距離を縮めることができ、そこから人と人の信頼関係が構築され、時にはビジネスを成功に導くこともある。
雑談ほど効果効率の高い手段はないと、実感することでしょう。

雑談のルールを知るだけで夫婦・家族仲はよくなる

夫婦や恋人、男女間の会話のトラブルで多いのは「何気ない会話」に関するもの。
妻からの不満は「話を聞いてくれない」「『だから何?』と返される」「頼んでいないのに、上から目線でアドバイスしてくる」。
一方の夫のほうも「話が長い」「何が言いたいのかわからない」「くだらない話につき合わせるのは苦痛」と非難轟々。
ところが、雑談のルールを知るだけで、驚くほど夫婦や家族との仲がよくなり、雑談が苦ではなくなります。すぐに実践したくなるルールをご紹介します。

夫婦・家族仲が良くなる会話術

実は雑談には3つのルールがあります。

ルール1 中身がないことに意味がある
ルール2 結論はいらない
ルール3 サクッと切り上げる

このルール2「結論はいらない」は非常に大きなポイントです。
今回はこのルールについて説明したいと思います。

著書『雑談力が上がる話し方』や新刊『会話がはずむ雑談力』を読んだ方から多く寄せられた感想は、次のようなものでした。

「ルール通り雑談をしたら、夫婦仲が良くなった」
「『結論はいらない』を守ったら、思春期の娘と久しぶりに会話ができた」
「介護している親とケンカにならず楽しく話ができるようになり、びっくりした」
「営業職でビジネスのために雑談を学ぼうと本を読んだのに、妻との関係が良くなったのは存外の喜びだった」

男性読者の方からの感想がほとんどでしたが、このルール2「結論はいらない」を実践したことで、身近な人との人間関係が良好になったケースがとても多く、私も驚きました。

さっそく、雑談のルール2「結論はいらない」について、詳しく説明していきましょう。

なぜ話に白黒つけてはいけないのか?

雑談に結論はいらない。つまり、何気ない会話には「白黒つけない」ことが基本です。

「営業活動でのつかみのトークとして『雑談』を学ぶつもりで読んだら、妻との仲がよくなった」
「娘との会話がはずむようになった」というような、男性読者の声が多かった。
つまりそれだけ、夫婦や家族間での雑談がうまくできない、妻と会話が盛り上がらない男性が大勢いるということです。

仕事のために雑談を身につけようと思ったら、家族との会話がはずむようになった。
この現象は、見方を変えると、家族との会話がうまくできなかったことに対して、当の本人は、まったく無自覚だったともいえるでしょう。

ごく身近な人との関係においても、雑談は非常に重要な役割を担っているのです。

夫婦や家族との会話にも、「中身のある会話」と「中身のない会話」があります。
子供の学校行事や家族の予定の確認、「あれ、やっておいて」「これ、お願い」といった連絡事項など、夫婦間や家庭内にも、ビジネス同様に「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」などの用件は存在します。

そしてそれ以外の、ご近所のウワサやPTAでの出来事、テレビやニュースの話題、「あそこのスーパーはこっちより品揃えがいい」とか「セールだから洋服を買おうかしら」といった話題は中身のない話=雑談の範疇といえます。

夫婦間の雑談こそ要注意

仕事であれば、「中身のある話」だけでも成立するかもしれません。
しかし、夫婦は家族の場合、むしろ「中身のない話」が日常生活のほとんどを占めます。

夫婦の会話に悩む男性の多くは、夫婦間において前者の「中身のある話」はできても、後者の「中身のない」雑談ができていないのです。

なぜできないのでしょうか。
それは、「すぐに結論を出そうとする」という男性の会話特性にあります。

女性に比べて男性は、会話の途中ですぐに「つまり?」「それって、こういうことでしょ」と話をまとめようとしたり、「結局のところ、言いたいことは何なの?」と結論を急いだりする傾向があります。

夫婦の会話でも、奥さんの「近所の奥さんからこう言われた」「どこそこのセールが安い」といった何気ない話に対して、ダンナさんは「それはお前のほうが悪い」と早々に決めつけたり、「だったら買えばいいんじゃない?」と話を遮って結論を促したりしがち。
その結果、奥さんは「話をちゃんと聞いてくれない」と傷つき、「会話にならない」「わかってくれない」と、不満を募らせてしまうわけです。

奥さんにすれば、そんな断定や結論など求めていません。
「そうなんだ」「そりゃひどいね」「男性もののセールはないのかな」と返してほしいだけ。
感情を共有したいだけなのです。

中身のない雑談をしたい妻と、落としどころのない会話が苦手な夫。
この食い違いが夫婦間の会話、夫婦の雑談が盛り上がらない大きな原因になっているのです。

具体的な会話で言うと、次のようになります。

 妻 「今日も寒くなりそうね」

 ここでの夫の返し方は「そうだね、こう毎日だと参っちゃうね」とか「手袋持っていったほうがいいかな?」など。

「手袋持っていったほうがいいかな?」は、質問というより、ひとり言に近いニュアンス。

そうなると、奥さんも「早く暖かくならないかしら」とか「そうね、念のため手袋持っていったほうがいいんじゃない? 帰り遅いんでしょう」となる。
(「手袋を持っていく」が正解なのかとか、実際に持っていくかどうかは一切問わない)

ところが、このような「中身のない」「意味のない会話」「相手とのいい空気を共有するための雑談」にもかかわらず、なぜか謎の反論をする男性陣は少なくありません。

奥さんの「寒くなりそうね」に対し、「(俺の故郷の)北海道・札幌の1月の平均気温はマイナス3.6度だから、今日の東京は7度で決して寒いとは言い切れないだろう(だからオマエは間違っている)」

これは大げさだとしても、何気ない相手の言葉についむきなって正論や自分の意見を返してしまいがちなのが、男性陣の悪いクセ。
この瞬間に、相手といい関係を築くための「何気ない会話」は、一気に「相手を打ち負かす道具」に変わってしまいます。

知らず知らずのうちに、「相手とのいい関係を築くためのツール」を「相手を完膚なきまでに叩きのめす武器」にしてしまってはいないでしょうか?
この積み重ねが夫や父に対する不満、あなたへの不信につながり、人間関係を悪くしてしまうこともあるのです。

そもそも雑談とは中身のない会話。そこに結論や正解などあるはずもありません。
「このぶんだと、この雨は明日までやみそうにないですね」という話に、「何を根拠にそう言うのか。エビデンスを出せ」とか「つまり、何が言いたいの?」と返されたところで、答えようがありません。

会話のみならず、相手との関係も強制終了です。
雑談の目的は場の空気を和ませ、軽くすること。
話に白黒をつけることではありません。
雑談は雑談であって、議論ではないのです。

仕事ができる人だけがやっている、雑談を長引かせないコツとは?

「できる営業マンは雑談が上手」と聞いて、必死にトーク術を学んだものの、一向に売上は上がらない。こんな風に悩む人も少なくありません。
実は、本当に仕事ができる人は、トーク術に長けているわけでも、いわゆる話好きでもありません。何気ない会話と本題とのスイッチ、会話の切り替えが上手な人なのです。
職場での私語は、ダラダラと長いと評価は下がりますが、職場の空気を良くする、ほどよい「雑談」ができる人は、むしろ高い評価を得ています。
仕事ができる人が実践している「会話のスイッチ」について解説しましょう。

雑談は「長引かせない」から後を引かない

何事も大事なのは「引き際」。雑談も同じです。

話し始めたはいいけれど、話を切り上げられず、いつまでもズルズルと終われない。これもまた、雑談が苦手という人が陥りやすいケースでしょう。

何度も取引先に足を運び、楽しく雑談をして担当者と良くなったつもりでも、いつまでたっても契約につながらない。
一見、コミュニケーション能力が高そうなのに、結果が伴っていない……。
こういう営業マンは、結構いるようです。

これは、雑談の本当の意味を理解していなから生じる問題かもしれません。

雑談はあくまで「ほんの少しの時間」を心地よく埋めるためのものです。
あくまで「場の空気づくり」が目的。
そこで長々と話し込んでしまうと、場が和むどころか、かえってお互いに気疲れしてしまうことも。
ですから長引かせずにサクッと切り上げる。
これも重要な雑談のルールであり、流儀です。

パッと出会って、心地よく話して、サクッと切り上げる。
潔い終わり方も場の空気づくりには欠かせません。
立つ鳥跡を濁さず。
後味のさわやかさが心地よい余韻となって残り、相手に好印象を与えることもあるのです。

できる営業の商談時間は短い

長々と話し込む談義より、顔を合わせるたびにサクッと交わす雑談。

話す時間より小刻みでも話す回数が多いほうが、親近感も生まれやすくなります。

ある会社のトップ営業マンは「1回の商談時間は短い」と言います。
しかし、「商談回数は多いかもしれません」とも。
何度も足を運び、相手の業務の邪魔にならない程度で商談を行う。そこから信頼関係を構築し、ビジネスにつなげていくのだそうです。

こんな具合に、雑談は質より量なのです。

サクッと話を切り上げるには?

とはいえ、話の切り上げ方に頭を悩ませる人も多いでしょう。
ですが、難しいことはありません。
話の途中であっても「それでは」「じゃあまた」とひと言で切り上げればいいのです。

ビジネスシーンでも同じこと。
雑談はあくまで場の空気をほぐし、軽くするための手段。
たとえば、ビジネスの現場で商談前に雑談がはずむのは結構なことなのですが、雑談ばかりに時間をとられて肝心の商談に入れないというのでは本末転倒になってしまいます。

場の空気がほぐれ、相手との親近感が高まったら、
「雑談はさておき――」
「まあ、雑談はこのくらいにして――」
「では、そろそろ仕事モードに切り替えて――」

などと、雑談をサクッと切り上げて本題に入りましょう。

あくまで後の商談のための地ならし――それがビジネスシーンにおける雑談の本来の役割なのですから。

話が途中でもサクッと切り上げるのが雑談のルールです。
いつ「じゃあまた」と終わらせても大丈夫。終わらせていい。
むしろ、終わらせることが大事。
これさえわかっていれば、もっと気楽に、もっと積極的に雑談をはじめられるはずです。

困った! 会話が続かないときの「雑談力が上がる話し方」のコツ

部署異動や転勤、中途入社、就活、インターンシップなど、新しい人間関係の中でのコミュニケーションで悩む人が急増している。
特に多いのが、「それほど親しくない人と話すのが苦手で困っている」という人。
仕事の業務連絡など、目的や意味のある話ならできるけれど、何気ない会話となると、どうしていいのかわからない。しかも、これからは忘年会などもあり、なれない人たちと仕事以外の話題で「場をつなぐ」機会は増える一方だ。
そんな中、雑談力が今、再び注目を集めている。いまや雑談力は「社会に出てから身につけるべき必須スキル」と言われ、エクセル操作と同じく、学んで身につけるものだという認識が浸透しつつある。
なぜ今、雑談力が必要とされるのか。

「沈黙は怖い。でも雑談は苦手」な人、急増中

エレベーターに乗ったら、時々見かける同じマンションの住人がいました。
「お、おはようございます」
すかさずあなたも、
「あ、おはようございます」
そして、そのまま下を向いて携帯電話の画面を見るフリ。
なぜなら、そのあとの会話が続かないから……。

こんな悩みを持つ人、多いのではないでしょうか。
実は、今まで紹介した場面で発揮するものは、トーク術ではありません
雑談をする力。相手との距離を縮め、場の空気をつかむことです。
そしてここで忘れてはいけないのが、話し上手と雑談上手は違うということです。

雑談力に対する、よくいわれる2つの誤解

雑談についてよくいわれる2つの誤解があります。

(1)初対面の人やあまり親しくない人と、何を話していいのかわからない
(2)雑談なんて意味がないし、する必要なんてない。時間のムダ

(1)については、先ほど述べたとおり。必要なのは会話力ではなくコミュニケーション力。 それもちょっとしたルールや方法を知り、やってみるだけで、誰でも身につくものなのです。口下手な人、シャイな人、安心してください。やり方はこのあとご紹介します。

たった30秒で、あなたという人間が見破られている!

「雑談は意味がない、時間のムダ」と言う人に、もうひとつお話ししたいことがあります。

雑談というのは、あなた自身の人間性とか人格とか社会性といったものがすべて凝縮されている。そしてその「すべて」をたった 30秒の何気ない会話の中で見破られてしまっているということです。

ある人に「いやぁ~今日は久しぶりにいいお天気ですね」と、話しかけたとします。

そのとき、「なんでそんなことを聞くんですか?」「だから何なんですか?」と雑談を拒むようなとげとげしい返事をされたら「あれ、この人は危ないから離れよう」とか、「なぜ自分への敵意をむき出しにするんだろう」などと感じます。

無視されたら、重苦しい空気に耐えられないでしょう。

こうやって私たちは、無意識のうちに、この人に近づいていいのかどうかを、雑談という“リトマス試験紙”を使って瞬時に判断しているのです。

とはいっても、精神的に不安定なときなどは、日々の受け答えがとげとげしくなったり、変にぎこちなくなったりします。そこで「気まずい空気を相手が感じてるな」とわかっている分には、まだいいんです。 問題なのは、それさえ感じないとき。

要するに、相手との関係性を持たないほうが普通は苦しくなるのだけれど、それを持つという発想がないとか、「持たなくても大丈夫ですから」とかいうふうになったとき。そういう人に対して、私たちは「あの人は社会性に欠けてるな」という感じを得るのです。

逆に、何気ない会話を心地よく進められる人、場の空気を一瞬で和ませることができる人だったら……。

ピエール・ブルデューというフランスの社会学者は、「面接などでリラックスして人と打ちとけて話せるということ自体、すごい。非常に高い能力だ」と言っています。

そしてその高い能力を身につけるのは、人間関係が豊かな環境で育った家の子のほうが有利だと。 つまり、その人が豊かな人間関係の中で育ってきたんだということや、人格的な安定感のあることが雑談から伝わってくるということ。

初対面の人同士でもリラックスして雑談できるような精神の安定感を持っている、すなわち社会性がある。そこまでのことが30秒で見破られてしまうというわけです。

先ほど、雑談は単なる話術ではないと言いました。 あなたが人から信頼され、人に安心感を与え、社会性がある人だと評価される。 そしてそこから気持ちのいい関係性やつながりに発展したり、もっと言えば多くの人から愛されたり、仕事などでは大きなチャンスを得ることもある。

たった30秒のムダ話には、そのような大事な意味があることを忘れないでください。

雑談力が上がる話し方のコツ

人と会ったらあいさつをする、これは最低限のマナー。
友人知人、仕事関係で付き合いのある人、通りすがりの顔見知り、まったくの初対面の人……。相手はさまざまですが、朝会えば「おはようございます」、昼間会えば「こんにちは」、初対面なら「初めまして」などなど。

人と話すのが苦手という人でも、あいさつぐらいはできるでしょう。
いえ、社会人ならできて当たり前です。

あいさつは、雑談をするための絶好のキッカケになります。

ただ注意してほしいのは、あくまでも「キッカケ」だという点。
つまり「あいさつ=雑談」ではないのです。

いつもの、型どおりのあいさつが「雑談」に成長・成立するかどうかは、あいさつを交わした「あと」に、かかっています。

あいさつプラスαです。

ただあいさつが、ほんのひと言で雑談になる!

朝、出勤時に近所の人とすれ違ったとしましょう。
最初はもちろん「おはようございます」とあいさつ。
さて、ここからです。あいさつのほかにひと言、ちょっとした話題を付け加えてみましょう。

何でもいい、そのときにたまたま目についたことでも構いません。

たとえば……、「あれ、ここの店、改装中になってますね」といった感じで、ひと言プラスしてみます。すると……。「ああ、来週、新しい居酒屋がオープンするらしいですよ」と相手の言葉が返ってきます。

「また若者向けのチェーン店ですかね?」
「どうでしょう。静かに飲める店のほうがいいんですけどね」
「開店したら、一度は様子を見に行かなきゃ」
「じゃあ、そのときはご一緒に」
「いいですね、ぜひ」

これだけで、ただのあいさつが「雑談」になりました。

あいさつのあとで交わす、プラスαのほんの少しのやりとり。時間にして5~10秒程度でしょうか。でもこの、たった5秒、プラスαの、あいさつ以外の言葉があるだけで、お互いの相手に対する感情は大きく変わってきます。

気持ちが打ちとけて、「あの人は感じがいい人だ」となるものなのです。

いつも型どおりのあいさつしかしない相手と、短くてもこうした雑談をしたことのある相手というのは、その人の中で自然にポジションが変わってきます。それが人情というもの。

雑談を交わすことで、それまでの「顔見知り」が、それ以上の存在になります。

相手に対する安心感・信頼感さえ覚えることも。 ひと言足すことで、相手からももうひと言返ってくる。あいさつを交わしたあとの些細なやりとりが雑談であり、コミュニケーションにおいても非常に重要な意味を持ちます。あいさつプラスα。もっとも簡単で誰もが始めやすい雑談の基本スタイルです。

雑談が苦手な、口下手な人でもできる!相手の話に「質問」で切り返す技術

「コミュ力」が大事と言われても、どうも会話が苦手という人が増えている。
「自分は口下手だから、話すのは好きじゃない。でも沈黙が怖いんです」
こう悩む人は、実は「雑談上手」になれる可能性が高い人だという。

仕事の業務連絡など、目的や意味のある話ならできるけれど、何気ない会話となると、どうしていいのかわからない。しかも、これからは忘年会などもあり、慣れない人たちと仕事以外の話題で「場をつなぐ」機会は増える一方だ。

そんな中、雑談力が今、再び注目を集めている。いまや雑談力は「社会に出てから身につけるべき必須スキル」と言われ、エクセル操作と同じく、学んで身につけるものだという認識が浸透しつつある。

なぜ今、雑談力が必要とされるのか。

あなたが話し上手である必要など、まるでない

自分は話下手だから雑談は苦手。
そういう人こそ、雑談上手になれる可能性が高いのです。

言い方を換えれば、「相手本位になりましょう」ということ。
雑談は、自分よりも相手に話の主導権を握らせるほうが盛り上がるのです。

ここで言う「主導権を握らせる」とは、自分の話ではなく相手から話題を引き出すということ。
つまりあなたが話し上手である必要など、まるでないのです。

それよりも大事なのは、相手から出てきた言葉に、「質問」という形で切り返す力です。
これだったら、「聞き上手」でない人でも、すぐに実践できるでしょう。

いや、これをやるだけで、聞き上手に変身してしまいます。
だまされたと思って、一度試してみてください。

犬を飼っている人との雑談を成立させるには

たとえば犬の話題が出たとします。
「ウチには犬が1匹いるんですよー」
こう振られたらどうしますか?

「ウチでも最近、犬を飼い始めましてね」
という“自分の話”ではなく
「おたくのワンちゃん、種類はなんでしたっけ?」
と、“相手からの答え”を引き出せるように、相手本位のスタンスで話しかけるのです。

自分の話をする場ではないと割り切って、相手の話に質問をつけてひたすら返していく。
これだけで話は確実に盛り上がります。

相手の話に、質問というエサをつけた相槌を打つ。
そのエサに相手が食いついてきたら、さらに次の質問をする。

自分が主体で話をしなくても、雑談は見事に成立します。
ここでは話題が豊富とか、おしゃべりが好きとか、話し方が上手といったことは関係ないのです。

人間、自分が好きな物事について話を振られると、そのことについて語りたくなるもの。
そうすれば、否が応でもその雑談はダーッと盛り上がります。

「で、あなたは?」と振られてから、自分の話をすればいい

いくら自分がうまく話をしようと思っても、相手がその話に食いついてくるとは限りません。

それこそ「興味がない」と会話が終わってしまう可能性もあります。
絶対に外さない話題というのは、相手の興味のある話なんですね。

で、ひととおり話し終えたあとに「で、あなたは?」と振られたら、そこで初めて「ウチでも最近、犬を飼い始めましてね」とすればいいのです。

雑談という言葉から、「積極的に自分の話をしなくてはならない」と、必要以上に気負ってしまう人がいますが、その必要はまったくありません。

むしろ相手が楽しくおしゃべりできるよう、相づちを打ちながら質問を投げかけていけば、自然と会話は続きます。

相手が気持ちよく話をしてくれれば、たとえ、あなたがほとんど話していなかったとしても、
コミュニケーションとしてはちゃんと成立している
というわけ。

そう、話し下手な人ほど、雑談の潜在能力は高いのです!

共通の話題がない人との「場つなぎ」雑談、
上司や取引先との会話は「一問二答」で乗り切る

「沈黙は怖い。でも雑談は苦手」な人、急増中

世代の違う年上の人と話をするのは気詰まりで面倒くさい。
会社の上司とも、仕事の報告や連絡事項以外の話は極力したくない。
そんな若者が増えています。

気持ちはわかりますが、実にもったいない。
そしてそんな状況に困惑しているのが、本来気詰まりされる側である上司や年配者なのです。

たとえば部下を連れて取引先に出かけるような状況になると、何時間も黙ったままになってしまい、気疲れしてしまう。

ですから最近では、上司のほうが気を使って部下に話しかけるケースが多いといいます。

一問一答では、思春期の子どもと同じ

こうした場合によくありがちな会話の例を挙げてみましょう。

「キミは何かスポーツやってるの?」――「別にしてません」

「お酒は飲めるクチかい?」――「普通です」

「仕事には慣れたかい?」――「まあまあです」

聞かれたことだけに答える、
いわば「一問一答スタイル」が非常に目立ちます。

「学校はどうだ?」と親に聞かれて、
「普通」「まあまあ」としか答えない思春期の子どもと同じ。
あとはウンでもなければスンでもない。
当然、話はそこでおしまいです。
これではいくら話を振られても、会話が広がるわけがありません。

たとえば上司があなたに「最近、休みの日は何をしてるの?」と聞いてきたとします。

ひょっとしたら聞かれた側のあなたは、自分のプライベートに踏み込まれたような
不愉快さを感じてしまうかもしれません。
仕事以外のことを話す必要はないとドライに割り切りたいと思うかもしれません。

しかし実際のところ、上司もあなたの休日の過ごし方に興味があるわけではありません。
多くの場合、話をつなごう、打ちとけて雑談を楽しもうと思っているだけなのです。

だから気楽に行きましょう。過度に自意識過剰になる必要などないのです。

一問二答を心がけるだけで会話は広がる

たとえば「最近、仕事以外で何かハマッていることは?」と聞かれて、
ただ「映画です」だけでは、はい、チャンチャンで会話終了。

でもそのあとに「この前見た○○はよかったですよ。
あまり期待してなかったんですけど、いい意味で裏切られました」
といったプラスαのひと言を入れて返すだけで、そのやりとりはちょっとした雑談に変身します。

そして今度は、最初に質問した上司が再び、「誰が主演してるの?」「知らなかった。今度行ってみようかな」という具合に返事をする。
またそれに答える──。そうすることで、話は心地よく転がっていくのです。

かつて日本には、「相手に対して興味を持つ」ことが礼儀だった時代がありました。
興味を持った相手の趣味を知って、そのことを話題にする。
それはコミュニケーションの基本として、ごく当たり前のことでした。
それに比べて今は、相手に興味を持たれることを面倒くさがる風潮が強くなっています。

しかし、あなたがコミュニケーション能力のある人なのかどうか、ちょっとした雑談の印象で判断されているのです。
逆に言えば、若い人こそ、こうした何気ないやりとりができるかどうかで、大きく差がつけられるのです。これは、チャンスです。

強調するまでもなく、雑談はキャッチボールです。
「趣味は?」と聞かれて「別に」と答えるのは、ボールを投げてもらっても、
それをただ受けているだけというのと同じ。
相手が提供してくれた話題にただ返答するだけでは、雑談にはなりません。

「一問二答以上」。
話に何かプラスαのオマケ(お釣り)をつけて投げ返してこそ、初めて雑談になるのです。

雑談力が高い人ほど会話の「終わらせ方」がうまい

何気ない会話が上手な人は、おしゃべり好きな人だと誤解していませんか?
実は、「単なるおしゃべり」な人は、雑談力が高い人とは言えません。
一方的に話をする人、相手との距離感を保てずダラダラと話し続ける人。
こういう人はむしろ「コミュニケーションに難あり」とマイナス評価を受けることも。
本当に雑談が上手で会話力のある人は、サクッと会話を終わらせられる人なのです。

「会話のドツボ」にはまってしまう

 勇気を出してコミュニケーションをとろうと話しかけてみたものの、相手の話が長くて困ってしまった。次の予定があるのに切り出せない。
 時計が気になって、相手の話が全然頭に入ってこないため、相手もやがて「話を聞いているのかな」とあなたに不信感を抱く……。

 もしくは、電車やエレベーターなどで一緒になった人との雑談で、相手が気持ちよく話している途中で自分が先に降りることになり、どうしていいかわからず、逃げるようにその場を立ち去ってしまった。
「ああ、なんて気まずい別れ方だったんだ。きっと感じの悪い人だと思っただろうな」と後悔する。

 こんな風に「会話のドツボ」にはまってしまうケース。
 誰もが一度は経験したことがあるでしょう。

雑談上手な人ほど、会話の「終わらせ方」がうまい

「雑談が上手な人って、要はおしゃべりな人でしょう」と誤解している人も多いかもしれません。
 しかし、本当にコミュニケーション能力の高い人、雑談上手な人ほど、会話の「終わらせ方」が上手なのです。

 ここで改めて雑談の基本形について説明しましょう。

 雑談の基本は次の3ステップで構成されています。

ステップ1 声をかける → ステップ2 話す → ステップ3 別れる

 雑談はすべて、この3つのステップで構成されています。
 この3ステップが、余分なものをそぎ落とし、必要最小限の要素だけを残した雑談の「基本型」なのです。

 この3ステップ目、雑談の最後は「別れる」なのです。
「別れる」をしっかり行ってこそ、雑談上手、コミュニケーション能力の高い人になれるというわけです。さっそく説明しましょう。

「後味のよさ」をつくるためのひと言

「後味のよさ」をつくる 雑談の基本型における最後のステップは、話し終えて「別れる」、つまり雑談を切り上げる(終わらせる)というプロセスです。

 たとえば、エレベーターに乗り合わせた顔見知りと、あいさつし、会話をし、気づまりになりがちな密室空間の空気がほぐれて、降りる階に到着したら、
「じゃあ、また」(同じ階で降りるなら)
「いってらっしゃい」(相手が先に降りるなら)
「では、お先に」(自分が先に降りるなら)と、サクッと切り上げて別れる。これだけです。

 ポイントは、「別れ際のひと言をしっかり言うこと」だけ。

 話を切り上げるための理由をくどくどと述べる必要もなく、次の会話の約束も必要ありません。
 タイミングが来たら、「じゃあ」と切り上げる。
 この終わり方の潔さが、雑談ならではなのです。

 具体的な会話の例でみてみましょう。
あなた 「おはようございます」
相手 「あ、おはようございます」
あなた 「今日も寒いですね」

相手 「しかも夕方から雨らしいですよ」
あなた 「ええ、だから一応折り畳み傘、持ってます」
相手 「さすが、用意がいいですね」
あなた 「でしょ(笑)。じゃあ、また」 ← 話が途中でもサクッと切り上げる

 打ち解けたい気持ちを伝え、打ち解けようと行動し、打ち解けたら、最後は気分よく、そして潔く別れるのです。

「じゃあまた」
「ではまた」

 この2種類を、相手によって使い分け、ひと言放ったらサッとその場を立ち去る。

「じゃあまた」と別れた後、少しだけ物足りない気持ちになることがあります。

 お互いに「もう少し話していたかったな」と感じ、 そこから「次に会ったときも声をかけよう」とか「また会いたいな」という気持ちになる。

 雑談の締めくくりは、次につながる好印象を残すチャンスでもあるのです。

「終わらせる」ができれば、あなたの雑談力はグッと上がる

 「サクッと終わらせる」という雑談の流儀について、「目からウロコだった」「話すハードルが下がった」「雑談に対する自分の偏見に気づいた」といった具合に、大きな反響がありました。
 それだけ、多くの人が雑談の本質を理解していなかったのだと思います。

 相手との間にある空気をちょっと動かすことで、場をほぐすのが雑談の役割。
 であれば、ダラダラと話を続けるのではなく(それはそれで、場の停滞につながることも)、サッと終わらせ、その場を立ち去ることもまた、場を動かし、いい空気をつくることにつながるというわけです。

「会話を終わらせる」ことの重要性に気づいていなかった人は、ぜひこのステップ3の「別れる」までを実践して、雑談の魅力である「後味のよさ」を堪能していただければと思います。