サテライト・トーナメントとは簡単に言えば、より高い参加費のトーナメントの
予選トーナメントです。通常、入賞順位によるプライズの違いはなく、
入賞人数に残りさえすれば等しく、高い参加費のトーナメントに参加する権利が与えられます。
以上のような特徴から、サテライト・トーナメント特有の戦術・戦略というものが存在します。
今回はそれについて考察してみましょう。
☆そもそもなぜサテライト・トーナメントをプレーするのか
一般的にサテライト・トーナメントのメリット・意義といえば、
自分が持っているバンクロールでは本来プレーすることのできない
高いバイ・インのイベントをプレーする機会を、現在プレーしている
ステークスとさほど変わらないレベルで手にすることができることにあると言えます。
もしサテライトから勝ち上がり、本選のトーナメントでもよい成績をおさめた場合は
ROI(投資対効果)は非常に大きなものとなり、一攫千金のようなことが可能なわけです。
有名な実際の例としては、86ドルのオンラインサテライトから勝ち上がり10,000ドルの
WSOPメインイベントのシートを得たアメリカのクリス・マネーメーカーはなんとそのまま
この本選でも優勝し、賞金2,500,000万ドルを手にすることになりました。
このように聞くと、サテライト・トーナメントはなんとも魅力的な選択肢のように思えますが、
冷静に考えてみるといくつか注意しなければならない点があります。
・ サテライト経由で高いバイ・インのトーナメントをプレイしても分散はさほど減らない
サテライトを使うと、高いバイ・インのイベントでも手が届くようになるため、
常にサテライトを利用すれば、少ないバンクロールが許容するリスクの範囲の中でも
恒常的に高いバイ・インのトーナメントをプレーすることができるような気がします。
しかし、実際はそうではありません。
確かに、一回あたりのコストの額は下がるので、高いバイ・インのイベントに普通に
直接エントリーし続ける時よりは理論上も分散の値は下がります。
しかしながら、その値は、サテライトと同じ額の通常のトーナメントをプレーした
時と比べるとはるかに高いものです。
通常のトーナメントで15%の確率でインマネするとしましょう。
サテライトは、形式によって入賞ラインは幅がありますが、ここでは便宜的に
通常のトーナメントと同様に15%としておきましょう。
仮にサテライトを勝っても、本選で飛んでしまえばその投資は0になってしまうわけですから、
この場合、一回サテライトに出場するあたりの実際に投資が戻ってくる確率は
15%×15%でたった2.25%しかないわけです。
同じ額なら、サテライトで高いバイ・インのイベントをプレーするほうが
分散は大きくなるのは当然ということですね。
サテライトという形式に惑わされて、自分の取れるリスクを超えたバイ・インで
プレーし続けることのないように気をつけましょう。
・ そもそも自分のバンクロールが許容できるリスク内の額のトーナメントなら
直接バイ・インすべき
これも重要なポイントです。
もしあなたが仮に10,000ドルのバンクロールを持っていて、
そのバンクロールで許容することのできるリスク内の1回100ドルのトーナメントを
コンスタントにプレーすることを考えましょう。
たとえこのトーナメントに10ドルのサテライトがあったとしても、
あなたはサテライトをプレーするのでなく、100ドルを払って本選を直接プレーすべきです。
理由は二つ。
一つは、サテライトにおいてもレーキは徴収されているという事実です。
要するに、サテライト経由でプレーすることで
あなたは実質、レーキの二重払いをしていることになるのです。
「いや、それでも自分は他のプレーヤーよりもエッジがあるから
実質的に100ドルよりも低いコストで本選のシートを得ているんだ、だから得だろう」
と反論する方がいるかもしれません。
しかし、それならばあなたはそのエッジを活かして、同じ時間を使ってより高いバイ・インで
プレーしていればより大きな利益を上げることができていたはずなのです。
これが二点目のポイントです。
とは言え、サテライトが全く意味のないものかと言われれば、そんなことはありません。
後述するサテライト・トーナメント特有の戦略を理解していないプレーヤーも多いため、
適切にプレーすることで得られるエッジが様々なデメリットを上回る場合も少なくありません。
PokerStarsなどはサテライトの勝ち分をトーナメントドルという形で還元することもできるため
実質的に通常のトーナメントのようにプレーすることができる場合もあります。
以降でサテライト・トーナメントの具体的な戦略について見ていきましょう。
☆生き残ることがすべて
過去の記事で述べたように、通常のトーナメントにおいては
ただインマネするだけではなく上位入賞することが重要でした。
そのために見合うリターンがあれば、少々バブルで飛ぶリスクを
おかしてでもチップを取りにいくことが推奨されるような場面があることは説明しました。
しかし、サテライト・トーナメントにおいては上記の主張は成り立ちません。
圧倒的チップリードでフィニッシュしようが、1BBでギリギリ生き残ろうが、入賞は入賞です。
ゆえに、チップをいかに稼ぐかよりも、どれだけ飛ぶリスクを抑えられるかということが
一番のテーマとなります。いくつかのポイントを紹介しましょう。
・ ミドルスタックを維持する
ビッグスタックを築く必要はないわけですが、オールインを回避し続けて
生き残ってさえいればいいかというとそういうわけでもありません。
自分がショート・スタックになってしまうと、相手は逆に飛ばされるリスクがなくなるので
分のあるハンドで適切にコールしてくるようになります。
結局終盤にかけて自分のスタック全部をリスクにさらさないといけなくなってしまいます。
ショートスタックになってしまう前に、相手がオールインをコールするのをためらう程度の
スタックを維持するためのリスクは取っていくようにしましょう。
・ 相手のオールインをコールするには通常よりも高い勝率が必要
そもそも自分からオールインする場合と、相手のオールインをコールする場合では
フォールドエクイティの有無が関わってくるため、
相手のオールインをコールする場合により強いハンドが必要になってきます。
加えて、サテライト・トーナメントでは生き残ることの価値がより高いため、
自分のスタックをリスクにさらすオールインのコールにはさらに高い勝率が必要です。
よくあるミスの一例としてAKでのコールなどがあります。
AKは他のどのノン・ペアハンドに対しても勝率で上回っていますが、
その優位性はさほど高くなく、87sなどに対しても62%程度の勝率に留まります。
バブル近くでテーブルに複数ショートスタックがいる状態で、
もし自分と同じミドルスタックからのオールインが飛んできたら、
どんなに自分のハンドがよく見えようともフォールドすることが正解となります。
・ 場合によっては、レイト・レジストが有効
「リバイ・トーナメントの戦い方」の項で「レイト・レジストはすべきではない」という
一般的な結論を導きましたが、入賞人数の多いサテライトに関しては、
むしろ有効な場合があるのではないかと思います。
なぜなら、レイト・レジストすべきではないという主張の前提であった上位入賞の
必要性が、この形式のサテライト・トーナメントではないからです。
制限時間ギリギリに参加してなんとかミドルスタックにまで持っていき、
あとはオールインをうまく回避して他のプレーヤーが飛ぶのを待つということが
この場合は現実的な選択肢としてあるように思われます。
ただ、シートを獲得できるのがただ一人のサテライトの場合などには
完全に逆効果になりますので、注意してください。
レイト・レジストで入った頃には、チップリーダーが10倍のスタックを持っていて
逆転のしようがないということになりますので。
以上、サテライト・トーナメントの戦い方でした。