「吊り橋を歩いた後遺症だな」
「高い所にある吊り橋か?」
友佳が済まなそうに言った。
「三島スカイウォークの大吊り橋です」
「あれは恐いな。俺は絶対渡らん」
「私が無理に誘ったものですから、すいません」
「行ってよかったよ。高所恐怖症を半分ほど克服できた」
「それなら喜べ喜べ」
雄輔は満面に笑みを浮かべながら言った。
「獺祭(だっさい)を燗で楽しむ」
「温め酒と言うんだ。何度も教えてるだろう」
「燗酒という言い方の方が好きだな。人肌で頼む」
「呼び方はどうでも、旨い酒であればいいわけだ」
淡い青色の青備前の徳利にお猪口で酒を楽しむ。
雄輔は友佳に酌をしつつ手酌で飲む。
日本酒の洗練された旨みが口中に広がってきた。
友佳が感嘆の声を上げる。
「喉越し爽やか。あぁおいしい」
料理を乗せた大きな杓文字が客の前を動き回る。
石鯛の薄造り
栄螺の壺焼き
雄輔がほほ笑みながら訊いた。
「ロングジップスライドは楽しかったね」
「爽快な気分になれました。でも、高い場所にあるアトラクションでしたから怖かったのでは」
「宙を舞って滑り降りるというのは意外と恐くなかったな」
「父が言うには、空を飛ぶ分には恐怖心は湧かないそうです」
杓文字が眼の前に突き出された。
「食いねぇ、食いねぇ」
「妬くな 妬くな」
二人は何故か笑い転げる。
和牛のステーキ
焼き雲丹
岩魚の串焼き
車海老の塩焼き
蛤の吸い物
弾んだ気分で会話を楽しむ。
雄輔は友佳と視線を合わせながら訊いた。
「バスケットボールの試合をテレビ観戦したことはあるの?」
「野球はありますが、バスケは観たことないですね」