ちゃっきり駿河 よさこい祭り 5 | 東山奎星のした書き(写し)

東山奎星のした書き(写し)

読書は人生を助ける。三島由紀夫。

 
湖とアルプス山脈の遠景が、絵画のように美しくテレビ画面に映し出され、グレーテーラードジャケットを着た髪の長い女性が、社屋のエントランスから笑顔で出迎える。工房の中では白衣を着た男女の時計師が機械式腕時計を組み立てている。
 生色(せいしょく)を取り戻した友佳は、モニターテレビ映像に美声を重ねる。
「スイスのアルプス山脈と工房で働く時計師たちの映像をご覧いただいております。この環境で生み出されるステンレススチール製のケースに収めた、セラミック製部品の機械式腕時計なら信頼できますよね。一番多い月賦期間は二年だそうですね。送料無料・税込み22000円で買えるんですね。 VISAなどのcardをご利用ください」
 伊藤ディレクターが興奮気味に囁く。
「注文あり。メンズ 6・レディース 5」
 友佳は菱田の顔を凝視しながら含み声で言った。
「売れました」右手の親指と人差し指で〇をつくった。
 菱田は胸を撫で下ろしながら笑顔になった。
「ご注文を戴いております。ペアウォッチはまだですか? 注文ありました。定年を迎えられたご夫妻ですか。おめでとうございます。
そして、有難うございます」
 友佳はインカムマイクでディレクターと話しながら、ナビゲーターとしてテレビカメラに向かって語り掛けている。
「ペアウォッチ1組。お買い上げ有難うございます。菱田さん相好を崩しましたね」
 菱田は髪をかき上げながら破顔一笑する。
 友佳はインカムマイクに語り掛ける。
「完売まで行きました? 残り時間は・・・・・・5分ほどですか。菱田さん機械式腕時計を今一度お客様にご覧にいれましょうか」
 菱田は左右の肘を曲げて、白いYシャツから覗くブラックの角型を右手に、コバルト・ブルーの丸型を左手にはめた機械式腕時計を慎ましやかに披露する。
20時59分。
「お時間になりました。お買い上げありがとうございまた」
 ナビゲーターが交代して、サイクロン掃除機の紹介を始めた。
 二人はテレビカメラの後ろまで刻み足で歩いた。
 菱田は友佳に向かって深々と頭を下げる。
「ナビゲーターの方たちは、ここまで一所懸命仕事をするんですね。
感動を覚えるなぁ」
「売れなくて焦りましたね。ちょっと喋り過ぎると言われています。
これも、社風とでも言っておきますわ」