[Reborn]
2021年4月23日午後1時58分、
母は永眠した。享年91。
入退院を数々とさせられた結果、
腕にはおびただしい注射の跡があり
さぞかし辛い思いで
病院生活を送っただろうと
亡骸を見て愕然とした。
叔父は母から数えて5番目の末っ子。
戦後の混乱期に母は叔父を
自分の子供の様に
可愛いがったと聞いた。
そんな叔父はバブル崩壊後、
タクシー運転手として転職し、
現在もその道で生計を立てている。
丁度母の訃報を知った頃、
叔父は市内のタクシー業務を終え、
社に戻る途中だった。
少しでも早く母(姉)の亡骸に会おうと
裏道を抜けて帰社の途中、
40過ぎの男性が
叔父のタクシーに手を挙げた。
急ぐ心を沈めながら
お客の指示通りに
一時間ほど車を走らせた。
お客から詳細の場所を聞くと
叔父はプロならではの土地勘で
その道を進めた。
どこか見覚えのある景色の中を
走っていると
男性が一言呟いた。
「そのローソンの前あたりで」
野菜をも扱う100円ローソンを
指差しながら男性はそう言った。
!!!!!
叔父はその時、
母(姉)の住居から道路を隔てて
わずか10㍍の距離である事に驚き、
支払いを終えた男性は
あっという間に姿を消したという。
阪神淡路大震災の年に
父を亡くして以来、
叔父は父の葬儀以外で
車で来る事など無く
勤務でもその近辺に来る事など
皆無だった。
葬儀場にて叔父からその話を聞くと
家に帰りたい母の気持ちが
男性に乗り移り
そうさせたんではないかと
一同騒然となった。
お骨上げを済ましわが家へ戻ると
私は塩を撒いた体を風呂で一掃。
湯船にその身を浸すと
亡骸の母の感触や小さな頃の思い出、
脆くて小さくなった母の骨など
色んな事がフラッシュバックした。
一粒の涙が湯船を鳴らすと
ふと右の頬骨に
細い風を何度も感じた。
バスタブの上には換気口があり、
そこからの風だと思っていた。
しかし、
外気が入らない仕組みに気が付くと
それが成仏前の
母のイタズラだと思うと
何故か嬉しくなった。
しばらく目を閉じ
そのままでいると
蛇口の上に立てかけてあった
洗顔フォームが湯船に
ポチャンと落ちた。
“おかあちゃん、お帰り”
