方の
昼でも夜でもない時間。
世界の輪郭がボヤけて
人ならざるモノに

出会うかもしれない時間。

それを誰そ彼、

つまり、タソガレの語源だと

映画"君の名は"でその語源を知った。



午後5時40分。
最寄りの駅に降りると
ショッピングモールの白い壁面に
西陽が煌々とあたり、
それがレフ板の代わりをして
真昼の様に通行人を照らしていた。
私の前を通りすぎた女性は
薄いカーディガンを羽織り
両手に買い物袋を抱え
明かに家路を目指しているようだった。
遅れてやって来たコロンの香りが
とても素敵で
彼女によく似合っていた。

庭のブティックを通り過ぎると
店先の姿見に写る
自分の格好に一瞬たじろいだ。
赤い顔したオヤジにラケットバッグ。
明かに場違いな出で立ちが
こっ恥ずかしかったが
好調だったダブルスのおかげで
心が上機嫌のまま、
その場をあとにした。

大通りを渡る手前の芝生に
今日の陽を惜しむ鳩が
仲睦まじい時を過ごしていたその光景は
人を恐れる事も無く
2羽の世界がそこにあった。
信号が点滅し出す間際まで
私はその光景に釘付けになってしまった。

横断歩道を渡ると
S字に曲がりくねった道は
疲れた体に厳しく私を許さなかった。
つりそうなふくらはぎ、
背筋のこわばり。
やっとの思いで着いたマンションは
夕陽が溶けてすでに茜色をしていたが
ひんやりした空気と
惣菜の匂いが混じったエレベーターに乗ると
何故か不思議に落ち着けた。
玄関を開けた途端、
隣の4畳半にいた娘が私を出迎えた。
顔を見るなり
“お酒飲んだみたいに赤い!”と一言。
“お帰りと言えんのか”と私。
ペロッと舌を出す娘の肩を借りて、
私は、汗で塩を吹いた顔を洗いに
洗面所に向かった。

鏡に写った私の顔は
やっぱり、
酔っぱらって赤くなった
呑兵衛の様な顔をしていた。

そして、
誰そ彼のオヤジは
ぬるめの湯に疲れた体を沈め、
うたた寝をしてしまった。