は勤務していた運輸会社を
65歳を前に退職した。
某コンビニのドライバーとして
マナーやコンプライアンスを
遵守し運転技術を磨いていったが
入社して2ヶ月が経ったある夜、
不思議な体験をしてしまった。

先輩を助手席に乗せ
某総合病院内の一店舗を
残すばかりの納品となった。
深夜1時頃、
院内の営業時間はとっくに終了し、
もちろんスタッフはおらず
店舗外の2つの業務冷蔵庫に
サンドイッチや菓子パン、
パスタ・弁当等を
5℃と20℃の冷蔵庫に分けると
厳重に施錠するという工程。

院に到着後、
スロープをバック入庫。
トラックを所定の位置に駐車して
エンジンを止めると
静寂の中に浮かび上がる
非常口のパネルが
ひときわ目をひいた。
ハザードランプを点灯させたまま
商品を台車におろすと
関係者入り口で暗証番号を押す。
8●06そして、enter。

イメージです


薄暗いリネン室の前を
先輩と共に10m程進むと
院外の中通路に出た。
電源オフの自動扉を力ずくで開け
一般駐車場(外来患者用)に出ると
こもっていた車の排気の暑さで
一気に汗が吹き出した。
駐車場の奥まで約20㍍も進むと、
畳一畳分位の冷蔵庫が2基現れる。
預かっていた鍵で
施錠された冷蔵庫を開け
商品が入った7段から11段重ねの
ばんじゅう(注)を入れる。
ハンディースキャナーで
ばんじゅうのバーコードを読み込み
再び施錠して完了。
暗くて生温いその場をあとにしようと
私たちはゆっくりと歩き始めた。

ると、
冷蔵庫よりさらに奥の壁あたりから

アリーさん、メアリ~さ~ん~

と、女の子の声。
一瞬立ち止まった私達は
顔を見合わせ凍りついた。
コンクリートの白い壁、
3㍍超の同色のシャッター、
それ以外何も無かった為、
尚更怖くなった。
駆け出したかったが
台車はそこそこ重く、
置き去りにして帰る訳にはいかない。
再び歩き出した私たちは
後ろを振り返る勇気も無く
台車の音でその声を書き消しながら
自動扉のある院内通路まで
足早に歩いた。
そして、やっとの思いで
トラックのキャビンに
乗り込んだ私達は
“あの声、聞いたよな?”
と何度も確認しあった。

ンターに帰り、その話をすると
場内は騒然となった。
所長が話に一言付け加えた。

シャッターの裏は霊安室、
いつでも密かに遺体を運び出す為
病院の奥にある”と。

それ以来、
あの病院は"メアリー事件"として
同僚が呼ぶ様になった。
何事も無い毎日が続いたが
その夜、新たな事件が
私を恐怖に落とし入れた。
(注)主に食品業界で使用される薄型の容器

"メアリーさん2"に続く。