右膝のリハビリの為、
午後の陽を背に
河川敷へ向かってジョギングをした。
片道20分のアスファルトの熱が
一歩毎に踏む足裏に伝わり、
めげそうになったが
スマホの音楽が身を助け
どうにか
目的地に着く事ができた。



河川敷のグランドは
泥水で混濁し粘土状になっているし
それがランニングシューズの底に
へばりついてすべりそうになるし。
そして、
水溜まりだらけの道を進むと
最後には隘路(あいろ)になった。

ならば意を決して
靴のつま先をバレリーナみたいにして
水面を進んだが
とうとう半分つかって諦めた。

洗い立ての靴下は
靴の中でぐちゅグチュ音を立て
帰る気力が無くなる位
悲しい気持ちになった。

あたりは蒸した草の匂いに包まれ
耳元に風の音だけを残して
大地は沈黙していた。
朽ちたベンチを這い上がる毛虫。
自然の代謝は
あきれるほど普通で
いつもと変わり無い
雑な緑を呈していた。



あの日の出来事
なんだったんだろう。
思いにふける位
静かな水溜まりの中で
ふと地震の事を振り返った。

私達の起源は、
何度も何年も、潰され立ち止まり
来たるべきカオスの力に屈した。
偶然と必然のはざまで
生かされてきた命
輪廻の如く、受け継がれた
私もその1人。

したたる汗と
濡れたランニングシューズ。
プロジェクトXの主人公となった私は
遥か上空から俯瞰で写し出され
田口トモロオのナレーションが入る。

“行き場の無い濡れた英雄は
  ただひたすら
  明日に向かって走るのである、
  治るあての無い右膝をかばって”

そんな妄想をしながら
私はぐちゅグチュと靴を鳴らして
我が家を目指した。