かりっとトーストしたバゲットに、たまごペーストをトッピングしたオープンサンド。これは自分なりに作ってみたレシピですが、オープンサンドにはちょっと忘れられない思い出があるのです。
材料は、ゆでたまご2コ、ピクルス(小)適宜、イタリアンパセリ少々、マヨネーズ大さじ2くらい、塩少々、バゲット
1 バゲットは食べやすい大きさにカットして軽く焼き色がつくまでかりっとトーストする。
2 たまごをゆでて、殻をむいたらみじん切りにする。ピクルス、イタリアンパセリもみじん切りにする。
3 刻んだたまご、ピクルス、イタリアンパセリをボウルに入れて、マヨネーズで和え、塩少々で味を調える。
4 焼きあがったバゲットに3のたまごペーストをのせてできあがり。
ピクルスの分量で味が変わりますので調整してくださいね。ピクルスがお好みでない方は入れなくてもオッケーです。
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さてさて。ガーデニングやおいしいものなどをご紹介してくださる魅力的なブログ「ゆず暮らし 」のゆずさんの記事に、「女子って、”一人喫茶店デビュー” って遅いですよね?(記事はこちら )」と書いておられたのですが…私の場合は学生時代でした。大学生になったばかりで、背伸びして精一杯イキがってた頃の忘れられないアホなジャズ喫茶単独デビュー話。長いです。くだらないです。そんでも読んでくださる奇特な方のみどうぞ…。
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真冬の夕方、今にも雪が降りそうなほど寒い日のこと。友だちとの待ち合わせ時間までには半端に余裕がある…どうしよう…お腹も減ってるし。
そうだ、こないだ先輩たちが連れてってくれたジャズ喫茶に行ってみよう。温かいコーヒーと何か食べるものもあったはず…。
と、店の前までやってきて立ち止まる。
地下にあるお店に通じる階段を一段ずつ下るたびにタイムスリップしていくように…
タバコのにおいがきつくなっていく…そんなところに1人できちゃっていいの?
一瞬ためらったものの…好奇心と空腹の方が勝ってしまった。
ヘーキ、ヘーキ。ちょっと冒険してみてもいいじゃない。
階段を降り始めると、扉の向こうから微かに漏れてるサックスの乾いたような音色がだんだん大きくなってきた。
思い切って扉を開ける。窓のない店内は照明も落としてあって薄暗くて、喫茶店というよりバーのよう。
先客は1人だけ。30代くらいの男性。演奏に没頭しているらしく、腕組みしてうつむきながら首を振っている…
え?お客さん、私とその人2人だけ?や、やばい!
急激に引き返したくなったけど、時すでに遅し。
「いらっしゃいませ」とマスターに声をかけられてしまった。
先客の男性からなるべく離れた席を探し、カウンター席の端っこに座ることにした。
「ご注文は何になさいますか」
と低く呟くマスター。場の空気に呑まれて緊張しすぎてる私は袋小路のどん詰まりに追い詰められた子ネズミのような気分。
しかし「やっぱ帰ります」なんて女がスタるような言葉は吐くわけにはいかんのだ、となぜか腹を括る。
「コーヒーとサンドイッチを」と、“私1人でも大丈夫なの”って落ち着いた女のフリをして答えてみる。たぶん、声は上ずっていたと思うけど。
そしておもむろにカバンの中から文庫本を取り出す。手持ち無沙汰にならなくてよかったー。
とはいえ、カッコつけてるだけだから、当然活字なんか頭に入らない。ジャズの演奏もよくわかってないし。
「場に慣れてるフリ」だけに徹しようと時々横目でちらっと首振り先客をウォッチングしながら必死で落ち着いてみる。
やがて、コーヒーとサンドイッチがやってきた。
サンドイッチは、なんとオープンサンドだった。薄くスライスした小ぶりなバゲットをかりっとトーストして、たまごペーストがトッピングされている。当店自慢のメニューらしい。
客は相変わらず先客と私の2名のみ。私語厳禁。タバコの煙なのか薄くにごったような空気。巨大スピーカーから流れてくる演奏は、たぶんピアノとサックスとベースとドラムという編成だったような…。
そしてアナログレコードの音の向こうは、針一本落ちる音さえも響き渡りそうな静寂。そう、雪の降る夜に「しーん」という音が聞こえてきそうな、あの静けさも広がっていた。
まだその静寂の威力に気づいてなかった私は、うかつにもピアノのソロの最中にパンの端っこを齧ってしまった。
「ガリッ!」
店中に響き渡る巨大な音が跳ね返ってくる。
ほんの一齧りのつもりが、ピアノの繊細な音など吹っ飛ぶほどの一撃だった。
やばいやばいやばいやばいやばいっ!もーなんでぇ~この音、なんとかしてーっ!!
絶対絶命、あの先客に睨まれたらどうしよう、「ウルサイ!」って怒鳴られたらどうしよう…
やっぱ、1人なんかで来るんじゃなかった…普通にウェンディーズでハンバーガー食べてればよかった…
泣きたい気持ちになって凹みまくるが、後悔後に立たず。
それに神経の1本1本がバチバチっと火花を散らしているような緊張を感じつつも、一方ではお腹も容赦なく空いてるのだ。
私どうしたらいいの?…サンドイッチあきらめる?そんなのいやだ、やっぱこのサンドイッチ食べたい。
心の中で激しい葛藤が繰り広げられている真っ最中に突然、演奏は静かなピアノからテナーサックスへとバトンタッチした。
最初はメロディアスなリフから、うねうねとしたアドリブに入り、だんだん佳境に入って激しいブロウが響き渡る…
「今だ!」
サックスの激しいブロウなら、ガリッというパンの音もかき消されるはずっ!
ぶひょぶひょー! (がりがりーっ!)
ぶひょぶひょひょひょーきぇーーー! (がりりがりがりがりりーーーっ!!!)
ふう、やっと1枚食べ終われる、ほっと胸をなでおろそうとしたとき、畳みかけるようにハプニング勃発。
ぺしゃ!
うわぁ~最悪!たまごペーストがぁ~~床に落ちた…。
どうしよう・・・どうしよう・・・私が帰った後、店員さんに見破られたら超恥ずかしい・・・友だちと一緒なら「やっだぁーおっことしちゃったーごめーん、ちょっと拾わせてー」で笑ってごまかせるのにぃ~もう勘弁してー!!
と、窒息しそうな思いをしながら、間違っても30代首振り先客が顔を上げてこっちを振り返ったりしないように、そーっと紙ナプキンを持ち、床に落ちたたまごペーストを拭き取りミッション遂行。
そして何事もなかったかのようなすまし顔を取り戻し、演奏のクライマックスに隠れるようにしてオープンサンドを食べきったのだった。
こんな息詰まる思いをしながらも、途中で席を立つなど一寸も考えられなかった、と今更振り返って愕然とする。
若いって、無謀。
ジャズ喫茶の扉を後にして地上に出る階段を上りながら、「私も大人になったもんだ」と思ったのだった。
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そのとき何のレコードがかかってたかなど全く気が回らず…豪華なブロウを聴かせてくれた救いの神はコルトレーンだったか、ロリンズだったか…。


