目が覚めると7時だった。

前夜は蕎麦屋で飲食が好きな同僚とワイワイと騒いだ。〆に富倉そばをいただのが10時半と随分と長っ尻で、帰り際に旦那さんと女将さんに丁重にお詫びを述べる。常連面して甘えたくないと思っているのだが、お酒とつまみがすこぶる美味いので帰るに帰れなくなってしまう。今では予約が取り難くなったが、それも当然と思える味とサービスを提供してくれる。

 

そんな調子で、ホテルについたのが11時過ぎであり、飲み直すつもりで買ったビールは開けずにすんなりと眠ってしまった。そのせいで起きたのは7時前と遅く、良く寝たせいで昨夜の余韻はスッカリと頭から消えていた。どうでもいいテレビをかけながら報告書を書き上げ、8時過ぎにチェックアウトする。

 

Yahooは大丈夫だよと言うので関越に入ろうとIC近くの高架を跨ぐと眼下に拡がる渋滞の列にオイッとツッコんでしまう。高坂SAからみっちりと止まっているようで、慌てて新しくできた「松屋」に入って気を落ち着ける。ちなみに、しばらくの間「〇〇屋」は入る気がしない。声の大きい客に辟易しながらサッサと朝食を取って、再び、下道をひた走る。ついていないときはついていないもので、小川町の町中を流れる川を跨ぐ橋は工事のために通行止めになっていて大回りして回避するよう指示を受ける。それならば桜を見るかと、東秩父、寄居と桜がキレイなところに立ち寄り、結局、ダムの駐車場に着いたのは10時半を過ぎていた。

 

大減水から回復しつつあるといっても、桟橋ははるか下にあり、水面の遥か下にあった段々畑もハッキリと見えている。

 

 

 

車を事務所脇のところに停めると、桟橋からだみ声渋い声が聞こえてくる。声の主は、もちろん会長で岸寄りの桟橋で釣れという。そんなところに入ると日焼けして土人になるから嫌ですと会長の脇に道具を置く。

「入るのは良いけど、宙釣りは厳禁だぜ」

という。

 

今日は右隣りのKさんに勝っているので上機嫌だ。ご機嫌を損なわないように、

「手持ちの最長になる17尺で底が取れなければ13尺でやりますよ。そのときはバンバンエサを打って、水面までヘラを上げちゃうから」

と優しく答える。左に入っている人に笑われてしまう。

賑やかですみません、本当に。

 

 

事務所に戻って入場料と年券を購入し、その足で逆側の桟橋を偵察する。

魚は片っ端から釣り上げるN名人を冷やかしてから、キキちゃんに声を掛ける。今日は珍しく起きているなと思うと、すでにいくつか釣れている。N名人は当然として、他の人達も釣れているようで、桟橋の雰囲気が良い。自分の釣りに戻ろうとすると、N名人がオイっといい、キキちゃんの長めの軟らかい竿に付けられたスズがチリンとなる。穂先が不規則に上下に揺れる。食い込め、と周りの視線が穂先に集中するが、グゥ~水面に舞い込むことなく、10秒ほど経つと、弱々しくクチボソの動きを伝えるだけになってしまった。ヌルだけ吸われちまったね、ハスか、ヘラだよというと、そうだね、と弱々しく答える。じゃあ、戻って釣りをするから、とソソクサと離れる。鈴が鳴ったときに、オレが来たから…と言わなくて良かったぁ。

 

 

席に戻って、左の方に挨拶をすると「お久ぶりです」と言われる。シマノの大会で優勝したNさんだった。帽子にグラサンで判らなかった。久しぶりに隣りで釣ることになった。釣れないだろうが、いろいろと勉強させてもらおう。

 

竿は影舟の17尺。

道糸は東レ将燐へらフロロの0.8号、ハリスは将燐へらフロロで0.4号で上が50cm、下が57cm。鈎は角マルチ3号。ウキは忠相のTour Spec PB 14番。エサは芯華120cc、粒戦60cc、水100cc。

 

会長のウキの動きが良いので久々に粒戦入りのダンゴで攻めてみることにしたが、さすがに粒戦と芯華を半々には出来ない。初めてのブレンドだが、これくらいの重さならば何とかなるだろう。

 

第一投目は12時前。

一投目からナジミが入らない。ウキが立ったところで突き上げられたからジャミが居るのは判っているが、それにしてもそれである。手水を少し打ち、掻き混ぜて粘りを付けるが、ナジミが入らない。ジャミがキツイにしてもほどがあると思った12時10分、空合わせを入れると竿が曲がる。釣れてしまった。

 

 

 

型は7寸とカワイイ。型はおいておき、釣りになっていないことが気に入らない。ウキ下を5㎝ほど浅くすると、今度は2節ほど入る。逆かけ上がりがキツイようだ (測り間違いかと思っていた…)。ハリスを42cmと50cmと詰めると4~5節ほどナジむようになる。すぐに両目が開いたが、今度はエサが目詰まりを起こすようになってきた。ウキの返しが悪くなったので、軟らかくするとジャミに突っつかれて持たないし、ヘラの数も減るので釣れない。この方向ではないと判断して、パチンコ玉程度まで大きさを戻すと、アタリが出るまで待つ時間が長い。これなら粒戦入りでやる必要がないし、そもそもツブツブを無くす方向での調整が気にいらない。

 

そこで、ウキを15番に上げて、エサ付けを弱くする。

この対応でペースが上向く。4連荘するところまで上がったが、釣れた後にシラッとするのと、釣れるサイズが下がるのが気にいらない。8寸クラスがメインだが、油断すると7寸になってしまう。もう少しハリスを詰めたいのだが、ウキの位置が穂先に近くギリギリなので、これ以上は詰められない。

 

そこで、次のエサでは粘力を1杯追加し、その分だけ、エサをいじる回数を減らす。

しかし、エサの崩れ方が早いせいなのか、ペースが上がることはなく、むしろ下がり気味になってきた。せめて型だけでも、とサイズとボソッ気を考えながら釣り進めるが上手く行かない。パタパタと釣った後で、シラッとするといった具合で納得がいかないまま、エサが無くなった15時前に納竿とした。

 

Kさんは30枚は釣れたのではないかと言っていたが、そこまで釣れていなかっただろう。ただ、8寸メインで、7寸も結構混ざったことから、もっと釣れても良かったと思う。同じく底釣りをしていたNさんはヤッパリ上手く、後を追うのが精いっぱいだった。最初は色々と教えてもらうつもりだったのだが、Nさんが所属する会の先輩方の近況を聞くことがメインになってしまって、すっかりオザナリになっていた。それに、途中で会長が

「Nさん(自分)も釣るが、やっぱりNさん(チャンプ)は釣るねぇ」

というので、勝負のスイッチが入ってしまった。昨年、死にそうになったが、まだ、枯れていないんですよ、自分は。

 

それでは、また