ここ数週間バタバタと過ごしてしまい、いつの間にか好きな季節である秋が終わりを告げていたことに気付く。秋の釣りの難しさはタナがコロコロと変わることで、「秋はタナを釣れ」という定番といえる格言からも明らかだ。それでは、冬はどうかというと、それらしき格言の類は思いつかない。ただ、半世紀ほど前に読んだヘラ釣りの教科書だと、厳寒期にヘラは障害物周りの底でジッと厳しい寒さを耐えている、と書いてあった。

これは本当なのだろうか。

 

ヘラのタナを決めるのが水温や酸素濃度と言われる。ただ、ガサベラは浮き易く、ムッチリしたナイスバデイのヘラは深いところにいることが少なくないので、ヘラの遊泳層は、ヘラのコンディションも考えなければならない。まぁ、この個体差を一旦脇に置いておいて、まずは水温を考えてみる。

 

バス釣りをしていた自分は、釣りを始める前に水温を測っていたが、随分と前に止めてしまった。キッカケは先日亡くなった小池さんの解説である。その動画で小池さんは、

「水温が5℃を下回るとヘラの食いっ気がガクッと下がる」

と言われていた。5℃というキリの良い値から、小池さんのことだから大まかな目安だろうと思っていたのだが、時間を見つけて調べてみると本質を突いているのではないかと考え始め、そこから派生した情報によって、今の自分の釣りだと意味がないことに気付き、水温測定を止めてしまった。

 

 

さて、季節による水温変化、それも水深を含めて調査した例としては琵琶湖の調査があるが、データが古い上に、水面が広く (670km2)、風により波が立ちやすくて流れが出やすい湖ということで別の調査結果を探したが国内では見つからなかった。仕方なく海外を探すと結構出てくる。

 

ここでは、米国インディアナ州にあるWawasee湖を取り上げる。この湖の水深は平均で6.7m、最深部で23m。そして、面積は12km2と小規模な湖である (ちなみに、間瀬湖が3.4km2で、三名湖が7.3km2である)。下は2020年の測定結果(1)になる。ここで、温度は華氏(F)だったが、判り難いので括弧内に摂氏に換算した値(℃)を入れておいた。

 

 

水深に対する水温のプロファイルを見ると、1月~4月までと11月~12月のように単調に変化するタイプAと5月~10月までのようにある温度領域を境に大きく水温が変わるタイプBの2つが存在する。

 

小学校のころだったと思うが、湯舟の底の方が冷たくなるのは、水は温められると軽くなるからと説明を受けた。ただ、そうだとすると、冬場にバケツの水は凍るが、凍るのは水面の薄いところだけで、その下は水のままということが説明できなくなる。

 

そこで、水の密度を調べてみると下のような温度依存性(2)を持つことが判った。

 

 

そう、水は温度に対して単調減少するのではなく、4℃付近(厳密には3.98℃)で最大となるような曲線を描く (これは水の面白いところで、原子・分子の秩序性に行きつく)。

 

また、水は他の物質と比べて比熱が大きいために温度を上げるのに必要な熱量が大きい、すなわち熱しにくく、冷めにくいという特徴を持つ。

 

これらのことを踏まえて、再度、測定値を見てみると次のことが判る。

 

寒い冬から春になると、だんだん温度が上がっていく。しかし、温められるのは浅いところだけで、大気や太陽から得た熱も比熱が高いために深いところの水は少しずつしか温められない。そのため、気温の上昇にともなって表面と湖底との温度差は大きくなってしまい、結果として密度の差が大きくなり、浅い層と深い層は混ざらなくなってしまう。上のグラフだとタイプBが該当する。5月を例に取ると、10mから13mのところに遷移領域があるが、これは水温躍層とよばれる。ちなみに、バス屋さんはサーモクライン (英語だと、thermoclineまたはmetalimnion) とよんだりする。

 

そして、さらに温度が上がるにつれて水温躍層は浅くなってくる。7月をピークに、今度は水面の温度が下がり始めると、水深方向での温度プロファイルが変わり、10月になると水温躍層付近でのスロープががたつく。これは測定誤差ではなく、対流が生じて水温の変化が不安定になっていることを表している。また、表面の層と湖底の層が混ざり合い水温の差が少なくなっていることも判る。このような対流により表面層と湖底層の水が混ざり合うことをターンオーバー (turnover) とよぶ。11月になると、水温躍層が消えて、水温差が小さくなっていることが判る。

 

さて、このターンオーバーはヘラ師だけでなく、バス屋も含めてすべての釣り師にとって嫌われる言葉である。魚の活性が下がってしまうのだ。釣り師としての視点を忘れずに、次回以降も考えてみる。

 

それでは、また。

 

【参考文献】

1. Lilly Center for Lakes & Streams, Grace College, Web: https://lakes.grace.edu/how-does-temperature-affect-lakes/.

2. 自然科学研究機構 国立天文台、「理科年表 平成25年」、丸善出版、p.383 (2012).