学生と社会人の意識の違い。
俺はサービス業に対する態度にそれを見る。


何を生み出すわけでもなく
自分で食い扶持を稼ぐわけでもない学生生活。
ニート諸君同様、あくまで社会に寄生している身分だ。

モラトリアル(執行猶予)という言葉の如く
厳しい社会人生活までの猶予期間だったな。まさしく。


という訳で権利意識が肥大し、パープリンのガキでさえ
一人前にクレームをつける狂った今とは違い、
俺たちの学生時代は学生の本分をわきまえて
腹が立つことがあっても文句をつけるのは余程の場合に限られた。

しかし社会人になり、
自分の力で禄を食むようになるとそれなりに自信もつき、
且つ、なまじ就職した先が百貨店ともなると
サービス業に対してのチェックも厳しくなる。


メシを食いに行ったりしても
店員やウェイトレスの態度を無意識にチェックしてしまうのだ。
「水を持って来るのが遅ぇ」とか「態度が悪い」とか気になって仕方がない。


これは俺に限らなかったようで
焼肉屋で働いていた普段は温厚なツウは
「ちょっと、水、はよう持ってくれるかな。」
「あっ、その大きい容器で持ってきて」と横柄な口調で
ウェイトレスにお願いというよりも「命令」していた。

驚く俺に「ええんよ、あのコも仕事なんじゃけぇ」と言い放ったし
当時、付き合っていた彼女もサービス業だったためか
買い物に行っての店員の少しのそそうにも手厳しかった。


俺の百貨店での配属先は食品。
お中元やお歳暮では果物もよく売れていたし
少しでも痛んでいたら、課長が代替品を持って
速攻お詫びにいくのを傍らで見ながら
「サービス業って大変だな」とマジで思っていた。


そんな周囲の変化に少しずつ慣れていった頃
事件は起きた。


俺が当時、利用していたクリーニング屋。
この商店街の中にある小さな店はクリーニング屋以外にも
酒屋やコンビニも兼ねていた。


こともあろうにその店に出していた
俺のスーツのズボンが紛失したのだ。


当時は温和な今の俺からは想像もつかないほど
血気盛ん自己主張の激しい時期である。
黙っていられるはずが無かった。


「何で、僕のズボンがないんですか?(`ω´)」

「そちらの管理の問題でしょ?(ノ`△´)ノ キイッ」

「僕、代わりのズボンないんですよ!ヽ(メ`⌒´)ノ」

「何でこんなコトになるのですか?ヽ(`Д´)ノ」

「こういう時間って誰の責任なんですかぁ?(」`□´)」」



俺は若いへっぽこメガネの分際で
一方的に言いまくった。

いつもクレームをつけられても
一方的に謝るだけの立場だけに少しだけ気分が良かった。
それは否定すまい。


相手をしてくれたのは
メガネをかけた少しキツそうなオバサンだ。
商店街の中で馴染みの客ばかり相手の
ちょろい商売をやっていたようで反応はややにぶい。


「すみませんけど、多分他の人に渡してしまったんだと思います。」
「はぁ、申し訳ありませんけど、もう少し待ってもらえます?」
「もしかしたら、そのまま紛失している可能性もございますが・・・」


大して悪いことだと思ってないようで
対応も何だが粗末に扱われているような・・・。

所詮は新参者のクレーム。
この客を逃したところで商いには影響しない。
うがった見方をすればそう思えた。

長年、商店街で生き抜いてきた、したたかさ
このババアにはそれがあったのかも知れない。

しかし、俺もサービス業の中でも
接客においては最上に近い丁寧さを求められ
その要求にこたえ続けている百貨店マン。
たとえ、野菜を売っていようと魚を売っていようとも
「お客様は常に正しい」の精神に凝り固まっていた。


「とにかく早急に何とかしてください!!
 連絡先はここです。ズボンが届いたら電話をしてください(`Д´#)凸Fack you!」


お客様の大切なズボンを紛失するなんて考えられない。
現品+それなりの誠意を寄こせ!
と心の中で叫びながら自分の住所と電話番号のメモを渡した。


これが百貨店であれば
すぐに気の利いたお菓子などと同時に
担当者の上司がご自宅にお邪魔するだろう。

いかにも恐縮したような表情で
「この度は大変、申し訳ございませんでしたぁぁ。」
と、深々とお辞儀をし
「あの、これ、つまらないものですが・・・」
とあくまでも控えめに且つ
「これが我々の誠意ですわ、勘弁してつかあさい」
というメッセージを込めてオズオズと贈答用のお菓子を渡すわけだ。


俺としても、それくらいするのが当然だと思っていた。
だって貧乏な俺のスーツのズボンが無くなってるかも知れないんですよ。
ズボンが無きゃ、上着も着れないじゃないですか・・・。
とにかく大変な事態だと思っていた。
怒りながら帰った。




数日後、自宅に留守電が入っていた。


「石○さんですかぁ?ズボンが届きましたので
取りに来てくだ・・ピーーーーッ・・・・ツーツー・・・。」


どうやら俺のズボンは無事なようだ。
それにしても、あのズボンが無いお陰で
着替えも出来ず随分苦労した。

しかもその原因はすべてあのクリーニング屋・・・
フツフツと怒りが沸いてくる。


早速、店に向かう。

「石○さん、これですね?」
またしても、淡々としゃべるババア。

よく分からないが多分、そうだろう。
スーツのズボンなんて余りチェックしないから分からない。

それよりも俺はズボンの傍らに置いてある
白い包装紙に包まれた品物が気になって仕方がなかった。


これによがしに置いてあるそれはどう見ても・・・お詫びの品だ。


「ここはガンガン文句言う場面じゃない。相手の出方を見るべし!」
強欲な俺の心の声が囁く。


「多分そうです。ありがとうございました。( ̄_ ̄*)」

素っ気無く返事をした。

「じゃぁ」

とわざとらしく帰ろうとする俺に・・・


「あの、これご迷惑をおかけしましたので・・・(u_u*)」
と白い包装紙に包まれた四角いブツを差し出したババア。


「やった~~~・*:.。☆..。.(´∀`人)」と思いつつも
「あっ、どうも・・」とあくまでもクールに言う俺。


しかし、気が利かないと思っていたババアもやるもんだ。
少し言い過ぎたかな~、なんて柄にもなく反省する。


この大きさかと重さからすると
「クッキーの詰め合わせ」か、何かだろう。
モロゾフか、そんなことだ。
あんな流行ってなさそうなクリーニング屋からすれば
結構な散財だったんじゃねーかな。

貧乏人が同情までしている始末。




自室に戻って包装紙を破る。
何も書いていない包装紙なんて珍しいな・・・



満面の笑みで更に破る。


!?


出てきた「お詫びの品」・・・・


それは・・・



SB「8分の5チップ」一箱・・・・。




o(´∀`;)o尸~~降参!!


怒ると言うよりマジであきれた。
世の中、マニュアルの通用しない相手がいる。




伝説のジイさん。彼のエピソードもまた書こうっと♪