「僕のオヤジはね、福神漬けが食べれないんですよ。
警察官だったんですけどね・・・。」
バスの車内放送広告営業に来た飛び込みの
小太りの饒舌な営業マンはそう言った。
飛び込みの営業マンなんて
いつもなら、シッシと追い払うだけなのだが
妙に人懐っこいその男の笑顔と語り口に
うっかり相手をしてしまい
席に座ってそいつの営業トークを聞く羽目になってしまっていた。
「何でだと思います。石○さん?」
手元に置いた俺の名刺に
チラッと視線を走らせ質問してくる営業マン。
「えー、何ででしょうか・・・
赤いから・・・血を連想するんでしょうか?」
無邪気に答える俺。
大げさにかぶりを振って奴は答えた。
少し嬉しそうにも見えた。
「それがね、違うんですよぉ!!」
そこから少し声を潜め
眉間にシワを寄せて、囁くように言った。
「福神漬けの色じゃなくてね、匂いなんです。
オヤジが言うには人が死んでからしばらくして出す匂いに
そっくりらしいんですよ、福神漬けの匂いって・・・」
「・・・死体の匂いなんです。」
俺の目には驚愕の色が浮かんでいたのだろう。
話し終わった奴は満足そうな顔をしていた。
カレーを食べる時だけのお供「福神漬け」
奴にそんな秘密が隠されていたとは・・・。
みんなもビックリでしょ?
しかし日常何気なく食っている
「福神漬け」という素材をここまで聞かせる話にした
この営業マンも大したもんだと思う。
「福神漬けと死体」
組み合わせの妙とでも言おうか。
「福神漬けを食べれない理由」なんて
即答できる奴が日本に何人いるんだ?
実に上手い前フリだ。
人間誰しも今までの人生で
一つや二つネタって持っていると思うけど、
この営業マンは父親から聞いた話を
どこかでしゃべった時に反応が良くて
それに味をしめて、あちこちで何回も話しているうちに
前フリ、語り口、質問、目線の位置まで
洗練されたものになっていったのだろう。
その証拠に
こいつの福神漬け以外の話、覚えてないもん。
しかし営業マン君
可哀相だけど俺にしゃっべたのが運のつきだ。
こうしてブログに書かれちゃうのよ。ケケケ。
このブログを読んでくれているアナタ!
もし貴方が今後の人生で万が一、飛び込みの営業マンから
「僕のオヤジはね、福神漬けが食べれないんですよ。
警察官だったんですけどね。何でだと思います?」
と話の途中で質問されたら、
「死体みたいな匂いがするからでしょ?」
と即答してやって欲しい。
現在、精神的に病んでいる俺は
その時の奴の表情が今一番見たい。