ヴェリルは突然、猫の姿になり、リゼルを驚かせました。
マジックショーで、スカーフがステッキに変わるような、一瞬のできごとです。煙も出ないし、効果音もありません。まばたきをした、ほんの一瞬のことでした。
──あの雑貨店へ行こうよ。
猫が直接、頭の中に語りかけてきました。それはルチルも聞き取ることができました。
「そうね。リゼル、運命の出会いがあったんでしょ。お店に着くまでに、話してよ」
一瞬にして現れた猫には驚きもせずに、ルチルは平然と言いました。
「……ルチルさんて……何者?」
「私は普通の主婦でお母さんよ。不思議なことには精通しているけど」
普通の主婦でお母さんというのは、ママみたいな人のことを言うのでは?
リゼルは首をかしげます。
「普通の人は、あらゆる不思議なんて見えないから」
「あら、リゼルだって見えるようになったんじゃない。魔法の一秒にだって、気づいたでしょ?」
「あ! あの一秒ってなんなの? ヴェリルは、一秒を盗んだ人を探してるの? この都市の守護霊? 精霊? だったら納得でき──。
あ! ルチルさんは天使は見えるんでしょ? それならヴェリルは天使ではないってこと? それとも、天使にもいろんな種類があるってことなのか……」
ルチルはベンチから立ち上がり、先に歩き出しました。
「その話はまた今度でいいわよ。リゼルの話を聞かせて」
リゼルはうなずき、ルチルの隣に並びました。
雑貨店で働いているユアンに、命を助けてもらったこと。リリアナのこと。夢で聞いたマクシミリアンとユアンの会話……。歩きながら、リゼルは簡単に話しました。
夢はただの夢かと思っていましたが、ルチルに言われました。
「リゼルは選ばれたんだと思うわ」
「天使に? 中央公園の守護霊に?」
二人の前を行く猫のヴェリルが、振り返ってニャアと鳴きました。
『それって僕のこと? 僕のことは──ガルデニアの精霊──とでも呼んでよ』
ルチルがリゼルを見て笑いました。
「天使や守護霊はお気に召さないみたいね」
リゼルは目を見開きます。ルチルは、やっぱり、猫と会話はできるようでした。