3 夢か魔法か?


(ユアンさんは、私のことを覚えていなかった……)

一週間前の誕生日に、危ないところを助けてくれたのは彼だったのに。
でも、今日知り合えたということは、やっぱり一生の出会いになるのではないかしら?

リゼルは考えます。

今日感じた謎の一秒。あれが魔法なのだとしたら、もしかして、危ない目にあったあの一瞬も、魔法の一秒だったのかもしれません。

魔法は魔法を呼びます。物語の始まりはいつもそう。これをただの偶然にしないためには、何をしたらいいでしょうか。

(ユアンさんと、親しくなる!)

そのためには、『虹色の羽』に通いつめなければいけないでしょう。
お客様になるためには、ママに一緒に行ってもらって……。
常連のお客さんになるために……。彼に助けてもらったことも伝えて……。

リゼルはいつしか、眠ってしまいました。



☆☆☆



薄暗い店内の、そこだけに光が当たっていました。
緑のビロードのドレスを着た、美しいお人形。リリアナという名前の、銀色の巻き毛のお人形です。

リリアナはアンティークドールというよりも、リアルな美少女という感じのお人形でした。

リリアナはじっとリゼルを見ています。エメラルドのようなキラキラとした大きな瞳で、夢見るような表情をしています。

ああ。これは夢なんだ。あのお人形があまりにも美しくて、どうしても欲しくなり、こんな夢を見ているんだ。

……と、リゼルは思いました。

「ユアン、何か思い出した?」

マクシミリアンが、静かな声で尋ねました。

「……いえ、何も」

「その子のことは?」

私のことだ、とリゼルは思いました。
ユアンはリゼルをじっと見つめ、首を横に振りました。

「リリアナと呼んだのは君だよ。彼女は、君が現れるまで、ここにはいなかった」

ユアンと一緒に現れたリリアナ。リリアナは人形なのだから、何も語りません。そしてユアンは……記憶をなくしていました。

(え──? 何これ? 私、リリアナになっている)

今、リゼルはリリアナとして、ユアンの前にいました。人形になっているので、動けません。話せませんが、感じることはできます。

リリアナはユアンをとても大事に思っていて、ユアンも同じように思っています。

リリアナはユアンのものなの?
一緒に現れたって、二人はどこからきたの?

『知りたい?』

頭の中に響いてくる女の子の声は、リリアナなのでしょうか。

『知りたい? ユアンのことを、もっと知りたい?』

(知りたいわ!)

『それなら、こっちにきて』

(こっちって、どこ?)

『私に気持ちを、心を合わせて──』

リリアナになっているリゼルは、水の中をゆらゆらと漂っているかのような、不思議な心地よさを感じていました。
これが気持ちを、心を合わせるということなのでしょうか。


──そっちに行ってはいけないよ。