「アンリエット様、温室を見たいと言ってきた人がいるんですが」
庭師が、少し困ったように言ってきました。
うちの温室は、一般公開をしているわけではありません。しかも、見たいと言ってきたのは、若い男性だとか。
「お断りしたのですが、アンリエット様に頼んでほしいと……」
この間、雑貨店で会った彼のことを思い出しました。そんなはずはないのに、なぜか予感がしたのです。
「その人は、今どこに?」
「門の外にいます」
……いいえ。すでに温室の中にいる。
その姿が見えるかのように、私の頭の中に、はっきりと彼の後ろ姿が浮かびました。
温室のドアを開けて中に入ると、白い残像が横切りました。ルベリウス様です。精霊のルベリウス様は、自分の行きたいところ、いたいところにいるようです。
ルベリウス様は時折姿をくっきりと見せ、花や植物と話でもするように、穏やかに微笑んでいました。
そして、誰かの反応を見る様子も。
私はそっと近づいて行き、ルベリウス様の前に彼の姿を見たのです。
雑貨店で会った、青い瞳の彼でした。
彼は私を見ると丁寧にお辞儀をして、透き通るような声で言いました。
「こんにちは。僕はユーリックと言います。勝手に入ってすみません。ルベリウスさんが大丈夫だと言うので……」
「あなたにも、ルベリウス様が見えるんですね」
しかも、お話ができるなんて!
驚く私に、白い精霊はかすかに微笑みました。
『アンリエットなら、私たちを受け入れてくれる』
ルベリウス様が、私の名前を知っていました!