法学基礎講義の講義内容を詳細に書いていきます。ブログによる模擬講義のようなものを想定しています。今回は5回目ですね。法学基礎講義のプロモーションになると嬉しいですね。基礎講義は全15回の講義ですので、これで1/3です。

 

 まず、刑事法入門(2)はAです。重要分野の1つです。死刑制度の是非や犯罪がどのようなときに成立するか、刑罰類似の制度としてメーガン法や懲罰的損害賠償について学びます。近年は死刑制度が良く出題されるようになっています。

 

 犯罪の成立要件を説明せよ的な問題が出題されています。この場合には①構成要件該当性②違法性阻却事由③責任阻却事由の順に説明することになります。このすべてを説明する問題もありますが、違法性阻却事由を単体で聞いてくるパターンもあります。違法性阻却事由の中でも、正当防衛(刑法36条)、緊急避難(刑法37条)を単独で説明させる問題もでます。正当行為、正当防衛、緊急避難等について、条文や趣旨や具体例を説明できるようになる必要があります。

 

 また、死刑についてはその制度の賛否について聞かれることが多いです。そのため、死刑賛成論か反対論で立場を決めて論じるといいでしょう。その際に死刑の諸論点を賛成論か反対論で揃えるといいでしょう。諸論点毎に賛否がバラバラであれば整合性がとれなくなるからです。

 

 まず、法哲学的論点というものがあります。法哲学的論点は、国家(法)の名による殺人にといえる死刑は許されるのかという問題です。死刑存置派は、①法の名における殺人は容易には許されないが、極刑をもって臨まざるをえない凶悪犯罪も存在する点、②社会契約説は、国民は国家に生命・自由・財産を守るために権限を委ねているところ、その違反した構成員には死刑をもって臨むべきである点を論拠としている。

これに対し死刑廃止派は、①個人尊厳を最大の価値にする現在の法体系から死刑を認めることは背理である点、②社会契約説からは、人が契約を結ぶ際に生命に関する権利までは預託していない点を論拠としている。

 

 次に、憲法的論点というものがあります。憲法31条は「何人も、法の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他刑罰を科せられない」と規定しています。また、憲法36条は「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」と規定している。これらの規定からすると、憲法は死刑制度を許容していないともとれるため問題となっています。この規定を賛成論と反対論から解釈論を展開します。京アニ裁判の弁護人も36条や動物愛護法を引用して、違憲論を展開して死刑回避を主張していました。

 この点については、判例があります(最大判昭和23年3月12日)。この判決は死刑制度を合憲としている。同判決は、火あぶり、はりつけ、さらし首、釜ゆで等死刑の執行の方法等がその時代の環境において人道上の見地から一般に残虐性を有すると認められる場合には、憲法に違反するが、刑罰としての死刑そのものが、一般に直ちに残虐な刑罰に該当するものとはいえないと判示している。この判例に賛成するか、批判して私見を述べるかもポイントになりますね。講義ではもっと突っ込んで紹介しています。

 

 さらに、刑事政策的論点とは、死刑制度は他の刑罰と比較して重大犯罪の実行をためらわせるほどの犯罪抑止力があるかという論点です。抑止力があるとすれば、死刑を存続する必要性があるということになります。他方、抑止力がないとすれば、余計な刑罰であり消滅させるべき内容となります。

死刑制度存置派は、死刑に抑止効果があると主張しています。存置派は世論調査で、死刑制度を廃止すると凶悪犯罪が増加しますかという質問に国民の多くが賛成していることを論拠にしています。また、海外の論文で抑止効が実証されていることを論拠にしています。

 これに対し死刑廃止派は、死刑に抑止効果はないと主張しています。すなわち、統計的な抑止効果を主張する論文は、分析の過程に問題があり有効なものとはいえないと批判されています。

また、アメリカ合衆国では州によって死刑の制度のない州とある州があるところ、ない州に凶悪犯罪の有意な程の増加がみられない点があります。つまり、死刑に抑止効果があるとすれば、死刑が存置されている州では凶悪犯罪は激減しているはずであるところ、存置州であっても凶悪犯罪は繰り返されている点が、抑止力が疑われている根拠になっています。

この抑止力の論点は、令和5年度の京都大学でも聞かれています。

 

 最後に、適正手続的論点とは、死刑に冤罪があった場合に取り返しがつかないという論点である。誤判の可能性の論点と呼ばれることもあります。冤罪とは、無実であるのに犯罪として取り扱われることをいいます。

 死刑存置派は、死刑に関する冤罪は、①捜査能力が覚束なかった刑事司法黎明期の例外的事案である点(再審無罪事件は戦後すぐの時代のものが多い)②冤罪の危険のみに着目するとすれば、死刑以外の刑事裁判にも同様のことが言えるため、突き詰めると刑罰そのものを否定してしまう点から、死刑の存在を認めています。

 これに対し死刑廃止派は、死刑に関する冤罪は、①捜査能力が低かった時代の例外的な事案だけではない点、②どれほど科学捜査が進展したとしても、神ならぬ人間が捜査や裁判を担当する以上、抽象的な冤罪の可能性を完全に否定することができない点から、死刑を廃止すべきであるとしています。

 

 また、刑罰類似の制度として、いわゆるメーガン法や懲罰的損害賠償の是非についても学びます。メーガン法は司法試験の憲法論文式でも出題されていますね。司法試験に出たことがストレートに編入試験の出題の参考にされるということはありませんが、一流の研究者が注目していると推測することができます。また、懲罰的損害賠償も筑波や神戸大学の編入試験で出題されています。要注意です。

 

 5回目のテキストは13000字程度で、解説は2時間半弱です。これに基礎概念を学ぶQ&Aを数十個付けています。復習の便宜に付けました。おそらくですが、定義等には配点がありますので、これで定着するといいでしょう。

さらに、演習問題を10個程度付けています。この演習問題が、本試験レベルの問題の類題になります。この演習問題が書ければ本試験も恐れることはありません。本試験の問題意識を抽出した問題となります。5回目では、2つの解答例も付けて解説しています。これは基礎講座では初めての試みです。解答例を示して、インプット段階からアウトプット意識を養成してほしいという受講生の声を反映しました。

 

上記のような講義構成を通じて、試験合格の力を養成します。