ガン治療最前線4-ウイルス療法に期待
先月東大の藤堂具紀特別教授の率いる研究チーム
が、ウイルス療法の臨床研究を始めると発表した。ウイ
ルス療法とは、ウイルスをがん細胞にだけ感染させ増殖
させる事でがん細胞を死滅させるという新しいがんの治
療法のことだ。ウイルスは主に細胞を殺傷する能力を持
つヘルペスウイルスやアデノウイルスを使い、正常な細
胞に感染しても増殖したり攻撃しないよう遺伝子に改良
を加えると言う。今回東大が行なう臨床研究では、単純
ヘルペスウイルス1型を使い、致死率の高い悪性脳腫
瘍の患者(膠芽腫)を対象に治療を行い、効果的な用量
や安全性について調べるようだ。
ウイルス療法の課題は、いかにがん細胞だけを死
滅させ、正常細胞を傷つけないウイルスを遺伝子操作
によって開発するかという事にある。その治療効果と安
全性が現時点においてどれほどのものかはわからない
が、理論上の話をするとウイルス療法はいくつかの点で
かなり優れた治療法であると考えられる。例えば、脳に
できた腫瘍を手術によって取り除く場合、周りにある神
経を傷つける危険性があり、後遺症なども心配される。
場所が場所であるだけに放射線治療も難しいだろう。し
かし、ウイルス療法なら正常な細胞は傷つけずにがん
細胞だけを死滅させるため、後遺症などの心配をしなく
て済む。それに脳腫瘍だけでなく他のがんに対しても有
効であるとされていて、今後の進展が期待されている。
それから放射線治療や抗がん剤による化学療法を使う
と正常な細胞を傷つけるため副作用が酷くなるが、ウイ
ルス両方なら副作用もかなり抑えられかもしれない。
ただウイルスと聞くと、私などは少し心配になってし
まう。ウイルス療法では遺伝子を操作したウイルスを使
う訳だが、このウイルスが突然変異を起こして人間に対
して猛威を振るうような恐ろしいウイルスに変化したりす
ることはないのだろうか。また、ガン細胞を死滅させる能
力があるのだから、投与中に突然変異を起こして正常
細胞でも増殖できるようになれば、人の命に関わるもの
になるのではないかなどと想像を巡らしてしまうのだが、
たぶんそこまでの変異は簡単には起こらないのだろうと
思う。起こったとしてもこのウイルスを撃退する薬を開発
しておけば大丈夫だろう。ウイルスの変異と言えば、抗
生物質に耐性を持つウイルスの発生が問題になってい
るが、これは抗生物質を多投し、ウイルスを殺そうとして
逆に進化の過程を早めているために起こる。特別ウイル
スを死滅させる必要のない(ガン細胞がなくなれば自然
と死んでいく)ウイルス療法においてはそういった変異は
起こりにくいだろう。何にしてもこの治療の研究が進展し、
多くのがん患者を救うものになる事を願うばかりだ。