「めえ二号! 最初に生まれためえの方が偉いから子分にしてあげる」
「調子に乗るなよ、妖魔。俺はいつだって狩れるんだからな」
「わー! 剣を出しちゃダメ! アブナイ!」
 はしゃぐめえに苛立つ美が出した短剣を止めるナナミ。
 てんやわんやの中、美はめえのペースに巻き込まれていた。
「いいか、俺はめえじゃない、メイ。メ・イ。わかったな?」
「めえ……」
「……。もういい。俺は修行に行ってくる」
「修行?」
「〝気〟を操る修行」
 めえは美と対戦した時に、美が炎を出したことを思い出した。
「面白そう! めえもやる! 教えて! 教えて!」
 楽しそうなことに興奮しためえはぴょこんと狐耳とシッポを生やした。


「べー。誰が妖魔に教えるか」
「むきー! この子、恩を仇で返す気だよ、ナナミちゃん!」
「そ、そうね……」
 めえはナナミに助けを求めたが、ナナミは少し呆れた顔をしていた。
「めえも炎出したいいいいい」
 めえは再び床でジタバタ暴れ始めた。
「……これが本当にあの時相手した妖魔なのか……」
 幼稚すぎるめえの数々の行動に、美は頭が痛くなった。
「それじゃあ、俺は行ってくる」
「あ、待って。めえも付いて行く」
 めえを振り切って、そそくさと美が庭から外に出ようとする。


 その時、庭の向こうに白い人影が現れた。
 長い白髪を持つその女性は、ふらふらとこちらに近付いてくる。
 その女性は奇妙な格好をしていた。
 体中を草で編んだ野生児のような服を着ている。
 その場にいた全員が、その女性に釘付けになった。
 ポカンとミステリアスな女性の出現に口を噤んだ一同は、次の瞬間、女性が倒れるまで魅入られていた。
「あっ……」
 女性は足元から崩れ落ち、その場に倒れた。


「めえちゃん、あの人、倒れたよ」
「うん……どうしたんだろう? 行ってみようか、ナナミちゃん」
「……」
 めえとナナミが外に出ると、美も気になったようで、無言で付いて来た。
「あのー、大丈夫ですか?」
 めえが女性の肩を揺らす。
 しかし、全く意識がない。
 女性は眠ってしまっているようだった。
「……。うーん、とりあえず、めえの家に運ぼうかな」
「うん。そうだね……」
「……」
 めえとナナミは女性の肩を借りて、女性をズズズと引きず出した。
「二号も手伝ってよ。めえとナナミちゃん、身長低いから引きずっちゃう。足持って、足」
「二号じゃない! わかったよ」
 何だかんだ文句を言いつつも、美は良心的な人のようだった。
 そして、この謎の女性は程なくして、美同様、めえの家で暮らし始めることになる……



 動き出した物語はまだ多くの謎を秘めている。
 ビーストトラスの裏と表。
 次元はさらに拡大していく――