――霊獣
 人はヒト以外のすべての動物を自分達よりも劣る生物と定義する。
 しかし、霊獣は霊長の中でも獣を超える能力を獲得した異端。
 その能力はヒトで言う超能力者に等しい。
 故に、霊獣は様々な呼び名で恐れられ、崇められた。
 天駆けるその姿から天獣と、神々しきその姿から神獣と、ヒトを救う行為から聖獣と、ヒトを殺す行為から魔獣と……
 


「お主たちはもう飛べるはずじゃ。霊獣の人格に聞いてみよ」
「さっきから煩いぞ、鼻長ジジイ。妾はお前より数千年長いぞ」
 狐天の人格となった日和がコクヨウに向かって恐ろしい口をきく。
「威勢のいい若者は良い事じゃ」
 しかし、コクヨウが怒ることはなかった。
 ちょっとホッとした。
「どれ、飛んでみるか」
 日和がそう言って大きく口を開ける。
 すると、空中を漂う気塊が物凄い勢いで日和に吸い込まれていく。
「くうぅぅぅぅ……はんっ、それじゃ行くぞ!」
 日和の背中が青白く光り始める。
 すると、音もなくふわっと日和の体が浮き始めた。
 飛んでる! 本当に飛んでいる。


「どれ、儂も飛んでみるとするか」
 僕がしゃべった。
 いや、話したのはもう一人の僕の人格である狸天だ。
 僕も口を開き、空中を漂う気を掻き集める。
 体内に気を充填し、それを背中から突き出た羽紋に送る。
 最早科学的な現象では説明できないような現象が起こり、僕の体が浮き始める。
 思わず叫びそうになったが、僕の体を動かしている狸天は意気揚々としているのがわかった。
「こうして外に出てくるのも、羽を広げるのも久々じゃわい」
 日和は建物の天井近くまで飛翔していた。
 僕もより高みへと飛び上がる。
 姿の変わったやおよろずのメンバーも続いて飛び始めた。


「……ふむ。ここまでできるようになればよかろう。お主ら、あまり高く飛ぶと気力を失った時に痛い目みるぞ!」
 コクヨウが僕らに向かって大きな声を上げる。
 どういう意味なのだろうか……?
 と思っていた矢先、急に力が抜けてゆく感じがした。
「お? あ? あれ? う、うわああああぁぁぁぁぁぁー!
 体が縮まってゆく。変身時は苦しかったのに、元に戻る?時はあっさりと。
 脱力感とともに同時に浮力が失われ――――
 僕は天井近くから真っ逆さま。
「うわあああああああああああ!」
 いくら獣化した状態であるとはいえ、3mくらいある高さから落下すると無事では済まない。
「ほら、言わんこっちゃない……水萌!」
「ハイッ!」
 コクヨウの後ろから図ったようにカッパの女の子が現れた。


 両手を落下する僕の方に向ける。
「はぁ――――っ」
 カッパの女の子が気合の入った声を出すと、落下する僕のスピードが徐々に軽減され……最後は立った状態でスっと地面に着くことができた。
「はぁ……はぁ……びっくりした。ありがとう。それが君の――」
「水萌! 次!」
 僕がカッパの女の子に話しかけていると、コクヨウが叫んだ。
「ハ、ハイ!」
 やおよろずのメンバーが何かのゲームのように天井近くから叫び声と共に次々と落ちてくる。
「お、おう……」
 カッパの女の子こと水萌は局所的に大活躍することになった。