夏休みも終わりが近付いた本日、コノハの住む狸居地区で毎年恒例の夏祭りが開かれる。夏休みの初めに行った狐塚地区の祭りと比べたら比較ならないほど小規模な祭りで、中学生になったあたりから地元の祭りとしては行かなくなっていたが、狸居神社がめえの親戚にあたるというので、少し気になっていた。しかし、めえの家でコタローという狸居神社に仕える男の子が裸でめえと××している光景を見てしまってなかなか恥ずかしくて狸居神社には近寄れないでいた。
 ところが、そんな矢先、どこから情報を仕入れてきたのか、いつものように、カリンが狸居の祭りに行くのでコノハも行こうと誘いのメールが来た。すでにテンリも誘っているようだった。しかし、めえは誘っても用事があって、断られたという。
「めえ情報によると、狸居神社にはタヌキに変身する男の子がいるって話やでー! ワクワク、ワクワク」
 夕暮れが近付き、小規模な祭り会場が賑やかになってきた頃、コノハの家に遊びに来たカリンが興奮して言った。お母さんは久しぶりに遊びに来たカリンを見て大きくなったわねーと非常に喜んでいた。
 実は自分が変身体質になってしまったことは、まだ家族には打ち明けていない。カリンがうっかり口を滑らさないものか若干ヒヤヒヤしていたが、何とか無事、家の中から外へ出ることができた。
「へぇ~、これがコノハの住む家かぁー、ふむふむ」
 テンリが品定めをするようにコノハの家を見て言った。テンリがどういう評価をしているのかは気になるところであるが、ここは聞かないでおこうと思った。

 三人は祭りの主催場所である狸居神社にやって来た。小規模ながらも屋台が並び、地元の人々が楽しそうにワイワイガヤガヤしている。地元の知り合いが多い仲に高校の友達を連れてくるのは何だか少し恥ずかしい。カリンは途中で引っ越したので、時々、地元の面子と懐かしい再会をしていた。一応、その程度の人付き合いはカリンにもあるのだ。
「タヌキに変身するとこ見てみたい見てみたい見てみたい」
 カリンがTF要素に我慢できないようで、ブルブル震えている。このままでは自ら獣化を始めそうな勢いだ。今日は特にTFする要素もなく、平和に時間が過ぎていたので、このまま無事に終わらせたいとコノハは願う。
「カリン、こんな大勢人がいる中で、TFするわけないやろー、諦め!」
「えー、せっかく来たのに、TF見な帰られへん!!」
 カリンは飢えた獣のように目をギラギラ光らせている。これはいろんな意味で危険な予兆だ。
 自ら適当な動物に変身してあげてもいいが、やはり人が多いので無理だ。テンリも夏なのに人に触れない様に肌の露出が少ない服を着ている。
 カリンの穿いているスカートは例のごとく、不自然にお尻の部分が少し破れているので、獣化しないように注意を払いつつ、コノハは地元の少し懐かしい雰囲気を味わった。
 三人で屋台の食べ物を食べているその時、聞き覚えのある音がした。

ぴょー ぴょー びょぉおおおおおおぉぉぉぉー

 この音は、都会で密かに流行っていると言うウサピヨの鳴き声である。カリンがピクンと反応し、音のした方を向くと……めえの妹のけえがいた。
「おぉ! めえの妹やんか!」
「! あー! うさぴよのおねえちゃんー!!」
 けえがウサピヨを鳴らしながら笑顔でカリンに近付いてきた。けえがここにいるということは……
「あー! コノハだぁ!」
 やはり、めえの声がした。
 一同がめえの方を振り向くと、めえはわらわらとたくさんの人達と一緒に行動していた。
「ごめんねぇー、先にこっちの予約が入っていたから。コノハ達も来ていたんだねー」
 めえは巫女服でない、夏らしい浴衣を着ていた。
「あ、一緒にいる子、紹介しようか? 鹿目ナナミちゃん……は知っているよね。犬森ハジメもこの前会ったか……ふにゅ~、あ、こっちは猫柳ミャンちゃん、で、こっちは熊野サキちゃん、あっちは馬場ヒロミちゃん、こっちは猪岡ソウちゃん……」
 みんなめえの親戚らしく、ドンドン紹介されるが、とりあえず、もう誰が誰がわからなくなってしまった。
「祭りの後でコタローの家で、親類の会議があってねー、みんな集まっているのー!」
 めえは最後にそう言って、親戚の紹介を終えた。めえやナナミやハジメのように、みんな何かしら動物に変身するのであろうか。コノハはふと疑問に思った。
「コノハちゃん、お久しぶり~」
 ナナミがまったりとした口調で微笑みながら手を振った。
「おぅ、この前はどうも」
 男の子がコノハ達に向かってぶっきらぼうに挨拶した。初めはピンと来なかったが、海であったイヌの人らしい。


 ――やはり、蝙蝠岳家のケンは行方不明のままか。
 ――捜索隊は出しているようだが、見付からないらしい。


 聞き間違いかもしれないが、めえの紹介した親戚の人達がそんなヒソヒソ話をしている風に聞こえた。
「それじゃあ、また今度ね~。けえ、行くよ!」
 めえはそう言って、今日は珍しくあっさりと別れようとした。けえはめえに声を掛けられて、すぐにテテテーとめえの方に走って行った。
 ゾロゾロとめえの親類は狸居神社の奥へと入って行く。
「これは……大量TFの予感やで……ゴクリ」
 カリンがギラギラと目を光らせてめえの親類が歩いて行った方を見詰める。
「あかんで! 人の家の大事な集まりにちょっかい出したら! さぁ、行くで!」
「えー! だって、今日、TF一回も見てへんやんかー!!」
 カリンが子供のようにごねり出す。どうしたものか……
 テンリも気になるのか、めえの親類が歩いて行った方をずっと見詰めていた。