「んふふ♪ んふふ♪」
退院したカリンは意気揚々と部室の扉を開けた。
「!? カ、カリン!?」
部室でいつものようにまったりと過ごしていたところ、いきなり扉が開け放たれ、中にいたテンリとコノハ
は驚いた。
「あ、いた! わーん! コノハぁー!」
カリンは早速コノハを見付けて抱き付こうとする。
しかし、コノハは危険を察知してすぐにカリンの抱擁を回避した。
「ぎゃあぁぁ!」
カリンはコノハを抱き損ね、部室の壁に顔面を衝突させた。
「いきなりいなくなったと思ったら、いきなり戻って来て……相変わらず騒がしい……」
テンリはカリンに刺々しい言葉を放った。
しかし、それはテンリなりに、変わらないカリンを見て言った言葉だった。
カリンに連絡が取れなくなってから、かれこれ一ヶ月が過ぎていた。
「イテテ……いや~、いろいろあってなぁ、外部と連絡禁止やってん」
カリンは鼻を抑えて言った。
「でもほら……」
カリンはそう言って、パンツを下げた。
「犬はもう体出て行ったから♪」
「ちょっ、カリン!?」
カリンの下半身は女の子のそれだった。
犬は救出されたのか、吸収されたのか、コノハ達にはわからない。
しかし、雄犬と融合したカリンは元に戻ったようだった。
「そ、そっか……わかったからパンツ穿き……」
カリンがすっかり露出癖になってきているような気がする。
幸いにも、部室にはコノハとテンリ以外は誰もいなかった。
「一体、一ヶ月も何されてたん? 何度か抗癌獣化剤もらいに行ったけど、店長もずっと不在だったし」
コノハがカリンに聞く。
「んー……いろいろ話したいけど、他言厳禁やからなぁ」
カリンはどうしようか迷っている感じだった。
「えー、あたしらにも言えへんの?」
「うーん……企業秘密をいろいろ知ってしまったというか」
「企業秘密……」
カリンは何を知ったのだろうか?
「どもー……あ、星谷先輩、お久しぶりですー、今まで何していたんですか?」
三人で話しているところに、龍王寺がやって来た。
これはマズイ……。
「あ、龍王寺……」
獣化クラスタのカリンと否定派の龍王寺は相性が悪い。
「最近見なかったですけど、今まで何していたんですか? 仮にもここの部長ですよね?」
龍王寺がカリンを責めるように言う。
「にゅ、入院してたんや」
「何の病気ですか? 何で前もって部員に言っておかないんですか?」
「くっ……」
明らかにカリンの劣勢。
気まずい雰囲気が流れる。
「お、カリンちゃん、久々~!」
「あ、ホントだ」
「おー、いつ以来だ?」
留年生組のミャン、ヒロミ、はじめも講義が終わったのか、部室にやって来た。
「……」
留年生組が騒がしくカリンに話しかけるので、話は有耶無耶になったが、龍王寺はまだ何か物言いたそうだった。
白髪の女性は記憶喪失ということもあり、しばらく狐塚家に居候することになった。
美、ナナミと続き、めえの家がだんだん賑やかになっていく。
白髪の女性は記憶が失われているものの、日常生活程度は問題無いようだった。
羽紋を持っているということで、ねえを通じて、尾天結会に調べてもらったが、一切不明。
まさに謎の人物ということだった。
名前が無いと呼びにくいとのことで、その美しい白髪からシロとめえが命名した。
めえ以外はペットみたいな名前で失礼だと反対したが、白髪の女性は気に入ってくれたようで、結局、名前はシロになった。
シロが狐塚の家に居候して二週間が過ぎた。
「それじゃあ、修行に行って来る」
「待って。めえも行く」
「えー……」
「二号! これは亭主の命令なり」
めえは偉そうに美に言い放った。
美はめえが付いて来ることに嫌そうな顔をした。
「私も付いて行きたいところだけど、大学行かないといけないし……」
ナナミは美とめえを二人きりにするのはよろしくないと感じて困った。
二人とも何かあったら暴走する癖がある。
「あの、私もいいですか?」
めえと美が静かな戦いとしていると、シロも付いて行きたいと言って来た。
「……。まあ、めえと二人だけよりも、他に人がいるならいいか」
「なにそれ!」
美はシロが来るなら修行に付いて来ることを良しとした。
「シロさん、めえちゃんは暴れることがあるので、よろしくお願いします」
「わかりました」
「ハッ! ナナミちゃん!?」
シロがにっこり笑う。
一方で、めえはショックを受けたようだった。
「それじゃあ、私は学校に行って来るね」
ナナミはそう言って、一人大学に向かった。
「くぅ……めえは……めえは」
めえはナナミもそんなことを思っていたのかとショックを受けていた。
「オラ、さっさと行くぞ」
「わ、わかってるもん!」
美は先に歩き出し、俯いているめえを煽った。
「うふふ。どんなことをするんですかね?」
シロがにこにことめえに話し掛けると、めえは何だか心が和んだ。
三人がやって来たのは、山の中部で、木が生えていない草原のような場所だった。
「めえ、ここ知ってる! 小さい頃、よく花を摘んで遊んでた!」
この山の所持者でもあるめえは、さすがこの山のことを知っていた。
「ここは〝気〟が集まりやすくて良いところだ」
「〝気〟?」
美の言葉に、めえは首を傾げる。
「……。今まで何度も言って来ただろ? 忘れたのか?」
「めえ、わかんなーい」
「私もわかりません。何の話ですか?」
めえの言葉にイラッとした美だったが、シロもわからないということで、少し説明する気になった。
「〝気〟は大気中に漂っているエネルギーのようなものだ。これを体に取り入れることで、身体能力を上昇さ
せたり、能力を使うことができるようになる。例えば、火だ」
美はそう言って、大きく深呼吸をし、言葉を放った。
「〝燃えろ〟」
美が真剣な眼差しでそう言うと、美の見ている方向に突如火が出現し、すぐに消失した。
「おおおおお!」
めえは目をキラキラ輝かせた。
「すごい!」
シロはポンと手を叩き、驚いた様子だった。
「ねぇねぇ! それどうやるの? 教えて教えて!」
めえははしゃいで美に聞く。
「基礎ができれば誰でもできるようにはなるけど、基礎をモノにするまでが難しい。オレもまだ未熟だ」
美は真剣な顔付きで言ったが、めえはうんうんと頷くだけで理解しているようには思えなかった。
美は溜め息を吐いた。
「面白そう。私も教えてもらっていいですか?」
シロも興味あるようだった。
「それじゃあ、まずは〝気〟の取り込み方を教えるから」
美は二人に〝気〟を使うノウハウを教えることにした。
「カリン、この一カ月、何してたんや?」
「ノ―、教えられへん!」
カリンは両手でバッテンを作って、テンリの質問攻めに抗議した。
「でも犬と分離できたのは良かったね」
「うんー、分離できたというか、体に飼っているというか……」
「「!?」」
カリンのポロっと零した言葉に、コノハとテンリは固まった。
「え? 今、何て?」
「え? うち、何か変なこと言ったっけ?」
「体に飼ってるって……」
「あっ……」
カリンが融合していたかつての動物達はすべて離したはずだった。
しかし、今のカリンの発言からすると、再びカリンは動物と体を共有していることになる。
「~♪」
カリンは口笛を吹いて誤魔化した。
「いや、バレバレやし……カリン、また変身体質に戻ったんか?」
テンリがそう言って、カリンのほっぺたをつねる。
「いぎぎ……そう……みたいや……」
「まじか……」
テンリが暗い表情になる。
カリンの体質が戻ったということは、テンリの獣化させる体質も戻るかもしれない。
「いや、それが前とは少し違う体質になってな」
カリンはそう言うと、顔が急に毛深くなり始めた。
「ちょっと、こんな街中でTFしたらヤバいやん! 建物の陰に」
コノハは焦って、カリンと引き連れて人気の無いところに移動した。
「もう、ほんまにビックリするわ。TFは秘密主義やなかったん?」
「あー、確かに。忘れてたわ。あはは。それより見てや、うちの顔、何に見える?」
カリンは期待の眼差しで二人を見る。
「ライ……オン?」
「うん、ライオンやね……あっ」
ここでコノハは気付いた。
カリンが融合している動物の姿に獣化できることは知っているので、あまり驚きは無い。
しかし、これまではすべて♀の動物に限られていた。
ところが今はどうだろう。
立派なこのタテガミのライオンはどう見ても♂の姿である。
「雄のライオン……」
「せいかーい!」
カリンが最近融合したのも雄犬だった。ということは……
「うち、雄の動物とも融合できるようになってん。店長曰く、これはすごいことで、今まで動物変身薬はメス
はメス、オスはオスしか変身でけへんかってんけど、うちの体質を調べることで、性転換出来る可能性が広が
るってことらしい。で、いろいろ検査されててん」
なるほど、それで一ヶ月も拘束されていたのか。
コノハは理由を理解した。
「この変身体質の変化は、うちらが太歳に触ったことが原因の可能性があるらしくて、コノハやテンリも体質
が変わった可能性があるみたいやで」
「う、嘘や!」
テンリが眉根を顰めた。
カリンの顔が人の顔に戻る。
「カリンがオスの動物と融合できるようになったってことは、私らもオスの動物に変身できたり、変身させた
りするんかなぁ」
コノハが言った。
「うーん、その辺はうちはわからへんけど」
「それよりカリン、コノハは抗癌獣化剤打ってるけど、カリンは変身体質が戻っても大丈夫なん?」
テンリが聞いた。
「うん。細胞が癌化する感じはないみたいやよ。その辺のことも徹底的に調べてもろたわ」
「いいなぁー、私、あんまり好きじゃないんだよね、あの薬……」
コノハはカリンを羨んだ。
「もうちょっとの我慢やて。コノハの薬もどんどん改良されているみたいやし」
「そっかぁ」
そういえば、三人で下校するのも久々なような気がした。
「あっ、すいません」
「いえいえ」
人が多くなってくると、他人との接触する事故も多くなる。
テンリが道行く人から首元に手を当てられていた。
「ん……何か首がムズムズするような……」
テンリが言った。
「え? ……えぇっ!?」
「ど、どないしたん、コノハ?」
「だ、だって、テンリの首元に……獣毛が……」
「えっ!? う、嘘や……まさか……で、でも、この感じは変身熱に似てる……」
首を中心として、テンリの体が突然獣化し始めた。
「このままじゃマズイ。人気のないところに行かな」
「そ、そうやね」
「ほほーう、テンリがTFとな」
「こら、カリン、変な目で見ない。アンタも来なさい」
「もち、付いて行くで~!」
三人は急いで人気の無い方に走って行った。