昔むかしのことなのか
今この時のことなのか
ずっと先のことなのか


そこには"理想郷"がありました


誰もが
ずっと幸福な

"理想郷"


人々は励ましあい笑いあいとても幸福な時を過ごしていました

その幸福は自分たちが作り上げたものだという誇りがあり
その社会制度にはなんら問題もないため
それは終わることがないのです



食い違いすれ違い好みの違いから互いを傷つけたとしても、修正が可能な程度のもの

"なにか"は必ず起こるため、幸せを退屈と感じることはない



そんな、誰もが夢みる理想郷






そんな世界に、一人の少年とも少女ともよべる存在が生まれました


彼、もしくは彼女は悲しみました


この世界が平和で、平穏で、誰もが夢みる理想郷なのは

"人間"とは認められぬ"存在"が

逃れようのない苦しみを、痛みを

たった一人で背負ってくれている
おかげだと知ったからです




少年の少女の悲しみに気が付いた、先に生まれた者たちは言いました

「大丈夫、アレは痛みを感じることも
苦しみを覚えることもないのだから
君はそんなの気にしないで、幸せになればいい」

「感情も感覚も無い存在の痛みを想像してどうするんだい?」

「可哀相だというなら、ソイツの代わりに僕らが幸せにならなきゃダメだろう?」

「ほら、遊ぼう?
楽しいことはいっぱいあるんだ」


「痛みを感じ取ってしまうのか…優しい、のか…なんなのか。つらいね

ああ、だからなのかい?僕は君の笑った顔を一度も見たことがない
つらいのはわかるけど…笑ってはくれないのかな?」


みんなみんな優しい人たちです
嘲笑ったりしません
優しい少年を少女を悲しそうな笑顔で見つめます



「なんで…誰もあの子を救わないの?」

優しい少年は少女は
笑うことができません



「あの存在は救って欲しいなんて言わないし、思わないからだよ」


「どうしてわかるの?」

人の気持ちは推測できても、"わかる"なんて有り得ないと知っているでしょう?

少年は少女は問います



「うん、ホントはね誰にもわからない…
だけどね誰も、自分の幸せを壊したくないんだよ」

正直なある人が答えました






少年は少女は助けたいと叫びます

だけどそれは無理なのです


ここが"誰もが夢みる理想郷"であるかぎり



そうして一つの矛盾が生まれました



"誰もが夢みる理想郷"は"誰もが幸せ"でなければならないのに…
少年であり少女である存在は幸せではない




ぴしりぴしりと世界が綻び始めました



「どうして笑わないんだよ!」

"幸せ"が壊れてしまうことの恐怖で
ある人は少年であり少女である存在に詰め寄りました


誰もその人を止めません



ぴしりぴしりと亀裂が深くなりました


「そんなに可哀相だって言うんなら、ソイツと代わればいいだろう!」


その言葉に
少年であり少女である存在は

初めて、わらいました


そして
得られた答えを実行する為に、幸せそうに駆けていきました




亀裂が塞がっていきます


"みんなが幸せ"になったからです






幾日たったのでしょう?


またもや"理想郷"にヒビが入り始めました


少年であり少女である存在を産んだ母親も
そのパートナーも
周りの者も悲しくなって、幸せじゃあなくなってしまったからです






ぴしりぴしりぴしり

"理想郷"は崩れていきます









ああ、なんて…脆いユメ

まるで就寝時に会ったあのヒトのよう




永久に続く幸せなんてないんだから

クダラナイユメは見るべきじゃないわ