空気の流れ
父さんの許可を得て現場に入ることができた俺達二人は早速現場に案内してもらった。現場を見たとき、二人ともぶっ飛ぶほどの衝撃を受けていた。事件があった現場はなんと、トイレだったのだ。この場所で死体が発見されたという事実はまだ信じられないでいたが、とりあえず死体の見つかった状況を聞いてみた。すると・・・
「今回の事件は実に奇妙なんだ。なぜかって?まあ慌てずに、事件の経緯を説明しようか。まず被害者は間謙次郎。接着剤のメーカーの開発部に勤めてる。被害者は夜にいつも飲んでいるという睡眠薬を飲んで9時ごろにトイレに入った。それで少しトイレの中で暴れたらしいんだ。」
「暴れた?」
「最後まで聞け。それで急に静かになったんだ。不審に思った妻が警察に通報して、警察がトイレを開けたところもう被害者は冷たくなってたってとこだ。どうだ?こんだけでなんかわかるか?」
父さんは皮肉っぽく言った。またいきなり話を振る。おれは少し考えたが、
「今は何も言えないかな。まだ現場をはっきりと調査した訳じゃないしね。間さんは何で死んだの?縄?そして現場に残っていた遺留品は?」
とりあえず、状況判断として、最低の条件を聞いてみた。父さんは、
「ロープで首をつっていた。壁には引っ掻いたような傷、そして自殺ことを決定づける証拠が遺体には残ってた」
「何が残ってたんですか?」
「首をつっていたものをほどこうと強くロープを握っていたおかげで首にそのあざが確認できた。自殺の場合こうはならん。」
「・・・なるほど。ほかには?」
「天井にも少し傷がついてるって感じかな~」
「ほんとに自殺の線はないの?」
「なくはない。自殺しようとしたものの苦しくてもがいた、とかな」
「じゃあまだ自殺か、他殺ってわからないわけ?」
「ん・・・。まぁな。実は遺書も見つかってるからな。文面はパソコンで書かれたものだったが、その遺書にサインが書かれていたんでな。警察としては自殺の線で捜査してる」
「そんな捜査機密俺らにばらして平気なの?」
「ははっ。大丈夫だよ。もうすでにここまでの情報は記者会見で発表されてるしな」
「山登君のお父さん、でしたよね?」
「ん、ああそうだ。山登警部と呼んでくれ」
「じゃあ警部。あなたとしては他殺だと思いなんですね?」
父さんの口からほぅ、という声が出たのを俺は聞き逃さなかった。
「よくわかったな」
「いえ・・・。ただ警部が警察としての考えは自殺なのに、最初に他殺の線を匂わせたので何となくピンときたって感じです」
「私たちに手伝わせてくれませんか?」
「清水さん?さすがにそれは・・・・」
「いいよ」
「えっ!?」
「上には俺から言っとくから。なんか見たいもんあるか?」
この軽さ何かあるとは思ったが、今は好奇心におれは勝てなかった。
「じゃあ、父さん間さんが首をつったロープをもっと詳しく見せてくれない?」
「分かった!少し待っていてくれ。すぐに持ってこさせる。」「おーい!誰かー!あのロープを持ってきてくれ!!!」
流石おれのとうさんだ。切り替えが早い。しばらくして、一人の男の人がロープを持ってやって来た。その男の人は驚いたようにおれ達二人を見た後に、怒ったように父さんに言った。
「警部!誰ですかこの子供達!勝手に現場に子供を入れるのは止めてください!」
すると父さんはさらりと、
「何か悪いことでもあったか?おれはさっき二人を現場に入れるといったはずだぞ。」
すると、父さんの部下らしき人は驚いたように、
「確かに素人の意見を取り入れることには僕は賛成ですけど、さすがに子供は・・・・」
そういうことか。おれはひそかに納得していた。
「俺は子供の柔軟な思考のほうが頭の固まった大人よりもいいと俺は思うんだけどな?」
するとその部下の人は妙に納得したように
「なるほど!さすがです!」
と言ってロープをすんなり渡してくれた。
「いいの?」
「いいんだよ!だから言ってるだろ?ほらよ!これがロープだ」
死んだ被害者の間謙二郎さんが首をつっていたロープだ。この短い人生、殺人の道具を生で観たのはこれが初めてだ。不思議な緊張感が体に走るのが分かった。清水さんを見ても、表情が硬かった。よくみようとおれがロープに手を伸ばした。すると、横から手が伸びておれの手を掴んだ。びっくりして掴んだ腕の先を見ると、それは父さんの腕だった。
「父さん!!なんでロープに触らしてくれねぇんだよ!」
おれは憤慨したが、父さんは気にせず静かに言った。
「お前は証拠品に素手で触っていいと思ってるのか?」
こんなに静かに、しかも威厳を持っていわれると怒鳴られるより怖い。おれはたじろいだ
「ご、ごめん・・・」
父さんが怖すぎて腰が抜けてしまいそうだったが、今はそんなことを言ってる場合じゃない。とりあえずおれ達は、父さんから手袋を借りて今度こそロープを調べるべく、ロープを持ち上げた。清水さんと協力して、ロープを隅々まで調べてみた。特に変わったところは無かったので、おれ達は父さんに質問しながら調べることにした。一問一問交代で質問することにも決めた。1人だと、疑問に偏りが出来るかも知れないからだ。まずはおれから質問した。
「このロープは何でできてるの?」
「それは、アフリカ,メキシコ,台湾などの熱帯産の竜舌蘭(りゅうぜつらん)の葉の繊維が原料だ。」
「成程。じゃあ次は私が・・・ロープの何センチぐらいのところで被害者は首をつっていたんですか?」
「えーっと、それは丁度ロープの真ん中あたりだよ。」
「じゃあこのロープは何cm?」
「1m50cmだ。」
ここまでの質問の答えを自分の手帳に書き込んだ。すると、清水さんが急に声を上げた。おれ達はびっくりして、清水さんの方に振り向いた。
「どうした!?」
すると清水さんはロープをおれ達2人に見せながら言った。
「ここを見て。何か光にかざすとすこしてかるの。ほら!」
おれ達は言われたとおりにロープを光にかざしてみた。すると・・・確かにロープのその部分がてかった。
「これは一体・・・?」
一番最初に沈黙を破ったのは父さんだった。おれも同感だった。少し時間がたってまた、
「これは一体・・・?」
同じことをおれが言った。みんなはまた、黙り込んだ。1分か2分時が過ぎた。しかしそれはおれ達にとってはとても長く感じられた。おれ達はまだ考えていたが、父さんは我にかえったようだった。プルプルっと首を振ると、いきなり大声で叫んだ。
「おーい!!鑑識!このロープを調べてくれ!」
唐突に叫んだので、おれ達は飛び上がるほど驚いたが、おれ達も首を振って我にかえった。父さんの切り替えの早さには今回も驚かされた。すると少しして、2人の人が慌てた様子で駆けてきた。
「呼びましたか?」
「お前ら!このロープのこの部分についてるものを解析してくれないか?その結果は誰にも見せずに、すぐにおれに持って来い!!」
「・・・分かりました。」
そう言うと、2人の鑑識員は帰っていった。おれは小声で清水さんに話しかけた。