- 笹本 稜平
- 太平洋の薔薇〈下〉
- 笹本 稜平
- 太平洋の薔薇〈上〉
作家の才能には二つあると思う。
魅力的なキャラクターを作り出す才能、
凝った構成を作り出す才能。
この人は後者である。
憧れのハリウッド大作アクション映画、
日本人が主人公だったら。
それをそのまま日本人が小説にしてみた、と云えばこの作品の全てではないだろうか。
最悪の生物兵器によるテロを巡る海洋冒険小説であり、
日、米、露三国を股に掛けたワールドワイドなストーリーである。
数多くの登場人物、
複雑に入り組んだプロット、
嵐にうねる魔物のような海上での攻防。
広がる話をきれいに纏め、そのうえ最後は感動的である。
だけれど、わたしの嫌いな種類の小説だ。
何故なら、こういうものが売れるのであろう、という物語作法に則り、
ストーリーの外枠はきっちりと作ってあるものの
中味が典型的だからだ。
これは人の趣味によると思う。
わたしは独創性や、作家の思想や感情に重きを置くから、
構成自体がメインになってくるものが好きじゃない。
だから、この本自体は賞も受賞しているし、”このミス”にも選出されているけれど
正直に面白くなかったという。
肝心のキャラクターでは
海の男、本当にカッコいい男とはこういうものだ!
という観点で主人公を描きたかったのだろうが、
話があまりにあちこちに移動しすぎて主人公の描写が物足りなく、
結果として描きたかったイメージは(サブキャラクターからの賛辞のセリフで)伝わるが、
小説的に自然には浮かび上がってこない。
主人公を巡る各国のサブキャラクターもハリウッド映画に出てくる誇張されたアメリカ人、汚職されたロシア人、そのもの。
人間として生きていない。
テロリストの背景の民族問題も、唐突に描かれた雰囲気で
その苦悩が苦悩として伝わってこない。
メインの海洋上での攻防はスリリングでよく描けていると思う。
しかし、肝心のラストはご都合主義的で
物語にはまりきれずふっと現実に戻ってきてしまう。
ラストのラストで主人公に最大の賛辞を送るのもアメリカ大統領とはどういうわけか。
アメリカに褒められる事に意味があるのか。
日本政府は何処へ行ったのか。
この点も、前記の”憧れのハリウッド映画云々”の所以である。
わたしはそう思うけど、
面白いひとにはすっごく面白いみたいだ。
海洋冒険物がすきなひとにはいいんじゃないだろうか。