- 山田 風太郎
- 魔界転生〈上〉
- 山田 風太郎
- 魔界転生〈下〉
もともとの題は『忍法魔界転生」です。
うええ!?忍法??
二度の映画化にも関わらず見ていなかったため大変びびった。
風太郎忍法は転生までできるのです。
おちゃのこさいさい。
この世に激しい執着を持った、心技体揃ったもののみができる”魔界転生”。
それによって蘇った名だたる剣豪と柳生十兵衛の死闘。
これがこの話のメイン。
武蔵を筆頭に、夢のようなラインナップ。
…なのだろうけど、剣豪に知識のないわたしには武蔵しかわからんかった。
まあ、いずれも歴史に名を残す剣豪だとさえ分かっていればオッケーです。
主軸は剣豪対決におきながら、構成は相変わらず巧み。
島原の乱で幕府に壊滅させられた残党が、
その恨みを晴らさんが為、忍法魔界転生を用いて最強最悪の魔人軍団を作り出し、
密かに将軍家を狙う大名に言葉巧みに取り入り、天下を目指す。
柳生十兵衛は、その魔人軍団の一員として見込まれるのだが、
これがなかなか思うようにスカウトできない。
のみならず、極秘の国家転覆計画を知ってしまい、はむかってくる。
この全体図の中に、十兵衛配下の気のいい10人の柳生侍、
また、柳生流を習いに来ていて、かつ、国家転覆の悪巧みの犠牲にされかかっている美女三人、
その弟ひとり、敵方の女スパイひとりの珍道中も含まれ、
これが妙に楽しく軽やかで、
全体のいい息抜きになっています。
特に、気狂いを装い、十兵衛を誘惑する役の敵方お品と柳生侍が笑える。
なにせ、お風呂を覗き見て十兵衛せんせいにみつかっちゃうというこどもっぽさ(笑)
中のひとりは先の戦闘で生爪はがれているのに、
岩場にはりっつき頑張って覗き見中です。
すばらしい根情。
そんな息抜きが必要なほど、中味はとんでもエログロナンセンス。
魔人軍団の非道っぷりは目を覆いたくなる。
だからこそ、十兵衛さんが引き立ってくるのです。
普段は寝てばかり、
美女には鼻の下を伸ばし、いかにも役にたたなそうな振りをしながらも、
戦わせて見ると実に強い。
この、他の誰も叶わない、柳生侍も弟子の美女すらも彼を引き立てんがため。
いや、敵方の剣豪魔人たちですら、十兵衛の引き立て役。
この、徹底的なヒーローっぷりが、逆に新鮮です。
今の話はナンバーワンよりオンリーワンだからね。
ヒーローを徹底的に際立たせたはなしってのは少ない。
更に、物語の結末は思いもよらない方向へ。
さらりと読めてしまうし、
「こんなのよくあるじゃん?」と思うかも?
いや、いや、ここまで書ける人はまずいません。
第一、この構成でこの読みやすさの時点で、相当の技量です。
やっぱり、天才の所業。