北朝鮮のミサイルと人工衛星 (4/9)
北朝鮮が人工衛星を打ち上げるためにミサイルを発射する。テレビではそれに備えて東京の市ヶ谷を始めとした自衛隊のパック3邀撃ミサイルの配備を報じていた。そして誰もが「北朝鮮はけしからん。でも万が一のことを考えてしっかり防衛して欲しい」という論調だった。
この重要なときに防衛大臣は姿が見えない。大臣に就任して以来、国会での答弁などを見た多くの人がびっくりしてしまった。こんな人が国会議員?!こんな人が大臣?!こんな人が有事の時には直ちに判断を求められる防衛大臣?!と思っただろう。
・・・・・・・・・いろいろなことが頭を巡る・・・・・・・・・
今から15年ほど前のことだったが、機械学会で学会発表の範囲に関する「倫理委員会」があった。その頃、私は機械学会に所属していて倫理委員の一人だった。社会は「倫理」に目覚め、企業ではCSRなどという言葉が聞かれるようになった時代だ。私は科学や工学の倫理を研究していたので、倫理委員になっていた。
話題は福岡で数年前に行われた機械学会で自衛隊で機会学会員の研究者が機関銃の部品についての発表の申し込みをして、発表を断られたと言うことについて、機械学会の倫理規定に「機械学会での発表は平和目的に限定する」という項目を入れるかどうかの審議だった。
座長は東大の教授、そこにいる10名ほどの委員のほとんど全部が「平和目的に限る」という条項を入れることに賛成だった。私は一人反対で「もし北朝鮮が先週はミサイルを仙台に撃ち込んで2000人が死に、今週は宇都宮が標的になって200人が亡くなり、来週は東京に落下させると発表しても、防衛も攻撃もしませんか? 平和の時の平和主義では意味がありません。また武器はアメリカから買えば良いというのは倫理的には日本で作るのと同じだ。私は「軍」というのは「平和」のために存在するのだから、機関銃が軍事目的というのは平和目的と同じだ」と論陣を張った。
場の雰囲気は逆転し、機械学会では倫理規定に軍事研究の禁止を入れなかった。今はどうなっているかわからない。でもその頃(平和だった頃)日本社会には「軍隊は要らない」という人が多く、特に知識人と言われる人は「再軍備反対、軍隊反対」であった。
でも、今朝のニュースを見ていると、また無責任な話だと15年前のことを思い出したものである。日本社会が平和といている間はミサイルの研究を禁止しようとし、北朝鮮がミサイルを飛ばそうとするとパック3を配備することを喜ぶ。アメリカが迎撃ミサイルを供与してくれなかったら、日本が自分で作るだろう。
社会に向かって自分の意見を言ったり、委員会で指導的な立場に立つと言うことはその人に見識があり、一定の考え方に基づいて、しっかりとその論拠を述べられなければならない。機械学会の倫理委員会の委員だから社会的には立派な人だけだったが、それでも「社会の空気の通りにやれば無難だ。事情が変われば変わったで変身すれば良い」と言うのでは情けない。
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もう一つは防衛大臣のことである。彼は新人議員ではない。国会議員になってかなりの年限を経ている。彼は選挙で選ばれてきていて、選挙民は日本国民である。また選挙民はその議員が大臣になってはいけない人だとは考えていない。つまり、彼が大臣としてふさわしくないというのを選挙民に聞かなければわからないと私は思う。
選挙民は数10年のつきあい、よく彼を知っていて、国会議員に選出している。それがわずか数週間の国会の答弁で「大臣の資格がない」と言うことはいくら何でも選挙を馬鹿にしている。議員は選挙民の代表であって、議員が議員だけで独立しているのではない。
防衛大臣がこの重要なときに姿を見せないことについて、現在の報道レベルのことでかたづけず、選挙民は積極的に前に出て、防衛大臣が立派な人であることを強調すべきだ。そうでなければ選挙自体、民主主義自体が損なわれ、都知事の「黙れっ!」や、宮城県知事の「宮城の人は数字がわからない」などと選挙民より知事が偉いという封建時代に戻ってしまう。
国会論戦の場では防衛大臣は、失礼だが猿回しの猿のような感じがした。でもこれは良いことではない。防衛大臣の愚かさを国民がテレビを見て笑っている状態は、その時点で即座に任命した首相が退陣しなければならないほど、民主主義の危機である。
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もう一つは憲法改正である。パック3の配備を歓迎するなら憲法を改正しなければならない。かなり前に社会党が「自衛隊違憲合法論」などと言うムチャクチャな論を立て、日本が憲法や法律を守らずに野蛮な国家に戻ることに力を貸した。現在の司法の堕落にはこのような公党の無責任な態度も問題になっているが、ここは日本国民が「パック3を配備しなければならないのだから、日本には軍隊がいる」と明確に決心しなければならない。
さらに「アメリカはミサイルも原爆ももって良い。アメリカは平和を愛する国だから他国に戦争を仕掛けたりはしない。でも北朝鮮は危険な国だから、だめだ」という論理をそのまま日本が自分の考えのように言うのは問題だ。日本という国は元々他国を侵略する意図が少ない国で、明治維新からしばらくの間、欧米との対抗もあって他国に出たことがあるが、元々の思想はそうではない。それもこの際はっきりさせたい。
(平成24年4月9日)
--------ここから音声内容--------
えー、北朝鮮がですね、ミサイルを上げて、ま、人工衛星を作る準備をするんだと、ま、いう風に発表しております。ま、テレビではそれを備えてですね、えーまぁ東京の市ヶ谷の自衛隊を始め、全国にパック3という迎撃ミサイルをですね、配備したということを放送しとりまして。えー、みなさんの感じはですね、「北朝鮮はけしからん」と、「万が一のことを考えて、ちゃんとして欲しい」という風な論調でした。
えーしかし、このときに、ま、防衛大臣の姿が見えない。えー、もちろんこれはですね、皆さんご存知の通り、防衛大臣に就任して以来ですね、あんまり評判良くなくて。特に国会の答弁を聞いて、ま、「こんな人が国会議員!?こんな人が大臣なの!?」。ま、特に防衛大臣ていったらもう即断を必要とする極めて重要な職ですから、「この人を防衛大臣にしたの!?」という風にですね、みんなが訝(いぶか)ったわけですね。
これを私見てまして、ま、いろんなことが頭を巡りました。まず一つはですね、今から15年ぐらい前のことでしょうか、えー機械学会でですね、「倫理委員会」が開かれました。その当時社会はですね、「倫理」というのに興味を持ちだしまして、えー大学でも学会でも倫理規定を作るのが流行った時代があります。ま、企業ではCSRっていう、ま、これちょっといかがわしいんですが、ま、こういったその倫理の話が出てきた頃であります。
えー問題のきっかけはですね、その少し数年前だと思いますが、博多の機械学会でですね、ええと自衛隊の会員がですね…えー自衛隊員であって機械学会の会員ていう意味ですね。ええと、機関銃の確か部品の研究を発表しようとして、迷った事務局が一応とりあえずやめてもらったというのがあった、と。これをどうするかっていう審議でしたね。多くの人はもちろん、「日本機械学会が平和のためであるわけだから、えー、軍事研究の発表は認めるべきではない」と、ま、座長は東大の先生でしたが。ま、みんなそういう感じでしたね。
私に言わせれば、私に言わせればですよ、「日本社会の空気」に基づいて何の判断もしていないという風に、ま、見えました。私は一人反対でですね、こういう風に言ったんですね。「先週は仙台に北朝鮮からのミサイルが落ちて2000人が死んだ、今週は宇都宮に落ちて200人が死んだ」。このとき仙台とか宇都宮っていう名前を思い出したのは何でかよく憶えてませんが、とにかくそう言ったことは言ったんです。
「“来週、東京に落とすぞ”という風に北朝鮮が言った、それでもみなさんは北朝鮮からのミサイルを迎撃したり、攻撃したりしませんか?」と。「現在はそんなことありませんがそういうことが来た時に、それじゃあ軍事の研究だというんじゃあ意味がない。それは平和時の平和主義と言うんじゃないか」。また「武器をアメリカから買えば良いか?良いんじゃないか」、「機械学会がやんなくっていいんじゃないか、っていうのもダメだ」と、「それは同じことだ」と。
更に踏み込めば、「大体『軍隊』というのは『平和』のために存在するんであって、“機関銃の発表が軍事目的だ”と言うのはどうしてですか?」というような論陣を張りました。私も若かったんでかなり激しく詰め寄りましたから、その場の空気は逆転しまして、その場では機械学会の倫理規定に軍事研究の禁止というのを入れなかったんです。今どうなってるか分かりません。
えーしかしですね、その頃ですね、日本の知識人のほとんどの人が「再軍備反対、軍隊反対」だったんですよね。えー、まぁだけど今はそれから15年経って、今朝のニュースを見てますとですね、その知識人と言われる人たちがコロッと態度を変えてですね、パック3の配備を喜んでるんですよ。いや、どうしてかなぁ・・・それはね、ミサイルが飛んでくるんだから絶対迎撃しなきゃいけないわけですよ、だって国を守らなきゃいけないんですから。
えー、我々の大変な職務はですね、えー子供をですね、そういった危険から守るというのはもう親として最大の仕事ですからね、当たり前のことなんですね。まぁ変な話ですね。えー私がよく最近「空気的事実」、つまりもう社会の空気だけ、全く本人は何にも判断しないということがですね、“あの当時からあったんだなぁ”とあの、ま、いう風に思いましたですね。
えー、もう一つは、まぁ防衛大臣のことですね。彼はね、新人議員じゃないんですよ。かなり国会議員としてはベテランの部類に属しててですね、選挙民は彼を国会議員として何回も選んでるわけです。だから私はね、えー最近その報道なんかがですね、「田中議員はダメだ」とかコメンテーター言ってますけど、ほんとですかね?だって選挙で選ばれてきた人は尊重しなきゃいけないんですよ。自分の意見と違ったって、選挙民がですね、「この人が良い」と思って出してきたわけですよ。そいで国会議員に選出してきてんですから、何回も。それは「大臣になったらいけない」って言うのもバカにした話なんですね。
私はね、これ選挙民の方がもっと声を上げなきゃいけないと思います。えー、「何で彼は防衛大臣としての資格がないのか。そんなことはない!」と。「彼はたまたま口下手だけである」とかね、何か積極的に言って下さい。そうしないとですね、民主主義が壊れちゃいますよ、ええ。
まぁ私は都知事が「黙れっ!」と言ったりですね、宮城県知事がですね、「宮城の人は数字が分からないんだ」と言ってるのを聞いてですね、“いやぁ、選挙民より知事が偉いっていう時代になったのか”と、“封建主義になったんだなぁ、情けないな”と。やっぱり民主主義っていうのはですね、あくまでも選挙をする人たちが正しいという前提が必要なんですよ。だけどまぁ、もちろん社会ですから前提が崩れることありますけど。
防衛大臣がですね、この重要な時に姿を見せないんであれば、選挙民はですね、絶対に論陣を張って下さい。またテレビもですね、どんどんその選挙民のところに行ってですね、「何故、彼を大臣に何回も選んだのか?」、「まさか元首相の、お婿さんだから?」、そういう理由で国会議員にしたって言うんなら、それは選挙制度、ちょっと考えなきゃいけないわけですよね。ま、そういうことですね。
私はですね、実は国会の場で防衛大臣が揶揄(やゆ)されんの見てですね、猿回しの猿みたいな感じがして非常に良くないと思ってました。防衛大臣の愚かさをですね、国民がテレビを見て笑ってるなんてやつはですね、話しになりませんね。もう絶対にまずしなきゃなんないのは、首相が退席することですよ。そいから選挙民が、今度選挙権を放棄すんですかね?何だかよく分かりませんけど、きちっと筋道通して欲しいですね。「選挙民は何故、今の防衛大臣を選んだのか?」「何故首相は大臣に指名したのか?」それをハッキリして下さい。なんか逃げ回ってますけどですね、それはダメだと思いますね、私。それではですね、ちゃんとした民主主義はできないですね。
それから、もちろん憲法改正ですね。えー、パック3の配備を歓迎するなら、憲法改正して軍隊持たなきゃいけません。社会党がですね、「自衛隊違憲合法論」なんつうのやったんですよ、昔。これをやったためにですね、日本の憲法つうのは本当に無視されるようになりましたね。だって、憲法に違反するけども、法律には合ってるって言うんでしょう?だから、憲法と法律が違うっていうわけですよ、ダブルスタンダードだってことを公党の政党の委員長が言うんですからね。ま、今、司法つうのはほんとに墜落したんですが、これはですね、こういうですね、事が行われるっていうことが、あの結局そういう、その日本社会っていうのをダメにしてしまってるわけですから、これが一つありますね。
そいからもう一つ、私これ常々言ってることですが。えー、北朝鮮はミサイルは上げても、人工衛星を持っても、原爆を持ってもいけないけれども、アメリカはミサイルを持っても原爆を持ってもですね、良いっていうこの論理を早くなくせないとですね、世界平和っていうのは訪れないですよ。私はそう思いますね、ええ。やっぱり世界の各国は同じ権利を有すると、これイランとか北朝鮮言っとりますが、私もそう思いますね。
えー例えば、ある多くの国が「あの国だけはダメで、この国は良い」っていうのやり始めますとね、ダメですよ。これは国連安保理の決議があるのに、「何で北朝鮮はミサイルを上げるのか!」なんて言ってますけどね。国連決議っていうものがダメですよ、それはですね。
国連ていうのはですね、どういう思想でできてるかっていうと、3カ国が平等の権利を持ってるんだ、と。だけども安全保障理事会という代表を作って、そこでのですね、5大国が拒否権を使えるっていう権利を与えてるだけですよ。拒否権を与えるということとですね、アメリカは原爆とミサイル持って良いけども、北朝鮮は持っていけないというのとは違うんですよ、これね。これももう、がっちり議論をしてハッキリしなければですね、ダメだと。世界がどうであれですね、日本は筋を通すと、ま、いうぐらいのことをしたらですね、ま、日本の国際的な地位も上がると、私はそう思います。
(文字起こし by danielle)