知の侮辱(10)・・・コンピュータ君は悲観論者 | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

知の侮辱(10)・・・コンピュータ君は悲観論者 (2/13)



コンピュータ君にはなにも悪いところはないけれど、お金が欲しいという研究者に適当に利用されて、不名誉な計算結果を出し続けている。


● 1970年代初頭、アメリカ・MIT(マサチュセッツ工科大学)のメドウス博士が「地球方程式」を作り、それをコンピュータで解いて「成長の限界」という本を出した。

「人間の成長には限界があり、2010年頃から文明は破壊される」という結果だったが、見事、外れている。その原因はコンピュータにあるわけではなく、コンピュータに数値を入れる人間が間違っていたからだ。


● 1988年6月23日、アメリカ・NASA(航空宇宙局)のハンセン博士が「地球温暖化方程式」を作り、それをコンピュータで解いて「地球は温暖化する」とアメリカ上院の公聴会で証言した。


「人間活動ででるCO2によって温暖化し、2010年には地球の平均気温が1℃あがる」と言う結果を述べたのだが、見事、外れている。下のグラフでハッキリわかるようにハンセン博士が演説した年からほとんど気温は上昇していない。



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まったく人騒がせだが、なにしろ「コンピュータ」で計算したというのだから、多くの人がダマされて信じ込んでしまう。でも、方程式を作るのも、コンピュータに近似式を入れるのも(厳密には解けない)、そこで使う数値を入れるのも、みんな人間だから、コンピュータというけれど、人間と言っても良いのだ。


今から5年ほど前、ある専門的な地球温暖化の研究会に出たときに、基本方程式や熱バランスなどの詳しい式の説明があったが、雲の発生、海洋との熱のやりとりなどについて、かなりおおざっぱな数値を使っていた。質問したが、「そこのところは研究が進んでいないので」というお答えだった。


その答えが不誠実であるということではない。研究はその途上で不完全なところを多く含んでいるもので、完璧になってから研究されるものは少ない。だから、研究途上というのはいい加減なものだ。


なにしろ、メドウスの計算もハンセンも、意欲的ではあるし、学問の発展にも寄与したと思うが、結果は間違っていると考える方が普通だ。研究を始めた頃の結果は普通の場合、間違っているものだ。


でも、この頃はマスコミがいるので、「研究の結果はすべて正しい。特に自分の新聞が売れる方向の結果は正しくなければならない」という奇妙な確信を持っている記者が多い。だから、発表から2年も経つと、社会ではすっかり「コンピュータで計算した結果」が正しいことになってしまう。


コンピュータ君にとっては不本意だろう。それに加えてもう一つ、残念なことがあるはずだ。それは「科学の性質から一般的に結果が悲観的になる」、「悲観的な結果しか新聞にでない」という二つの原則があるからだ。


科学は「これまでに判ったこと」から構成されているので、「将来」については無力である。その科学が将来を予測する時には、「過去のことがそのまま続くとして将来は」ということを明らかにしようとするので、もともと原理的に無理がある。だからメドウスは「この計算結果は、現在の状態が何も変わらない場合だけ」と断っているが、それをマスコミが伝えるときに省いた。


コンピュータは人類の発展に役に立つ。だからといって使い方が悪くても役に立つわけではない。将来、コンピュータが自らプログラムを作り、物理や学問を勉強し、自分で入力して計算をするまで、「コンピュータを使って」という表現は慎重にした方が良いだろう。悲観的な結果で社会が右往左往するのは良いことではない。


(平成24年2月13日)


--------ここから音声内容--------




ええと、「知の侮辱」をちょっと、もう一つやりたいと。「コンピュータ君は悲観論者」っていう題を付けました。えー、コンピュータは何も悪いことないんですが、お金が欲しいという研究者に適当に利用されて、不名誉な結果を出し続けています。








その最初の例はですね、これお金が欲しいという研究者じゃなかったんですが、1970年代のときにですね、アメリカのマサチューセッツ工科大学のメドウスが「地球方程式」を作りまして、それをコンピュータで解いて、「成長の限界」という本を書きます。人間の成長には限界があり、2010年頃からは…現在ですね、「現在ぐらいから文明は破壊されていく」という結果でしたが、見事、外れました。









この原因はコンピュータにあるわけでなくて、コンピュータに数値を入れたメドウスの間違いだったわけですね。ただ、メドウスは「私は間違えますから」と言って、「皆さん、間違えることを承知でやってくださいよ。」と「コンピュータはそういうもんですから」とちゃんと分かって、それを書いて計算してる、非常に良心的な学者でしたからそれも付け足してます。







で、1988年になりますとですね、今度は悪いのが出てきます。アメリカのNASAのハンセンですね。「地球温暖化方程式」を作りまして、これをコンピュータで解いて、「地球は温暖化する」とアメリカ上院の公聴会で証言をしました。「人間活動で出るCO2によって温暖化し、2010年には地球の平均温度が1℃上がる」という結果を述べたってのは見事、外れました。下にグラフを示しましたけど、全然変わっていません。







まったく人騒がせなわけですよね。つうのは、皆さん「コンピュータで計算するって言うから、まぁほんとかな」と思って、みんなが騙されちゃうわけですね。だけども、ほんとのこと言うと、冷静に考えれば判るんですが、方程式を作るのも、コンピュータにこれは必ず近似式入れるんですが、近似式入れるのも、数値を使うのも全部、人がやるんですよね。コンピュータっていうけど、それはただ計算するだけなんですよ。計算方法を言ってるだけですね。









今から5年ぐらい前、私がですね、ま、非常に専門家しか集まってない地球温暖化の研究会に出たときにですね、ま、もちろん、基本方程式だとか熱バランスの式なんか詳しい説明があるんですが、どうも雲の発生がどうなるかとか、海洋との熱のやりとりなどが、かなり大雑把なんですよ。私が具体的に「ここんとこは、それで良いんですか?」とか「ここんとこ、それで良いんですか?」と聞きますとね、「ま、そこんところは研究がまだ進んでないので」というお答えでした。この答えは、不誠実じゃないですね。研究っていうのは、必ずその途中で不完全なとこ含みますから、まぁいいんですけど、それを言わなきゃダメなんですね。その先生は非常に誠実な人でしたけど。あたかもですね、ちゃんと計算できるっていうようなこと言うからいけないんですね。







えー、最近はですね、マスコミっていうのは、厄介なのいましてね、「これで研究の結果は全て正しい」と、「だから自分の新聞が売れる方向の研究の結果は常に正しいんだ」っていう変な確信がありましてね。ほいで発表しますと…2年ぐらい経ちますと、マスコミの力でですね、すっかり「コンピュータで計算した結果」は全て正しいことなっちゃうんですよ。それはコンピュータ君にとっては、大変に不本意でしょう。









で、もう一つ非常に残念なことがあるのはですね、ええと、「科学の性質から一般的に結果が悲観的になる」というふうになるわけですね。「悲観的な結果になると新聞に出る」ということで、いつもコンピュータで計算したやつは悲観的なんですよ。例えば、人口がもうこれあふれて困っちゃうとか、そいから、地球が成長が止まっちゃうとか、地球が温暖化とか、悪い結果ばっか出るんですよ。










これなんでかって言うとですね、科学は「これまでに判ったこと」から構成されてるんですから、「将来」については全然ダメなんですね。そうしますと、コンピュータで計算しますとね、「過去のことがそのまま続くと、将来はどうなるか」って計算するんですから、それはダメになるんですよね、当たり前ですね。










平安時代の状態がずっと続いたらどうなりますか?…それダメでしょうね。原爆を落として、原爆が無くならない状態で、どんどん広島・長崎みたいに原爆落とされたらどうなんですか?…いや、それではダメでしょうね。だから、コンピュータっていうのは、過去の結果を入れて計算して将来を見るということをやっちゃ、ほんとはいけないんでしょうね。つまり、コンピュータの使い方が間違ってるということになるんです。








えー、コンピュータがほんとに自分でプログラムを作ったり、自分で勉強してやるんだったらまだいいんでしょうけど、人間がコンピュータを使うという場合に、人間の頭に欠陥がありますからね。どういう欠陥かっていうと、過去のものを参考にしてしか自分の頭は構成されない、という欠陥がありますね。










私がよく言うんですけど、19世紀に電気だとか、そいから蒸気機関車が発明されて、ものすごく科学が進んだんですね。で、19世紀、今から110年前の終わりにはですね、もう何にも発明されないって言われたんですよ。だから「もう20世紀は何の発明も無いだろう」と言われたんですね。ところが20世紀開けますと、飛行機は飛ぶし、自動車はできるし、相対性原理はできるしですね、まぁ家庭電化製品からエレベーターから何からできて、ついに携帯電話までできるようになるわけですね。








また21世紀は大きく進歩するでしょう。それは我々の頭ん中に入ってないので、どうしても人間は悲観的になる。その悲観的になった人間が計算をするからダメになる、と。ま、こういうふうになるのでコンピュータ君は可哀想に、いつも悲観的なものばっかをやらされるということになる、とまぁそういうことですね。


(文字起こし by danielle)